艦これファンジンSS vol.41「あの子のフレーバー」

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    ちゅっちゅして書いた。やっぱり反省していない。

    というわけでインターバルが短いですが、
    艦これファンジンSS vol.41をお届けします。

    pixivの「二次創作小説道場」グループでの企画お題作品として執筆したものです。
    ちなみにテーマは「キス」であります。
    5000文字レギュレーションにのっとっておりますので、
    普段のTicoの作品よりはお気軽にお読みいただけるかと。

    キスの味って色々にたとえられますが、天津風を軸にちょっと艶っぽいものを書いてみました。
    一応、レーティングではR-15かな? 軽い百合シーンを含みますのでご注意ください。

    ちなみに登場する駆逐艦娘四人組ですが、『艦これ作戦手引書』の表紙から着想を得ました。
    しずまよしのり先生の駆逐艦娘はみんなキュートですよね……はふう、いいものです。

    最後にいつものお約束の文言として、
    「うちの鎮守府」シリーズは単体のエピソードでお楽しみいただけるように気を使っております。
    vol.41ですが、本作だけでもお読みいただけますのでお気軽にどうぞ。


    それでは皆様、ご笑覧くださいませ。


    ---------------------------
    ベッドサイドのスタンドだけが部屋の明かりだった。
    ほのかな光に照らされながら、彼女は隣のベッドで寝る相方を見つめていた。
    相方の顔を――いや、正確には、ぷっくりとやわらかそうな唇を。
    見つめる彼女は亜麻色の髪を流し、白い頬をわずかに上気させていた。
    寝巻きを着たいまの姿はどこにでもいそうなローティーンの女の子にしか見えない。
    だが、それはあくまでも見た目だけの話だ。海にあって彼女は無双の戦士である。
    艦娘。人類の脅威たる深海棲艦に対抗しえる唯一の存在。
    だがいまは、胸を高鳴らせながら相部屋の同僚を見つめる少女にすぎない。
    彼女はそっと枕元に歩み寄った。相方がすうすうと寝息を立てるのが聞こえる。
    より近くに見える唇は、花のつぼみにも、熟す前の果実にも見えた。
    ついばんでみたら――キスしたら、どんな味がするのだろう。
    止まらない胸の鼓動に、彼女はさらに枕元に近寄る。
    駆逐艦、「天津風(あまつかぜ)」。
    それが彼女の艦娘としての名前である。

    「深海棲艦」という存在がいつから世界の海に現れたのか、いまでは詳しく知るものはない。
    それは突如、人類世界に出現し、七つの海を蹂躙していった。
    シーレーンを寸断されて、なすすべもないように見えた人類に現れた希望にして、唯一の対抗手段。
    それが「艦娘」である。
    かつての戦争を戦いぬいた艦の記憶を持ち、独特の艤装を身にまとい、深海棲艦を討つ少女たち。
    兵器でありながら乙女の心を持つ彼女たちは、年頃の女の子であることに変わらない。
    ロマンチックな話には興味津々だし、試してみたいと思うのもまたしかりなのだ。

    そもそもは昼間に甘味処で、ある艦娘がこんなことを言い出したことが原因だ。
    「知ってました? キスってライムの味がするそうです」
    唐突な言葉を耳にして、天津風は口に含んだかき氷を吹きそうになった。
    言い出したのは、栗鼠に似た印象の艦娘。駆逐艦娘の雪風(ゆきかぜ)だ。
    「するそうです、って――それ誰に聞いたのさ」
    天津風の横に座る艦娘がじとりとした目で雪風を見やった。
    ふわりとした髪型が子犬のような印象を与える――駆逐艦娘の時津風(ときつかぜ)だ。
    「プリンツさんです。朝の演習でお会いした時に言ってました」
    「あなた、またあの人とつるんでいたの?」
    天津風はあきれた声をあげた。プリンツとは、プリンツ・オイゲンのことだ。
    最近、この鎮守府に合流した重巡娘。そしてドイツから来た海外艦娘。
    いかにもハイティーンのお姉さんといった外見と気質の重巡娘からすると、
    駆逐艦娘は下級生かはたまた愛玩動物にしか見えないらしい。
    重巡娘が駆逐艦の子を可愛がるのはめずらしい話でもないとはいえ――
    つい先日に作戦で同行してから、プリンツ・オイゲンは雪風にやたらとご執心なのだ。
    よからぬ下心がなければいいけど、と天津風は心配でならない。
    ドイツの艦娘はどうも信用ならない。ましてや雪風は戦績こそエースだけど、性根はまるきりお子様なのだ。
    「つるんでるとか良くない言い方です。プリンツさんは良い人です」
    「でもあんた、あの人の話をする時、どこかびくびくしてるわよ?」
    天津風が言うのに、雪風がむうっと口を曲げて黙りこくった時、
    「いっちばーん!」
    唐突に声があがった。
    声の主は雪風の隣の艦娘――長い亜麻色の髪に兎を思わせる黒い大きなリボン。
    かき氷を最速でたいらげたのは、スピード自慢の島風(しまかぜ)だ。
    「なになに? キスの話?」
    島風が訊ねてくるのに、天津風は肩をすくめてみせた。
    「ライムの味がするんだって――そんなことあるわけないじゃない」
    答えてみせると、首をかしげた島風が雪風に向き直ってまじまじと見つめる。
    そしておもむろに、雪風を抱き寄せると彼女の唇をついばんでみせた。
    「なっ……なにをしてるのっ!?」
    天津風が目をむいて言うと、島風はすぐに唇を離してみせる。
    された方の雪風はというと、よく分かっていないのか、目をぱちくりとしていた。
    島風は自分の唇をぺろりとなめると、つまらなそうに言った。
    「……なんだかミルクの味がする」
    「そりゃそうだよ。みぞれミルクのかき氷食べてるんだから」
    時津風があきれたように、ふうとため息をついた。
    「キスの味なんて直前に食べていたものの味じゃないのさ――そうでしょ?」
    時津風が天津風の袖をひっぱってみせた。同意を求める、上目遣いの眼差し。
    「えっ、そっ、そうね……うん」
    天津風はというと、どぎまぎしながら答えていた。
    いきなりで驚いたのだ。島風がキスしたのも、雪風が拒まないのも。
    そして、急に話題を振られて、視線はついあるところに向いてしまう。
    子犬のように愛くるしい時津風の――ぷっくりした桜色の唇に。
    「……どこ見てんのさ」
    時津風が口をとがらせる。
    きゅっとすぼまった唇を見て、天津風は頬を赤らめて目をそらした。
    「ふ、ふん。キスがライムの味なんてするわけないじゃない」
    慌ててごまかすと、天津風はかき氷をスプーンですくって口に含んだ。
    氷の冷たさが熱っぽい喉をそっとなぜていった。

    天津風も時津風も雪風も、同じ陽炎型の駆逐艦娘だ。
    島風は姉妹艦ではないが、天津風とは縁がある。親戚筋といえなくもない。
    姉妹とはいえ、駆逐艦娘は数も多い上にお互いに似ていることも少ない。
    駆逐艦娘どうしは、むしろ親しい友人同士の関係になることが常だった。
    天津風にとっては、島風は兎のようによく跳ねる元気の良い従妹、
    雪風は小動物みたいに可愛らしい友人、時津風は子犬のようにじゃれついてくる仲良しだ。
    そして、四人の中では自分が一番お姉さん――天津風はそう思っている。
    だというのに、雪風がキスのことを話題にし、島風が実際にキスしてみせて、
    時津風は「キスの味なんて」とバッサリ切ってみせるなんて。
    自分だけ置いてけぼりにされて、天津風はちょっと悔しかった。
    (わたしだってキスぐらい分かるもの――したことはないけれど)
    そう思いながら一日過ごして、消灯時間になっても内心で悶々としていた。
    こんなこと、寝てしまえば忘れられる。
    そう考えて布団をかぶったものの、まんじりともしない。
    (……時津風はもう寝ちゃったかしら……)
    布団から顔を出し、隣のベッドを窺う。
    暗がりの中、丸まって寝ている時津風がシルエットになって見える。
    天津風はそっと手を伸ばし、ベッドサイドの灯りを点けた。
    やわらかい光に照らされて時津風の顔が浮かび上がる。
    “相部屋の君”は、気持ちよさそうに眠っていた。夢でも見ているのか――
    ときおり、むにゃむにゃと何事かをつぶやき、そのたびにさくらんぼのような唇がうごめく。
    すっかり寝入っている彼女の様子に、天津風は思ってしまった。
    いまなら――この子が寝ているこの時なら、キスを試せるかもしれない。
    自分だけ仲間はずれなのはいやだ。
    お姉さんのわたしが知らないままはいやだ。
    天津風はそっとベッドを抜け出した。忍び足で時津風の枕元に歩み寄る。
    目は時津風の唇に釘付けのまま、思わずごくりと唾を飲み込んでしまう。
    雪風でミルクの味がするのなら――時津風はどんな味がするのだろう。
    食事も終えて歯も磨いてきれいにした後なら、食べたものの味などしないはず。
    それなら、キスの味はいったいどうなるのかしら。
    ――どのくらい見つめていただろうか。
    ややあって、天津風は軽くうなずき、そっと時津風の顔に近寄った。
    目を細めて、唇を寄せて――時津風の唇に重ねた。
    あたたかく湿り、ほのかに甘い匂いのする、やわらかな触感。
    「…………ッ」
    唇に電流が走ったような感覚を覚えて、天津風はたまらずねぶった。
    どんな味とかいう以前に、たとえようもなく甘美だった。
    (――うそっ、キスってこんなに気持ちよかったの!?)
    こらえきれずに、何度も何度も時津風の唇をついばむ。
    そのたびに天津風はふるっと体を震わせた。
    鼻息が荒くなるのを感じながら、やめどきがわからない。
    唾液があふれてきて、ぴちゃぴちゃとかすかに音を立て始めたとき。
    「むにゃ……うにゅ……ふぁ……へっ?」
    時津風がむずがりながら、ぱちっと目を開けた。
    はたして天津風は唇を重ねたまま、固まってしまっていた。
    唇が重なったまま、二人の時間がしばし停止していたが。
    「わあああぁぁぁぁぁ!」
    先に我に返ったのは時津風だった。悲鳴をあげると枕を抱きしめたままあとずさり、
    ベッドから転げ落ち、腰を抜かしたままずりずりと壁まで逃げていく。
    天津風は冷や汗がどっと吹くのを感じた。
    「あの……時津風? 違うの、これはその……ね?」
    「ね? じゃないよお! 人が寝てる隙になにしてんのさ!」
    時津風はいやいやと首を振りながら立ち上がった。
    枕を抱っこしたまま、ずんずんと足音も荒々しく部屋の扉の方へと歩いていく。
    「ちょっと、こんな夜中にどこに――」
    「雪風の部屋! 今夜は天津風と一緒の部屋はやだ!」
    眉をしかめて時津風は声をあげると、ばたんと扉を開けて出て行った。
    見送る形になった天津風はたまらずうなだれた。
    怒らせてしまった。恥ずかしいことをしてしまった。
    それなのに――まだ唇にキスの心地良い感覚が残っている。
    天津風は切ない顔で右の人差し指をくわえた。
    指を包みこむ唇には、じんじんとしびれた感じがまだくすぶっていた。

    翌朝。天津風は寝不足の顔で洗面所に立っていた。
    歯磨きブラシをくわえながら、ぼんやりした頭を振ってみせた。
    結局、夜はあのまま指をねぶりながらなかなか寝付けなかった。
    どうにか睡眠をとれたのは窓の外がうっすら明るくなってからだ。
    コップに水をそそぎ、口をゆすぐ。
    唇からは、もうあのしびれた感じは消えうせている。
    いっそ夢だったのかと思ったが、朝起きても時津風のベッドは空のまま。
    であれば、やはり自分はやらかしてしまったのだ。
    「……なんて謝ろう」
    頼りない声でつぶやいた時だった。
    「……おはよ」
    むすっとした時津風の声がいきなり背中にかけられた。
    はっとして顔を向けると、じとっとした目つきの彼女が隣の洗面台に立つ。
    顔には不機嫌そうな感じを隠さず、天津風の方をちらりとも見ない。
    彼女の様子に、天津風はいたたまれなくなって、顔をうつむけた。
    「……ごめんなさい」
    かろうじて言えた謝罪は蚊の鳴くように小さな声だった。
    「そんだけ?」
    相変わらずぶっきらぼうな時津風の口調に、天津風はしょげた。
    「あれは、ちょっとした気の迷いなの……なんでもするから、許して」
    「――なんでも、って言った?」
    「……うん……」
    「じゃあ、目を閉じてよ」
    時津風の言葉に、天津風はおそるおそる目を閉じた。
    思わず身体をこわばらせる。
    てっきり平手打ちが飛んでくるものと予感したからだ。
    だが、その覚悟は、不意に唇に押し当てられたやさしい感覚で吹き飛んだ。
    あたたかでやわらかで、湿っていて、甘やかな触感。
    目を開けると、時津風の唇が自分の唇に重ねられていた。
    どうして――そう思った瞬間、時津風が下唇を吸いながら離していく。
    唇を完全に離すと、時津風はにやりと笑って言った。
    「これでおあいこだね――キスしてほしいなら、言えばよかったんだよ」
    「怒って……ないの?」
    「だましうちしたのは怒ってるよ……でも」
    時津風がはにかみながら言った。
    「キスの相手が天津風なら、別にいやじゃないよ。仲良しだもん」
    彼女の言葉に、天津風は目を潤ませた。
    時津風がそっと手を伸ばした。指で天津風の唇をなぞって言う。
    「さっきのキス、ミントの味がした」
    「……歯磨きしてたもの」
    「じゃあさ」
    時津風が天津風の顔を下から覗き込みながらささやいた。
    「演習の後、酒保でライムのジュース買おうよ」
    その提案に、天津風はくすりと笑った。
    「……みんなで飲むの?」
    「うん、そうしてキスしたら、雪風がご期待の味になるよ」
    時津風が目じりを下げて――そうして、再び唇を寄せる。
    「でも、わたしは天津風のミントが好みだなあ」
    目を合わせて、くすくすと二人は微笑みあった。
    そうしてもう一度、お互いの唇を重ねたのだった。

    〔了〕

    -----------------------------------

    いかがだったでしょうか。
    ちょっと色っぽいキャッキャウフフを楽しんでいただけたのなら幸いです。

    こういう5000文字作品はまた機会をみつけてぼちぼち書いていきたいですね。

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