これからの「正義」の話をしよう

0
    これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学
    これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学
    マイケル・サンデル,Michael J. Sandel,鬼澤 忍

    巷で話題の、マイケル・サンデル著
    『これからの「正義」の話をしよう』を読みました。

    著者はハーバード大学で政治哲学を教える教授。
    講義の「Justice」は一番人気を誇る白熱授業なのだそうです。

    実際に本を読んでみるとむべなるかな。
    「正義とはなにか? なにが正しいことの基準なのか?」を
    キークエスチョンにして文章が展開していきます。

    まず本自体の感想から述べると、大変読みやすく、
    わかりやすく、そして知的刺激にあふれた本でした。
    ベンサム、カント、ロールズ、アリストテレスといった
    歴史上の哲学者の思想も引き合いにだしながら、
    それらを実に丁寧かつ明快に解説しています。

    特にカントなんぞベストオブ読みにくい本で
    Ticoも大学時代は哲学科でしたから手をつけたものの
    難解すぎて早々に投げ出した記憶があります。
    それをあそこまで分かりやすくほぐしたのはお見事!

    また、時折挿入される「実例」も理解の助けとなっています。
    アメリカだけにパープルハート勲章の授与とかがでてきますが、
    あえて日本版の実例を挙げてみるとこんなところになるでしょうか。

    ・ニート支援対策に国費を投じるべきか。
    ・法人税を下げて消費税を上げるのは妥当な措置か。
    ・NHK受信料の支払いを拒否するのは正しいのか。
    ・在日外国人に参政権を付与するべきか。
    ・過去の植民地支配に対して韓国に謝罪すべきか。

    上三つはともかく、下二つはなかなかセンシティブな問題ですね。
    とはいえ、Ticoは読みながら上記のような疑問を設定しては
    うんうん考えてみたりしたのですよ。

    さて、面白さでは折り紙つきといえる本書ですが、
    注意すべきなのは、著者なりの主張があって、それに沿って
    引用がなされたり、論旨の展開が行われていることです。
    別にこの本に限ったことではないですけどね。

    サンデル氏がお嫌いなのは、
    幸福を計量可能なものとして扱い、
    最大多数の最大幸福の実現こそ正しいとする
    ベンサムに代表される功利主義。
    そして、個人の自由こそ至上のものであり、
    それを束縛することはどんな理由でも許されないとする
    リバタリアニズム(自由至上主義)。

    この二つについても分かりやすく解説してるのですが、
    一方で反証としてあげてくる論旨は極端な例を設定しています。

    逆にサンデル氏がお好みなのは、
    カント、ロールズ、アリストテレス。
    これらについても丁寧な解説と、公平を期すために
    それぞれの思想の弱点もあげているのですが……

    どうも呼んでいて好き嫌いの哲学思想で、
    特に弱点部分の取り上げ方にえこひいきを感じました。
    まあお好み三者がサンデル氏の主張の基礎になってるから
    致し方なしとはいえ、鵜呑みにして読むと危ないなあ。
    こういう本に手をだす人は、リテラシー訓練は
    積んでいるとは思うのですが。

    最後にサンデル氏が主張するのは、共同体の連帯です。
    これに従うことがどうやら適切な正義という位置づけでして、
    その結論にはかなりの説得力があります。

    たとえば、
    日本に住んでいて日本人ならではの美徳や思考を持っていて、
    日本という国に愛着を持ち、それに貢献することを正義と感じるのは
    まあ自然な流れでしょう。

    ですが、あえてサンデル氏が手をつけていない問題があります。

    ・共同体の構成員の資格はそもそもどのように定めるべきなのか?
    ・共同体同士で価値観が異なる場合何が正しい価値判断なのか?

    現代はグローバリズムの時代で、社会に次々と外国人が進出し、
    あるいは日本人も外国へ出て行く時代です。
    そして国と国はいやおうなく密接に関係することになり、
    どこかの国の問題は、その国だけで済む話ではなくなっています。

    いきなりコスモポリタンというのも無理な話ですが、
    「これからの正義」を話すのであれば、グローバリズム時代への
    処方をこそ論述すべきだったのではないかと疑問が残りました。

    ちなみにTico個人の考えとしては、グローバリズム時代に
    対処できる普遍的な正義というのはいまはまだ存在できないと思います。
    個々の人間や組織や国が持つそれぞれの正義をしっかりともちつつ、
    しかし、他者の正義もいったんは認め、そこから粘り強く対話を
    繰り返すことでしか、実際に有効な処方はないのではないでしょうか。

    と、なにやら熱く語ってしまいましたが、実に面白い本でした。
    読後の感想はもちろん、結論に対する評価も各個人で違うと思います。
    それは哲学的には適切なことですから、なんら問題にはなりません。
    読むことで価値観や判断基準を深く考える契機になるといいですね。

    コメント
    こんにちわ!
    わたし、ticoさんより早く購入したのに、まだ読み切れていないです。
    面白いなあと思いつつ、70ページくらいでとまちゃってます。

    わたしの苦手な分野だったりして、頭にすっと入っていかないんです。

    美学芸術畑のわたしには、ここでいう快楽や幸福や利益がいったいどういうものを指して言っているのかわからなくて、功利主義の話の辺りで止まってるんです。

    快楽の反対が苦痛で、幸福の反対が不幸だという前提のような感じでイメージわかなくて…。

    ミルもベンサムも変態じゃなかろうかと別のことに関心もってしまってね。

    また教えてください。
    • mame
    • 2010/09/07 10:10 AM
    コメントありがとうございます。

    功利主義の話はたしかに読んでいて
    「なんか変態だなあ」とは私も思いました(笑)
    “快楽とは苦痛を水で薄めたようなものである”という
    サド侯爵の言葉が頭をよぎったりして。

    あまり理解できない部分は
    飛ばしてもいいかもしれません。
    むしろ実例部分を拾って読んでいって、
    それから理論的な箇所を読みかえす、
    といった読書法もありなのではないでしょうか。

    実際の講義でもまずは具体例を挙げてから
    学生の意見を求めて、それから理論問題にいくみたいですよ。
    • Tico
    • 2010/09/07 10:25 AM
     ……隊長、何だか「らしくない」ですよっ?(違)。まぁ、冗談は
    ともかく、こうして色々な思想に触れて批評して考えるのが隊長の
    良い所ではないかと常々思ってます。人の意見に耳を傾けますけど
    鵜呑みにする事はないですからね。落ち着きはないですけど(笑)。

     正義に関しては結局人間が個の存在である以上、グローバルには
    成立し得ないのではないかと私は考えてます。それこそ価値観とも
    同じく個人個人で分かれたままでは無理ではと。もっとも私の場合
    価値観・主義主張の多様性こそが文化・文明の進化には欠かせない
    事と考えますから普遍的な正義なんて永遠に必要ないと思いますし
    様々な対立の中から未来に向けてなすべき事を各々が見出して行く
    過程そのモノが種としての人間の意義ではないかと考えるのです。
    • Lumina
    • 2010/09/07 11:20 AM
    >Lumina殿

    コメントありがとうございます。

    らしくない、とは何事かー(ぷんすか)。

    実際問題、すぱっと解決できる問題ではないと思いますよ。
    一人の人間の中でさえ、ある局面では功利主義的に考え、
    別の局面ではカント的に考え、ということが
    あって正義の判断基準はパッチワークな気がします。

    ちなみに人類全体が共有できる正義ができたとしたら、
    それは宇宙人が来て戦争になったときでしょうね。
    そんな場合にしか実現を見込めないのはなんだかなあという気もしますが。
    • Tico
    • 2010/09/07 12:56 PM
    コメントする








       
    この記事のトラックバックURL
    トラックバック

    calendar

    S M T W T F S
    1234567
    891011121314
    15161718192021
    22232425262728
    293031    
    << July 2018 >>

    @ticoruzel on Twitter

    selected entries

    categories

    archives

    recent comment

    • 鹵獲! 鹵獲!
      Cattail
    • 艦これファンジンSS vol.7 「アイドルと最古参のギグ」
      Tico
    • 艦これファンジンSS vol.7 「アイドルと最古参のギグ」
      Lumina
    • 艦これ クリスマスシーズン!
      Tico
    • 艦これ クリスマスシーズン!
      Lumina
    • 艦これファンジンSS vol.6「デライト・ティーパーティ」
      Tico
    • 艦これファンジンSS vol.6「デライト・ティーパーティ」
      Lumina
    • 艦これファンジンSS vol.5 「記憶を抱きしめて」
      Tico
    • 艦これファンジンSS vol.5 「記憶を抱きしめて」
      Lumina
    • 艦これファンジンSS vol.4 「命短し恋せよ艦娘」
      Tico

    recent trackback

    recommend

    吉田の日々赤裸々。2 プロデューサー兼ディレクターの頭の中
    吉田の日々赤裸々。2 プロデューサー兼ディレクターの頭の中 (JUGEMレビュー »)
    吉田直樹
    FF14のPにしてDである吉田直樹氏が四方山話を語る連載コラム! 開発の裏側から仕事のやり方、ゲーム業界への意見など、その話題は実にワイド!

    recommend

    吉田の日々赤裸々。 『ファイナルファンタジーXIV』はなぜ新生できたのか
    吉田の日々赤裸々。 『ファイナルファンタジーXIV』はなぜ新生できたのか (JUGEMレビュー »)
    吉田直樹
    FF14を文字通り「建て直した」プロデューサー兼ディレクターである吉田直樹氏の連載コラム! FF14新生の裏側がこれ一冊でよくわかる?

    recommend

    ハクメイとミコチ 1巻 (HARTA COMIX)
    ハクメイとミコチ 1巻 (HARTA COMIX) (JUGEMレビュー »)
    樫木 祐人
    不思議な小人たちの織りなす不思議な生活ストーリー。独特の世界観と緻密な描写をどうぞご堪能あれ。

    recommend

    ハヴ・ア・グレイト・サンデー(1) (モーニング KC)
    ハヴ・ア・グレイト・サンデー(1) (モーニング KC) (JUGEMレビュー »)
    オノ・ナツメ
    「ACCA13区監察課」のオノ・ナツメが送る、日常系ゆるやかストーリー。初老の作家と彼の息子、そして娘婿が織りなす、たのしい日曜日の過ごし方。

    recommend

    ACCA13区監察課 外伝 ポーラとミシェル (ビッグガンガンコミックス)
    ACCA13区監察課 外伝 ポーラとミシェル (ビッグガンガンコミックス) (JUGEMレビュー »)
    オノ・ナツメ
    ACCA本編からスピンオフした外伝。ポーラとミシェル、二人の幼馴染の心の交流を通じて穏やかなガールズラブを描く。

    recommend

    Eorzean Symphony: FINAL FANTASY XIV Orchestral Album【映像付サントラ/Blu-ray Disc Music】
    Eorzean Symphony: FINAL FANTASY XIV Orchestral Album【映像付サントラ/Blu-ray Disc Music】 (JUGEMレビュー »)
    ゲーム・ミュージック
    FF14を彩る珠玉のBGM、そのオーケストラコンサートの様子を収録の一本! あの思い出の曲が大迫力でよみがえる!

    recommend

    ファイナルファンタジーXIV コンプリートパック|ダウンロード版
    ファイナルファンタジーXIV コンプリートパック|ダウンロード版 (JUGEMレビュー »)

    これ一本でエオルゼアが全詰め! 全世界1000万ユーザーが遊ぶFF14へいざ君も旅立とう!

    links

    profile

    search this site.

    others

    mobile

    qrcode

    powered

    無料ブログ作成サービス JUGEM