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2020.04.10 Friday

スオミさんはお困りです ep.6〔後編〕

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    はーい、Ticoです。

    こちらは本日アップのドルフロファンジンノベル、

    「スオミさんはお困りです」ep.6の後編となります。

     

    ここから見ちゃって「よっしゃ、読んだろか」というありがたいお客様は

    こちらのリンクから前編へお越しくださいませ。

     

     

    (後編本文も長いので折り返し〜)


     

    「あの……おじゃまではなかったですか?」

     左手でパーカーの裾を引っ張りつつ、右手は胸元に当てながら。

     スオミはおそるおそるといった感じで声をかけた。

     唐突な訪問を予期してなかったのか、指揮官は目をぱちくりさせていたが、

    「――いや、大丈夫。ちょうどいま終わったところだから」

     そう言うと、少女に向かってにこやかに微笑んでみせた。

    「それで? いったいどうしたのサ?」

    「……いえ、お仕事忙しいようなら、お手伝いしようかと思ったんですけど、終わったらもういいですよね。うん、はい、それでは――」

     愛想笑いを浮かべながらきびすを返して少女が立ち去ろうとした時、

    「ちょい待ち、スオミちゃん!」

     指揮官がひょいと手を伸ばして、指でパーカーをつまんだ。

    「ひゃあ!? 何するんですか!? めくらないでください!」

    「いや、その気はないけど、めくってほしかったの?」

    「ちがいますっ! なんなんですか、もう!」

    「ああ、いや。せっかく来たんだから、別の任務をと思って」

     任務、という言葉を聞いて、スオミがハッと表情を改める。

    「――なんでしょうか? なにか〔リトルミス〕に危険でも……」

    「ああ、うん、まずそこのビーチチェアに腰かけて」

    「はい」

    「そうそう、それでこっち向いて」

    「……はい?」

    「うんうん、それでにっこり笑って〜」

    「なんですか? なんなんですか!?」

     スオミは別の意味で頬が真っ赤になっていた。

    「ああ、ほらまた湯気が立っちゃうよ――えっと、さ」

     指揮官が少しはにかみながら、言った。

    「仕事かたづいたし、潤いの時間としておしゃべりとかどうかな――」

     それを聞いた少女の目つきが剣呑なものになる。

    「……わたし、指揮官との会話って、おちょくられてるメモリしかないんですけど」

    「えーっ、そんなことないよ? 楽しい会話もいっぱいしたよ?」

    「……そうですか?」

    「あ。さてはまるっとアーカイブ層に放り込んでるな、きみ」

     指揮官の指摘に、スオミはぷうと頬をふくらませた。

    「こうでもしないと整理がつかないんです。指揮官はちょっかいばかり出すし、恥ずかしいことしか言わないんですから。放置しておくとメモリの中がぐちゃぐちゃになって、メンタルモデルがおかしくなりそうなんですよ」

    「……それっていつからなの?」

     急に振られた質問に、少女は眉をひそめた。

    「ええと――半年ぐらい前からでしょうか。感情パラメータが落ち着かないと思ったら、メモリが思考パルスに干渉していて、なにかトラブルになってる感じでしたから――ややこしそうなのは全部アーカイブ層に入れたんです」

     そこまで言って、少女の目つきがまた剣呑になる。

    「ただ、最近デフラグ中にアーカイブ層のメモリがあぶくみたいに浮かんでくることがあって、ちょっと困ってるんですよ。過去の恥ずかしいことが、認識領域へ不意に出てきて、すごく面食らうんですから」

    「……それはそれは。嬉しいような、申し訳ないような」

    「喜んでどうするんですかっ、わたしは困ってるんです」

    「そっかー。じゃあ、スオミにひとつ教えておこう」

     指揮官はスオミをじっと見つめた。煌めくパープルタイガーアイの瞳が、スオミの視覚素子を透かして、思考回路に直接呼びかけるようだった。

    「もし、きみが本当に困ったとき――誰かにきみの命や尊厳をおびやかされそうなときは、アーカイブに溜まってるメモリを全部解放しなさい。わたしとのキャッキャウフフな記憶が、勇気と奇蹟を授けてくれると思うよ……って、なんだい! その疑わしげな目は?」

     はたして少女は上目遣いのまま、自分の主をにらみつけていた。

    「……鉄血との戦闘中で、いきなりこんな羞恥満載のメモリで認識領域をぱんぱんにしたら、呆けている隙にたやすく撃ち殺されるじゃないですか……」

    「ンンン、そうかな? 想いは力になるものだよ?」

    「指揮官を呪いながら銃を撃ちまくりそうなんですけど」

    「はは、それはそれで頼もしそうだネ」

     そこまで指揮官は言うと、すっと目を細めて少女のパーカー姿を眺めた。

    「それより、ほんとは別の用があったんじゃない?」

     にんまりした笑みに、スオミはたちまち頬を染めた。

    「な、ななな……どうしてわかるんですか?」

    「はははー。そりゃ長いつきあいだもの」

    「くぅ……」

     スオミは悔しそうな呻きを漏らすと、恥じらい気味にささやいた。

    「えっと――水着姿、ちゃんと見せてなかったな、と思ってですね」

    「ああ、うん、そだね。スオミちゃん、明らかに恥ずかしがっていたから、あんまりじろじろ見ない方がいいかなと思って……」

    「なんでこういう時は気づかいするんですかッ」

    「いや、視界の端でちらちらと盗み見てはいたヨ?」

    「結局見てるんじゃないですか!」

    「でも、近くでちゃんと見たいのは、もちろんある」

     ふわっと優しく微笑んでみせる指揮官。

     少女はうつむくと、立ち上がり――ぷいと彼女に背を向けた。

    「え、なんでそっち向くのサ」

    「目の前でパーカー脱ぐとか、恥ずかしいじゃないですか……」

    「いや、結局見てもらうために脱ぐのに?」

    「ジッパーとかに目線が留まりそうで恥ずかしいんですっ」

     スオミは声をあげると、そっとパーカーを脱ぎ始めた。

     

     白い薄手の布地がふわっと空気をはらみ、徐々に少女の肢体をあらわにする。首で結ぶタイプのトップのため、背中はほぼ開いている。なめらかな白皙の肌が、しっとりと水分を含んで艶めかしく光る。ふぁさと下がった羽衣のようなパーカーを、床に落ちないように少女がそっとビーチチェアに置いた。少し突き出す形になったヒップは、大地の恵みを存分に受けた桃のような、柔らかでみずみずしい張りをしている。そして、そこから伸びた脚はすらりと伸びつつも、ふわふわした感触を思わせる豊かな肉づきで、精悍さを芯に蠱惑の色合いが包んでいるようだった。

     そして、ややためらいがちに、少女が向き直る。

     決して高いとはいえない背丈。すらりとしているというには、全体的に豊満さの方が目立つだろうか。体の輪郭はゆるやかに弧を描いて、頭の先から足の先まで丸みがつきることはない。ふかふかとやわらかそうな、あるいはむっちりと張りのありそうな肢体は、白皙の肌でなめらかに覆われている。しかし、磁器人形のような冷たさはない。丸みを帯びた身体はあるいは光に反射し、あるいは影を作り、それが多様な肌色を生み出すかのように見えて、艶めかしい輝きをしている。

     羞恥で頬を軽く染めて、少女は少し顔をそむけていた。

     左腕はだらんとさげて、それを右手でつかんでいる。ちょうど右腕がバストを隠すような形になっていたが、少女の腕ではその豊かな双丘を隠すことはかなわず、むしろ腕に圧迫されて胸の谷間が強調されていた。

     それを見た指揮官は――見入られたように、スオミから目を離そうとしない。

     一言も発さずに、スオミの肢体を隅から隅まで何度も視線でなぞっていく。舐めるようにじっとりとしたものでなく、むしろ奇蹟の出来栄えの雪像を溶かすまいとするように、傷つけないように羽毛でそっと撫でるかのごとく、柔らかく優しいまなざしだった。

     

     どのくらい、そうしていたのか。

     時間が止まったかのような空気を先に破ったのは、少女の方だった。

    「あの……どこか、変でしょうか?」

     おずおずと発せられた言葉に、指揮官がハッとした顔で目をぱちぱちさせ、

    「あ、いや、ごめん……つい、見入っちゃった。ありがとう」

     感謝の言葉を聞いて、少女は大きく息をつき、ビーチチェアに座り込んだ。

    「もう……そんなに楽しかったですか?」

     恨みがましそうな声だったが、当の指揮官は熱心にうなずき、

    「うん、楽しかった。いや、飽きなかった。見ていて本当に綺麗だと感じたし、可愛いと思ったし――こう言うとなんだけど、自分の身体の貧相を思い知らされたようで。正直、羨ましかったし、ちょっと妬ましくさえある」

     指揮官は、紫の瞳を煌めかせながら、言った。

    「だからさ、こんな麗しいスタイルの女の子が、それに似合うようなオシャレをしたら、どんな服がいいかなとかちょっと考えて……思わずときめいちゃった」

     少女に向かって、彼女は莞爾として笑ってみせた。

     その言葉を聞いて、少女が小首をかしげてみせる。

    「あの――それ、何かのお誘いですか? もしかして」

    「うん。今度、街へ服を見に行こうか。スオミに合いそうなのを探そうよ」

    「……その水着みたいな、きわどいのじゃないでしょうね……」

    「ははは、お望みならそういうお店でもイイけど」

    「よくありません! ちゃんとしたショップにしてくださいっ」

    「冗談だよ、冗談。そうだな、セオリーから行くと――」

     いつのまにか自然に話し合う二人を、ほのかに甘やかな空気が包んでいた。

     


     

    「ねえコンテンダ―? あれは何なのかしらねえ?」

     会話が弾む様子の二人を見ながら、FALが棘を含んだ声で言った。

    「なんですかねえ。『愛されるだけでは物足りない。愛の言葉もかけてほしい。静寂の世界は、お墓の中で十分に味わえるのだから』というところでしょうか」

    「……いや、愛の言葉がほしいのは、わたし達だって同じでしょうよ」

    「ええ、もちろん。おじゃまでなければ、いますぐスオミの隣に立ちたいです」

     コンテンダーが腰に手を当てながら、眼光を鋭く光らせる。

     その傍らで、目つきを険しくしてるのはG36である。

     険のあるまなざしは遠視ゆえに見づらい、というだけではないだろう。

    「なんというか――あの二人の周囲に花園が見えるようです」

     メイドはどこか憮然とした声である。FALが唇の片端で笑ってみせた。

    「愛の証明の薔薇かしら。麗しの祝福の百合かしら」

    「恋を囁くチューリップかもしれません。赤かピンクあたりの」

     メイドはそう言うと、周囲を見回した。

    「ヴィーフリはどうしました? あんな雰囲気には真っ先に噛みつきそうですが」

    「あっちよ。〔リトルミス〕と遊んでるわ」

     FALが手で示してみせると、プールの中でキャッキャと遊ぶ幼い姿があった。

    「お嬢様の相手をして気を紛らわせてるみたい。その証拠にほら……」

    「……ときどきスオミと指揮官をちら見してますね」

     G36が目をぱちくりさせると、FALがため息をついた。

    「まあ、あのヴィーフリでさえ割って入るのがためらわれる空気だもの。わたし達なら、それはもう気遣っちゃって、二の足踏んじゃうわよねえ」

     そう言って肩をすくめるFALに、コンテンダーが言った。

    「『自分を元気づける一番良い方法は、誰か他の人を元気づけてあげることだ』ですか? たしかに、この部隊――いや、この仲間の重い空気を軽くするなら、まずスオミの不安をぬぐってあげないといけませんから」

     麗人がすっと目を細めて笑うと、FALもG36もうなずいた。

     地の底で遭遇したワイルドハント。

     あれにメモリを覗かれたスオミは、かなりメンタルモデルが不安定になっていた。「いったんIOPに送ってメモリのエラーチェックをした方が」とはカリーナの提案であったが――それを不機嫌な一瞥で即座に却下したのは、あの指揮官なのだ。

     代わりにセッティングしたのが、このプールバカンス。

     結果としてバカンスではなく接待になってしまったが、あれだけ幼い少女の相手なら、普段ない刺激だけにポジティブな影響を与えているのは、人形たちも認めざるを得ないところだった。

    「あの人も本当に変わってるわよね。人形に、こんな手間暇かけるなんて」

    「まったく。ご主人様のお気遣いは嬉しいのですが、戸惑うことも多いです」

    「たまにフォーラムで他の基地の人形と交流しますが、たいてい驚かれますよ」

     コンテンダーの言葉に、FALがウィンクしてみせる。

    「それ、驚かれたあとのオチが読めたわ」

    「おや、おわかりになりますか」

    「ええ、『あなたの基地の指揮官ってバカなの?』でしょ」

     FALの回答にコンテンダーは答えない。

     ただ、ふっと口元で笑んでみせただけだった。

     そこへ、あの聞きなれた飄々とした声がかけられた。

    「おーい、みんな。ちょっとおいで!」

     指揮官が手を振って呼んでいる。

    「そろそろお昼時だ、なにかデリバリー頼もう!」

     スオミもこちらを向いて、軽く手を振っている。

    「デリバリー!? アタシ、ボルシチ! それにピロシキ!」

     ヴィーフリが声をあげて、〔リトルミス〕の手を引きながら、泳いでくる。

     FALたちも顔を見合わせ、くすりと笑んで、指揮官のもとへ一歩踏み出す。

     その時だった。

     施錠されているプールの扉に、何かが衝突する音が響いたのは。

     


     

    「各員武装! FALとコンテンダーは〔表口〕警戒! G36は〔裏口〕へ! ヴィーフリはお嬢様を連れてプールからあがったら遊撃配置! スオミ、お嬢様を守れ!」

     指揮官の指示が矢継ぎ早に飛ぶ。

    「頼むよ! 私の可愛いきみ達!」

     コンテンダーが大振りのボストンバックを開けて、次々と仲間に銃を手渡していった。

     十秒もかからずに各自が配置につく。

     おびえた様子の〔リトルミス〕を守るようにスオミが身を寄せ、指揮官が携帯してきた拳銃を構えながら、幼女をそっと片腕で軽く抱く。

    「心配ないですよ、お嬢様。わたしの自慢の乙女たちが守ってくれます」

     指揮官がそうささやいた矢先。扉の錠が破られ、襲撃者が姿を現した。

    「へっ!? ちょっと、なによアレ!」

     ヴィーフリが素頓狂な声をあげる。

     侵入してきたのは、警備人形でもダイナゲートでもない。

     街中や施設ではめずらしくもない、清掃用の自律ドローンだ。

     それが数体、爆走しながらなだれこんできた。

     全速力で走行しながら、〔リトルミス〕を狙って突進する。

    「このォ! 止まりなさい!」

     FALが銃を撃つが、ドローンは穴だらけになりながらも止まらない。

     シンプルな構造ゆえに頑丈なのだ。

     と、FALが仕損じたドローンが急に迷走するや、横転した。

     拳銃から硝煙をただよわせたコンテンダーが叫ぶ。

    「車輪です! 車輪を撃って転ばせて!」

    「心得た!」

     うなずいてFALが狙い撃って、ドローンを次々転ばせていく。

     悲鳴のようなスリップ音を立てながら、あるものは壁に激突して火花を散らせ、またあるものはプールへ突っ込んで、溺れもがくような異音を立てる。

     その阿鼻叫喚に、〔リトルミス〕が小さく悲鳴をあげた。

     指揮官が彼女をくるむように、ぎゅっと抱きしめる。

    「こちらからも来てます。ヴィーフリ、援護を!」

     G36が鋭く叫びながら、小気味良い射撃音をさせて、裏口から侵入してくる新たなドローンを撃退していく。その彼女の隣にヴィーフリが躍り出て、

    「ホラホラ、突っ込んでくるだけなの!?」

     短機関銃の斉射で、しぶとく走っているドローンの車輪を次々粉みじんに変えていく。

     スオミはといえば、油断なく銃を構えながら、周囲の状況を見守っていた。

     普段の戦闘なら少女が先陣を駆けるところだが、いまはそうでもない。

     仲間たちの迎撃に任せて、〔リトルミス〕と指揮官を守る。

     迎撃の網を抜けたドローンがもしいれば――そのときこそ、少女の出番だ。

     短機関銃の制圧力で押しとどめ、最悪、戦術反応回路を使って、身を挺して二人をかばう。人形なら、腕がもげるとか脚がつぶれる程度は、パーツ交換で直せる。

     だが、生身の人間が同じ目にあえば、確実に命の危機だ。

     いくつも響いていた銃声は、やがて頻度が少なくなった。

     プールサイドがあっという間にジャンク置き場になった有様を見回しながら、

    「終わった……かしら?」

     FALがひとりごちた矢先、頭上から異音がした。

     天井の照明を突き破って、清掃用ドローンが数体落下してきた。

    「くっ――また上からとは芸がないこと!」

     G36がいまいましげに叫びながら、しかし、回避行動をとる。

     ダイナゲートならいざ知らず、清掃用ドローンは大きすぎ、重すぎる。

     撃ったところで落下軌道を変えようもない。

     人形たちがあわてて逃げ出す中、スオミは目にした。

     落下中のドローンで、一番〔リトルミス〕と指揮官に近い機体。

     そいつが、なにかの発射筒を二人へ狙って向けるのを。

    「――あぶない!」

     スオミが叫ぶ。

     指揮官も気づいて、〔リトルミス〕をかばって抱きすくめる。

     考えるまでもない――戦術反応回路、オン。

     瞬間的な高機動を手に入れた少女が、一気に駆けて、二人の盾となった。

     そして、立ちはだかるスオミに向かって放たれたのは――

    「ぶはっ――ちょ……なんですかコレ!」

     白く濁った、ぬるぬるした水。ほんのりと漂うフローラルな香り。

     そして舞い上がる、無数のシャボン玉。

     全身に洗浄液をかけられて、スオミはびっしょりぬるぬるになってしまった。

    「ぷ、ぷはははは!」

     その様子を目の当たりにして、ヴィーフリが笑い出すや、

    「くくく、ちょっとぉ、台無し!」

    「ふふ。汚れを落とす手間が省けますね」

    「ははは、まあ実弾じゃなくてよかったですよ」

     他の面々も笑い出した。

     泣き出しそうな顔で、スオミが指揮官を見ると。

     彼女は満足げな顔で親指を立てて、

    「ナイスぬるぬる、いただきました!」

     まったくフォローになっていなかった。

     少女が目を潤ませながら座り込んでしまった途端、あどけない声がかけられた。

    「お姉ちゃん、ありがとう。あたしをまもってくれたのね!」

     〔リトルミス〕が顔いっぱいに笑みを浮かべてみせる。

     そのあまりに無垢な表情に、スオミが照れ笑いで答えようとした時。

    「だからね、お姉ちゃん……」

     その言葉と共に〔リトルミス〕の顔が、悪夢のようにぐにゃりと歪んだ。

     

    『……この想い人を失ったら、キミはどうするのかなァ……』

     

     地下の闇で聞いたざらざらした声が、幼女の口から発せられた。

     その目から、耳から、青黒いどろりとした液体がこぼれると共に。

     少女の眼前で。抱きすくめた指揮官の細い腕の中で。

     〔リトルミス〕は、はじけるように「炸裂」した。

     


     

     ……その時のことは。

     感情パラメータがひどく波打ってしまって。

     メモリの整理が、正直よくできていません。

     なんとかおぼえていることは三つだけ。

     

    「スオミ、近寄っちゃいけないッ……“Stay Down.”」

     指揮官が強制認識ワードを使ってまで、わたしを止めたこと。

     なにかの毒物であることはまちがいありませんでした。

     液体をあびた箇所から、指揮官の白い肌に何かが浮かんでいきます。

     六角形の網の目のような模様は、彼女を捉えた蜘蛛の巣のようで。

     まるで、あの人の命まで絡めとってしまうように思えました。

     

    「なによ、この子! 人間じゃないわ! 人形じゃないのよ!」

     惨劇の現場に近寄ってきたときに、FALが叫んだ言葉。

     わたしは動転して、ちらりとしか見れなかったのですけれど。

     それまで活き活きと話して、屈託なく笑っていた幼女の頭蓋は――

     ――まぎれもなく、金属の光沢でした。

     

     そして、どのタイミングで聞いたんでしょうか。

     指揮官が息も絶え絶えに出した指示は、明確に覚えてます。

     あの人が強制認識ワードを使ったからでしょうけれど。

    「“Memory Order.” ヘリアンさんに連絡……『薬物はIbn-G。スラノーヴァヤ・コーシチの医療カルテRR4434番――あとは任せます』と……あと……〔交換日記〕のアドレス88番……どうしてもダメなら、それを……」

     そこまで言って、あの人はぐったりして、一言も発しなくなりました。

     

     ――ええ。ごめんなさい。

     あの時おぼえてるのは、ここまでなんです。

     人形なのに、おかしいですよね。

     でも、あとから仲間に聞いた話だと――この時のわたしは……

     ……半狂乱で、泣きじゃくっていたそうなんです。

     

    〔つづく〕 

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