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2020.05.03 Sunday

スオミさんはお困りです ep.ex

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    おはようございます、Ticoです。

    ふふふ、日曜と思って油断しましたね?

    今年のGWはこんな状況でみんな巣ごもりだと思ったので、

    この機会にファンジンノベルもどどーんとアップですよ!

     

    そんなわけで、「スオミさんはお困りです」ep.ex

    をお送りいたします。本編完了後の後日談&番外編です。

    ちょっとキャッキャウフフなコメディタッチ

    pixivには昨夜アップしておりますよ。

     

    suomi_epex.jpg

     

    ワイルドハントの一件も片付いて、ついに指揮官と結ばれたスオミさん。

    ところが同じ部隊の仲間に、あられもない秘め事をとうとう覗かれてしまい……

    困っているのはスオミさん? それとも指揮官?

    〔指輪の乙女〕の修羅場はどうなるのか?

    そして、少女が見出した「冴えたやり方」とは? 後日談の番外編です!

     

    【作者より】
    「スオミさんはお困りです」シリーズ、こちらの番外編でフィナーレでございます。

    シリアス気味の本編より、ちょっとコミカル&ロマンスでお届けします。ご笑覧くださいませ。

     

    ちなみに新シリーズも予定というか、すでに原稿がいくつか出来上がっております

    ドルフロの姉妹キャラにスポットを当てたオムニバス形式のストーリー、

    最初のお話は「恋慕するコランダム」と題してお届けする予定です。

     

    (本編は長くなるので折り返し〜)


     

     人形は眠りません。夢も見ません。

     でも、メモリのデフラグと躯体の自己診断で、似た振る舞いはします。

     だからやはり、これは眠りから覚めたら、と言うべきでしょう。

     

     まぶたを開いたわたしの視界に入ってきたのは、隣に寝ている彼女の肢体でした。

     わたしの愛しい人、わたしの誓いの主、わたしの大切な指揮官。

     うつぶせになって、彼女はやすらかな寝息を立てていました。

     腰から下はシーツをかぶっていましたが、すべらかな背中はあらわになっています。

     痩せていて、どうかすると骨が浮いて見える、華奢で折れそうな身体。

     

     ベッドで一緒になるとき、この人はいつも羨ましそうにわたしの胸や腰まわりをじっと見つめてきます。そして、「同じ女として妬けるなァ。なんでこんなに貧相なんだ、私のカラダは」とぼやくのは、もうおなじみでした。

     

     でも、わたしは彼女のそんな身体がとても好きなんです。

     とても愛しくて、とても綺麗だと思います。

     わたしの指使いで、その細い肢体がぴくぴく震える様子も。

     わたしの舌遣いで、その白い肌がほのかに火照る様子も。

     

     ああ――メモリから昨晩の様子が浮かんでしまいます。

     思い出してるうちに、感情パラメータがとくんと跳ねます。

     なだらかな曲線の背中を見ているうち――ちょっと悪戯心が湧きました。

     

     右手の指の腹で、肌に触れるか触れないかを、そっとなぞります。

     少しタッチした瞬間に――彼女の神経ニューロンを励起させます。

     微かに、ちょっとずつ。でも何度も、幾重にも。

     

    「ふわっ――はっ……ふっ、ひゃあ……あぁ……」

     

     眠ったまま、彼女が甘く切ない声を漏らします。

     普段の飄々した軽口から想像できない、あどけなくさえ聞こえる声。

     

    「……ふふっ」

     

     わたしは目を細めると、彼女のニューロンとデータリンクさせました。

     彼女の背中をわたしの指がなぜるタッチ。

     眠りながら彼女が感じてる快感がわたしに流れ込んできます。

     

    「んっ……ふっ……」

     

     同じ悦楽を共有して、わたしも少し声が出てしまいます。

     感情パラメータがぴくぴくと波打ってしまいます。

     嬉しいんです。すごく、すごく。

     わたしが優しく撫でることで、彼女が気持ちよく感じていることが。

     

     自然と、わたしはデータリンクのポートを開いていました。

     彼女の快楽を受けて、私が感じるささやかな歓喜。

     それを、また指先から彼女の肌を透かしてニューロンに流し込みます。

     

    「ひゃああ……あぁ……やっ――あふっ……ふぅ……んっ――」

     

     彼女がとろりとした嬌声をあげました。

     慎重にデータ量を絞り込みます――起こさないように、ちょっとずつ。

     でも、彼女とわたしの間で、快感と歓喜が循環していくうち。

     徐々に何かが高まるような、けれど永遠に終わらないかのような。

     そんな、とろとろとした火で蜜を煮詰めていくような感じ。

     

    (ああ……ずっとこのまま過ごしたいな……)

     そう思って、ふと視界にベッドサイドの時計に目を留めた時。

     

     表示されている時刻を見て、わたしは目を丸くしました。

     

    「……うそっ!? もう朝の八時過ぎてる?」

     わたしのびっくりが……ダイレクトに指先から彼女の背中に沁みとおって、

    「――うひゃああぁああ! な、なにっ!? なんなの?」

     彼女が目をぱちりと開けて、がばりと跳ね起きます。

     

    「あ、え……ちょっと、スオミぃ」

     眉をひそめて、紫の瞳でこちらをにらみながら彼女は言いました。

    「寝てる間のオイタは禁止、起こすときは声をかけて――そう言ったよね」

    「はい、あの……すみません」

    「まったくもう。毎回やるんだから、どんだけ……あああ、時間ンン!?」

     指揮官も時計に気づいて、あたふたしてます。

    「マズいよ! 朝イチでペルシカさんと通信ミーティングの予定なのにっ!」

    「わたしも着替えて宿舎に行きますっ。訓練ありますから」

     

    「ああ。なんできみと寝ると朝までガッツリなんだい!」

    「仕方ないじゃないですか。女同士だからキリがないんですもの」

     答えてみせたわたしに、指揮官がじとりとした目を向けます。

    「いや、だいたいきみのせいだよね? きみがやめてくれないから――」

    「あら、あなただって、おねだりを何度もするくせに――」

     

     お互いに言いかけて、頬を染めて黙りこくってから、

    「って、喧嘩してる場合じゃない!」

    「そうでしたっ」」

     状況を再認識して、二人ともドタバタ。

     

     服を着たのはわたしが先でした。指揮官は下着は見つけたものの、肝心のアウターをどこにやったのか、ベッドの上から「ないーないー」とうめきながら探しています。

     

    「じゃあ。指揮官、お先に失礼しますっ」

     そう言って、寝室から立ち去ろうとしたら

    「ああ、スオミちゃん、ちょっと待って――んんっ」

     そう言って、彼女は目を閉じて、唇をそっと突き出してきました。

     

    「え――なんですか、いったい」

    「おはようのキッス、ほしい」

     拗ねたような、ねだるような声。

     わたしはため息をつくと、彼女の頭をそっと抱き寄せて――

     そのひたいに、軽く口づけました。

     

     唇を離すと、彼女が上目遣いがちに恨めしそうに見ています。

    「えーっ、それはないよ」

    「もう朝です、仕事の時間ですよッ」

     わたしはキッと表情を改めて、硬い声で言いました。

     ええ、まあ。彼女の背中でちょっと遊んだことは棚上げにしましたけど。

     


     

    「ゆうべはおたのしみでしたね」

     少女をじいっと見つめながら、FALが言った。

     昼食のオムレツセットを食べていたスオミは、その視線の棘っぷりに、思わず照れ笑いというべきか、苦笑いというべきか――いわく言い難い表情になった。

     

    「あの、えっと――そ、そうですか?」

     おそるおそる訊ねる少女から、FALは視線を外そうとはしない。どこかじとりとした目つきで刺してきながら、そのままマグカップでコーヒーをごくごくと飲み干していく。飲み切ったマグカップをトンとテーブルに置いてから、

    「首のとこ。キスマークついてるわよ……熱々なのが四か所ほど」

     かすかにむすっとした声で指摘してみせる。

     

     それと同時に、

    「あら、本当です。ご主人様もずいぶんと熱烈ですね」

    「『情熱は過剰でなければ美しくなり得ない』とは言いますけれどね」

    「ちょっとぉ! スオミったら指揮官にカラダ許しすぎよ!」

     部隊の仲間たちが一斉に声をあげた。

     

     スオミが頬を染めてわたわたと首元を手で隠そうとすると、

    「はい、これ。ファンデーションとコンシーラー。使い方わかるわよね」

    「あ、ありがとうございます……」

     身を縮こませながら少女が化粧品を受け取ると、FALはため息をついた。

    「もう。自分のぶんは用意しておきなさいよ。毎度のことじゃない」

    「あの……なにがいいか、よくわからなくて」

    「聞きなさいよ、せっかく副隊長をやってあげてるんだから」

     FALが眉をひそめてお小言を口にしたところへ、

     

     横からひょいとG36が、

    「でもあなたもずいぶんと準備がよろしいですね」

    「そりゃあ、少し時間があったら指揮官とハグしてキスして――あ」

     FALが目をぱちくりさせると、頬を染めて机に顔をつっぷした。

     自爆である。花火でもあがりそうな、きれいな自爆であった。

     

    「――なんですか、あなたもえらそうにお説教できないじゃないですか」

     今度はスオミが彼女の頭をにらんでいると、コンテンダーが澄まし顔で指摘してきた。

    「でもね、スオミ。指揮官はそれぞれにわたし達を可愛がってくださるから、〔指輪の乙女〕が修羅場パーティになっていないのだと思います。あの人と楽しい時間を過ごすのはわたし達にとって平等の権利です。だからこそ天秤の均衡は守るべきではないですか」

     なにやら持って回った物言いに、少女が目をぱちくりさせていると、

     

    「――朝の訓練に遅刻するぐらい夜通しで励むのはおやめなさいということよ」

     G36がシュニッツェルをナイフで切りながら、そっと声に出した。

     ……揚げ物をやけに細かく短冊にしているのが気にはなるところである。

     

    「あ……すみませんというか、なんというか――皆さんは遅刻するほどじゃないですね。あは、ははは――」

     スオミがうつろに笑いながら言うと、

    「そーよっ。アンタ、どんだけ指揮官と熱々な夜になってるわけ?」

     ヴィーフリが指をぐいと突きつけながら、不満げな声をあげた。

    「普通、ほどほどの夜中で指揮官が『今夜も素敵だったよ――さあ、あとは宿舎に戻ってゆっくりおやすみ。基地の中だけど気を付けてね』って言うはずなのにっ」

     

    「え――みんなはそうなんですか?」

    「はい、お互いそれなりに満足したら、いつもそうですよ」

     そう言って、コンテンダーが――あの誰もが認めるハンサムな麗人が。

     ちょっと口惜しそうに親指の爪をそっと噛んでみせた。

    「歌劇『トゥーランドット』のように、“誰も寝てはならぬ”をやってみたいとは常々思うのですが――」

     コンテンダーのなにやら熱っぽいまなざしが、ついっとスオミに向く。

     そのまま、少女から視線を外そうとせず、顔や胸元を視線で探っている。

     

    「あの……えっと、なんですか?」

     少女が顔をこわばらせながら自分を抱きすくめると、

    「ご主人様が一晩中、夢中になる何かがあるのか、みんな気になってるのよ」

     G36がそっとつぶやいた。いつのまにかカツレツの短冊がタイル状になっている。

     

    「スオミさあ――もしかして何度もおねだりしてない?」

     ヴィーフリがねめつけながら訊いてくる。

    「いえ……どちらかと言えば、指揮官がおねだりしてくるというか……」

     つい口にだしてしまい、少女がハッと口を押さえる。

     

     まっさきに反応したのは――リタイアしていたはずのFALである。

     がばりと顔をあげて、ずいとスオミに顔を近づける。

    「そんなはずないわ。指揮官、かなりの経験者だもの。優しくキスした後は、あの人が主導権をとって、巧みな指さばきや舌遣いで、あんなふうやこんなふうに可愛がってくれるから――」

    「――FALはいつも可愛がられてるんですか?」

    「……あ」

     少女に指摘されてFALは轟沈した。見事な弾薬庫誘爆である。

     

     ふたたび頬を染めてテーブルにつっぷすFALを横目に、G36が軽く咳払いした。

    「まあ、つまり、そんなに一晩たっぷりかかる理由を皆知りたいのです」

     メイドはそう言うと、タイルに刻んだシュニッツェルをフォークで次々に口に放り込んだ。カツレツではない何かをまるでやっつけるかのように、もぐもぐと咀嚼して、ごくりと飲みこんだ。

    「――あなたがそれだけ指揮官の夢中になる子だというなら……それはそれで、わたし達はまた自分を磨けばいいだけです。ただ、少しは夜の様子をシェアしてもいいのではないかと思うのですけれど」

    「……要は。アンタがどんなエッチしてるか、教えなさいってこと」

     ヴィーフリが少し頬を染めながら、ひそひそと言った。

     

     言われた少女は――顔を赤らめ、次いで、頭から湯気を吹いた。

     羞恥が限界を超えた時のスオミの悪い癖である。

    「そ、それって! どんな感じか話せってことですか!?」

     

    「……別に口で説明しろってわけじゃないわよ」

     二度の撃破から三度目の正直で顔をあげたFALが、胡乱な視線を向ける。

    「プライベートデータリンク。それでちょっと夜の様子を覗かせてよってこと」

    「えええええ!? だめです、いやです、恥ずかしいです」

     いやいやとかぶりを振るスオミをじろとねめつけたかと思うと、

     

    「えー、こほん」

     しゃんと座りなおしたFALが軽く咳払いして、言った。

    「当該事案につき隊長の任務遂行困難と判断し、副隊長の発議として、必要情報のシェアリングを要求したく思います――賛成の方、挙手」

     言うや否や、秒の速さで手が四つ挙げられる。

    「ふふん、決まりね。観念なさい、スオミ」

    「うう……」

     進退窮まって少女はしぶしぶ手を差し出した。

     

     その途端に仲間たちが次々と握ってくる。

     プライベートデータリンクの要請、要請。とにかく要請。いいから承認早く早く。

    「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ……」

     おろおろしながら少女は昨夜のメモリを引っ張り出してきた。どこか当たり障りのないところを選んで――などとまごまごしてるうちに、仲間たちがするっとアクセスしてくるや、適当につまみ食いしてメモリをさらっていく。

     

    「あ、ちょっと――!」

     少女が咎める間もなく――興味津々の顔だった仲間たちが、たちまち声をあげた。

    「えっ、ウソ、ちょっと何これ。指揮官ったらこんなカワイイ声出すの!?」

    「これは……ご主人様が一方的にもてあそばれているようにしか……」

    「あれ? この絡み方どうなってます? ヨガ? 二人ヨガなんですか?」

    「うわあ……ちょっと、すっごい……うわあ……わああ……」

     

     四人それぞれに感嘆ともなんともつかない声が上がったかと思うと――そろってスオミに視線を向け、じいっと見つめた。頬は染めたまま、しかし、ものすごく何か言いたげな目つきで。

     

    「み、皆さん。えっと……これは、ですね――」

     スオミが身をよじりながら、苦笑いを浮かべると、FALがぼそりと言った。

    「このDSKBムスメ」

    「ちょ――なんですかそのワード!」

     少女が気色ばんで反論してみせるが、仲間たちはうんうんと頷いている。

     ヴィーフリが頭の後ろに手を組んで、天を仰ぎながら言った。

    「あーあ、そっかあ……スオミって攻めだったんだ」

     

     なぜか。その声はやけに食堂中に響きわたった。

     スオミが、いや仲間たちも、ハッと気づいて周りを見回した。

     人形も人間も、食堂にいるスタッフ全員がいつのまにか黙りこくって、一同の会話に耳をそばだてていた。そして、ヴィーフリの声が発せられるや、

     

    「――あああ! やっぱりスオミが攻めだったかあ!」

    「オッズ! 最終のオッズどうなっていた!?」

    「最近は三対七で受け優勢だったんだよ! くそっ、はずした!」

    「やったあ、これでお小遣いが増える。ありがと、エッチなスオミさん!」

    「なんで攻めなんだよ……どうみても受けの顔じゃん……今月の給料飛んだ……」

     

     スタッフがあっという間に大騒ぎになった。

    「な、な、な……」

     スオミが顔を真っ赤にして頭から湯気を立てながら口をぱくぱくさせていると、

     

    「――皆さん、お静かに。どうぞ落ち着いて」

     デイリーのニュースをわざわざ印刷して〔新聞〕にして読んでいた、ある人形がすっくと立ち上がった。きちんと整った服装、凛としたたたずまい。英国淑女の鑑のような、ライフル部隊のリーダー格である。

    「たしかに、“今回の賭け”はいったん結論が出ました。認めましょう、スオミさんは攻めだと。信頼できる彼女の仲間たちの顔を見ればそれは明らかです――しかし」

     キランと目を光らせて、彼女は高らかに宣言した。

    「スオミさんがはたして“どんな攻め”なのかはまだ結論が出ていません! 俺様攻め、クール攻め、可愛い攻め、わんこ攻め、ヘタレ攻め――さあ、賭けはこれからですよ! 皆さん、まだ真の勝負はついていません! 今日の敗者も明日の勝者になればいい!」

     すがすがしいほどのジョンブルぶりであった。

     

     食堂にいた連中がどっと歓声をあげる。英国淑女はさらに声を張り上げた。

    「それだけではありません! FALがカリーナさんから買い付けているアロマオイルのどれが夜の営みに使われているか? G36のセクシー下着コレクションでどの色が勝負用なのか? 格言好きのコンテンダーは愛の囁きにどの偉人から引用しているのか? 直前のインザベッドでヴィーフリがもらったキスマークの数は? さあ、お集まりの皆さん! オッズを並べましょう。賭け金を積みあげましょう。これからこそ、むしろ本番 ! 彼女たちの幸福の余禄に存分に預かろうではないですか!」

     

     どこの賭博黙示録か。

     

    「ちょ、ちょっと何を言って……みんなも黙っていないで――あ」

     仲間たちの様子を見て、スオミは目が点になった。

     四人が四人とも、テーブルに顔をつっぷして頭から湯気を立てている。

     

     精鋭部隊、〔指輪の乙女〕。まさかの壊滅であった。

     

    「わ、わ、わ……い、いやああああ!」

     スオミは叫ぶや立ち上がり、なおも場を盛り上げる英国淑女を食器のトレーで一発ノックアウトさせると、戦術反応回路を無理やりオンにして脱兎の勢いで、その場を逃げ出したのであった。

     


     

    「はあ……それは災難でしたね」

     スオミの愚痴とも何ともつかない話を聞いて、カリーナはあっさり答えた。

    「えっ、それだけなんですか?」

     逃げ出したものの、感情パラメータが乱れに乱れて落ち着かず。かといって、頼みの仲間がダウンでは相談相手もいない。羞恥に困惑する思考パルスでふと思いついた話し相手が、後方幕僚のカリーナだったのだが。

     

    「それじゃあ、ええと――お買い上げありがとうございます」

     この算盤の達人が、なによりも銭勘定が好きなことを失念していたのである。

    「いやー、グリフィンって福利厚生も兼ねて〔そっち系〕のアイテムも取り扱っているんですけど、最近は指揮官だけじゃなくて第一部隊の人たちも。それにちょっと噂で盛り上がった子が、興味半分で買うケースが増えてきてホクホクですよ」

     

    「……楽しそうですね、カリーナさん……」

    「ええ。皆さんの買い物内容を、内緒でリークした甲斐がありました」

     

     お前も一枚噛んどったんかい。

     

    「……まさか、カリーナさんも今回の賭けに――」

     スオミがわなわな震えながら言うと、カリーナはあっさりと、

    「いえ? スオミさんがどっちとかには、コイン一枚も賭けていませんよ。わたし、お金は大好きですけど、賭け事は趣味じゃないんです。攻めか受けかなんて、状況でどうとでも変わるし、こんなの賭場が儲かるだけの丁半博打じゃないですか」

     そこまで言ったものの、すぐに彼女の目がキラァンと光った。

     

    「でも、オッズの種類にバリエーションができれば、賭けじゃなくて一種の投資だと考えられますね。ポートフォリオを組んで上手くリスクテイクすれば大儲け……」

     宙を見上げるカリーナの目。

     完全にコインの山を思い描いた眼差しなのを見て取って、スオミは大きくため息をついた。

    「カリーナさんは気楽でいいですね」

     

    「いえ? そんなことはないんですよ、これが」

     目を細めて、少し身をよじってカリーナは言った。

    「あのですね。皆さんがアイテムを買い求めに来るときに、次のおススメを売り込むためにヒアリングするんですが、皆さん、ごまかしつつも色っぽい顔で艶っぽい話をされますから――わたしでも、さすがに時々当てられて、ムラムラしちゃうことはあるんですよ」

    「……カリーナさんがですか?」

    「あら、銭勘定が趣味でも、わたしも肉体を持った人間ですから」

    「あの――そういう時はどうされているんですか?」

     

     スオミに問われて、カリーナは目をぱちくりさせると――

     念のため、周りで誰も聞いていないことを確かめて、こっそり囁いた。

    「そりゃ、自分の部屋で適切に処理していますよ――あ、どうやってとかは無しですよ。どうしても聞きたいなら、それなりの情報料がいただけるなら教えますけど」

    「――そこまでして聞くつもりはないです」

     頬を染めたスオミが気まずそうにするのを見て、カリーナはくすりと笑んだ。

    「さてと。まあ、前置きはこのへんにして本題に入りましょうか」

     

     カリーナは穏やかな笑みを浮かべて、スオミの頭をそっと撫でた。

    「他に頼る人がいなくて駆け込んできた女の子を追っ払うほど、わたしは薄情でもないですよ――かといってボランティアでもなくて……そう、一種の営業活動でしょうか」

    「あ、ありがたいような、ありがたくないような……」

    「それで? 本当のところは何が問題だと思っています?」

    「わたし……指揮官の好意に甘えてるだけじゃないかと思って」

     少女は瞳を揺らしながら、そっとつぶやいた。

    「あの人がどんどん受け止めてくれるから、つい張り切っちゃって。でも、快楽に溺れてお仕事に差し障るとよくないかな、とか――」

     

    「スオミさん」

     もじもじしながら話した少女を、カリーナはじいっと見つめた。

    「ごまかしちゃダメです。お仕事を言い訳にするのはナシですよ」

    「……うっ」

    「あなたはごまかす系が苦手なんですから、すぐ察しがつくんですよ」

     カリーナは肩をすくめると、少しあきれた声で言った。

    「本当は、指揮官にとって負担になっていないかが心配なんでしょう?」

    「――はい。あの人は悦んでくれますけど、結局、わたしの身勝手な欲求を押し付けているだけじゃないかと思って……」

     

    「まあ、相手を支配しちゃうのも、それはそれで愛のカタチと思いますけど」

     カリーナはおとがいに人差し指をあててながら、

    「ただ……指揮官ご自身は、肉体的な快楽をそんなに求めていないんじゃないでしょうか。あの人、以前から女の子遊びはしていましたけど、もっぱら相手を気持ちよくさせて、その気持ちよくなってるさまに満足している節がありますから。実のところ、フィジカルな部分は二の次じゃないかと思うんですよ」

    「……なんか実際に体験したみたいな口ぶりですね」

    「おっと――そのあたりはコイン積んで頂かないといけません」

    「あ、いえ……なんか察しがついちゃうから、いいです」

     

    「まあ、とにかく――スオミさん、そもそも人はなぜセックスすると思います? 割と真面目な話、シリアスな話として考えてみた場合、ですよ」

    「……子供をつくるためですか?」

    「見事にスクールの保健体育的な模範解答ですね。けれども、子供が授からないはずの同性同士でもやっぱりやることはやりますよね?」

    「……愛し合うため、ですか?」

    「んー、正確には愛を確認するため、でしょうか。気持ちよくなりたいとかはあるんでしょうけど、結局は会話と同じコミュニケーションの一形態なんですよ。わたしはあなたをこんなに想ってますよ、というのを伝える象徴的な行為じゃないでしょうか」

     

    「相手を想っている――」

    「ええ。だから、いまのスオミさんのお作法も間違いじゃありません。ただ、肌を重ねているうちに、相手のことがだんだん分かってきて……もっと別の、もっと良いアプローチがあるんじゃないかと気づきだした、ってところじゃないですか?」

     カリーナの指摘に、スオミはかあっと顔が赤くなるのを感じた。

     思わず両頬に手を当ててしまう。

     

     しかし、いつもみたいな頭から湯気は吹かなかった。

     代わりに、瞳を揺らしながら、こくこくとうなずいている。

     

     その様子に、カリーナはふっと目を細めて笑んだ。

    「答えが見つかったみたいですね。良かったです」

    「ありがとう、カリーナさん――指揮官に、ちょっとお話しないと」

     軽く頭を下げて立ち去ろうとしたスオミを、

    「ああ、ちょっとお待ちを――そういう時は手ぶらじゃダメです」

     

     カリーナが呼び止め、保管用の冷蔵庫から花束を取り出してきた。

    「ペチュニアです。今日入ったばかりの逸品ですよ」

     銭儲けが趣味と評判の後方幕僚は、軽くウィンクしてみせた。

    「いまならコイン十枚! お買い得にしておきますよ?」

     

     商魂たくましい提案に、少女は苦笑いを浮かべてうなずいた。

     


     

    「おかえり、スオミちゃん――ほらほら、お仕事溜まっているから」

     指揮官室に入った少女を、彼女はいつも通りの声で出迎えた。

    「ンンン、どしたの。その花束?」

     

    「あ、その――カリーナさんから買ってきて。たまには、そういう彩りがあっていいかなと思って……」

    「そっかァ。じゃあ、ちょっと活けてくれる? 花瓶ならそっちのキャビネにあったんじゃないかな」

     彼女の言葉にうなずき、スオミは瀟洒な花瓶を選んで手早く済ませた。

     おそるおそる、指揮官のデスクに置いてみせる。

     シンプルな白い磁器に活けられた明るい赤紫の花に、指揮官が目を細めた。

    「ふむ、ペチュニア……“あなたと一緒なら心がやわらぐ”か」

     ひとしきり可憐な花を愛でてから、彼女は少女を見つめた。

     

    「――で、この花は食堂での騒ぎでのお詫びかな? ンン?」

     にやりとしてみせた指揮官に、スオミはうつむいて小さな声で言った。

    「あ……もう、ご存じでしたか」

    「ご存じもなにも、私の可愛い乙女達がそろって人事不省になって、当のリーダーは行方不明ときた。おまけに基地のフォーラムが実に賑やかになってサ。誰が作ったんだか、あんなにデカデカとオッズを貼りだして――まあ、逃げた子が何かやらかしたなと思ったら、案の定、花束もってきたんだもの。古来から想い人に花を贈るのは、愛を伝える時か、さもなければ相手に謝る時さ……で、なにやったんだい?」

     彼女の顔は笑みをたたえていたが、煌めく紫の眼は笑っていない。

     

     スオミは、ばつがわるそうに、少しそっぽを向きながら、言った。

    「その――指揮官とわたしの夜がどんな感じか、ちょっとシェアする流れになってですね……ああ、全部まるまるじゃないですけど、ところどころを覗かれたというか、その――ごめんなさい」

     少女はぎゅっと目を閉じて頭を下げた。

     言われた指揮官は天を仰ぐと右手で目を覆って、軽くうめいた。

     

    「アッオーゥ。そんなことだろうと思ったけど……そっかー、知られちゃったかー」

     指揮官はしばらく黙っていたが、ややあって手を払って、少女に向き直った。

     スオミの見るところ、完全に表情がお通夜だった。

     

    「いつかはバレるだろうなあと思いつつ、対策が立てられずじまいだったなあ……これからあの子達、ガンガン押してくるし、もっと粘るだろうね――スオミとのスタンピードな夜の営みを見ちゃったら、そりゃ当てられちゃうよ……ホントどうしよ」

    「す、スタンピードは言い過ぎじゃないですかっ?」

     

    「じゃあタイフーン? ハリケーン? それとも疾風怒濤? あれキャッキャウフフでも、しっぽりねっとりでもないから。デフォルトで感度二倍、マキシマムで感度十倍、性感帯マシマシにしてたっぷりいじめられるって――すさまじく気持ちいいのは認めるけど、さくっと拷問に転用できる気もするよ、アレ」

     

     肩をすくめてみせる指揮官に、スオミはしゅんとしょげた。

    「ごめんなさい――やっぱりご負担だったんですね……」

    「……翌朝にぽーっとなってるのは確かだけどね。今朝も案の定、ヘリアンさんに見抜かれたよ。まあ、お小言ならいいんだけどサ。説教の最中にヘリアンさん涙声になってきてね。最後は『一人きりのベッドで寝るオンナの夜の寂しさがわかるか!』とか逆ギレされて――そういえば仕事の話がほとんどできなかったけど、大丈夫なのかな」

     

    「……ご迷惑かけました」

    「ンンン。昨夜はベッドであれだけ私をいじめていたきみが反省して、ちょっとしょんぼりしてるのは、これはこれで趣深いネ」

    「あの……えっと――指揮官も、イヤならイヤと言ってくだされば」

     

    「イヤ? まさか、そんなわけないよ。きみのことは大好きだし、愛している。そのきみがあそこまでしないと想いを伝えきれないと考えているなら、全部受け止めると決めたまでのことサ」

    「……あなたって人は……」

     

     少女は嬉しさ半分、あきれ半分だった。

     どこまでこの女性は、人形に対して優しいのだろうか。

     もし自分が、彼女の心臓がほしいと言ったら、きっと笑顔で抉り出すに違いない。

     そういう人なのだ。だからこそ――好きになったのだけれど。

     

    「まあ、他の子がもっと愛してと求めてくるなら応えるまでさ。冗談抜きで頓死しそうな気がするけどネ……カリーナのやつ、強壮剤のたぐいとかも手配できるのかな」

    「あ、あの、それなんですけどっ」

     スオミが跳ね気味に声をあげた。

    「もしかしたら――指揮官のご負担を減らせるかもしれないんです」

    「どんなの? きみが身を引くとかは断固認めないからネ?」

     

    「……いえ、なんというか。そう、わたしなりに〔アナザーアプローチ〕を試してみたいことがあるんです……だから、あとでお時間いただけませんか?」

     それを聞いて指揮官は目を丸くした。

     

     次いで、にやりと笑ってみせる。紫の瞳が興味と好奇心で煌めいていた。

    「とっておきの冴えたやり方を、きみがわたしにプレゼンするってのかい?」

     

     その問いに、スオミはこくりと頷いた――真剣そのものの眼差しで。

     

    「オッケイ。それじゃ楽しみにしておこう」

     指揮官はそう答えると、ひとつ大きく伸びをしてみせた。

    「んっ――なら、仕事をさくさく片づけてしまおう。かかるよ、スオミ」

     その言葉に、少女は軽く敬礼してみせた

    「はい、指揮官――ご期待にお応えします」

     


     

     仕事を片付けて勤務時間が終わってから、二人は指揮官の私室へ来ていた。

     照明はベッドサイドランプひとつ。やわらかなクリーム色の明かりが灯っている。

     

    「んで、本当にソファでいいの?」

     首をかしげて訊ねる指揮官に、スオミはうなずいてみせた。

    「はい。ベッドで横たわると、寝てしまうかもしれませんから」

     少女はそう言いながら、上半身の服だけ脱いでいく。

     

    「指揮官も上は下着だけになってください。全部脱ぐ必要はないです」

    「ンン? まあ、うん……裸にならなくていいの?」

    「着衣のままでも大丈夫な気はするんですけど――初めて試してみるので、それなりに肌が触れ合う面積が多いとは思うんです」

    「ムム、何をするんだ……?」

     

     不思議そうな顔をしながらも、指揮官は上半身のアウターを脱いだ。ジャケットをソファの背もたれにかけ、シャツを脱いで傍らに置く。スレンダーで胸の薄い彼女は、カップなどないハーフトップのアンダーウェアだった。

     対して、スオミは豊かな胸をしっかり支えるために、シンプルだがカップたっぷりの白いブラジャーだ。指揮官が彼我を見比べて羨ましそうな視線を向けていると、

     

    「冷えるといけませんからね――よっ、と」

     スオミが毛布を手繰り寄せて、自分たちをそっとくるんだ。

     にっこり微笑む少女に、想い人は怪訝な顔をした。

    「――秘密結社ブランケット?」

    「違いますよ」

     

    「ふむ、ここからどうするんだい?」

    「えっと、お互いにハグしあいます。ぎゅっとしなくていいです。腕を背中に回して、抱き寄せるように――でも自分の肌にぴったりつける感じで……ええと、こんなふうに」

     少女がそう言うと、想い人の首に手を回して、そっと身体を寄せた。

     当の指揮官は目をぱちくりさせながらも、少女の脇からその背へ手を回す。

     互いが互いを、優しく抱きしめる。

     

    「……こんな感じ?」

    「はい、いいと思います。指揮官の鼓動がちゃんと感じられますから」

    「ええと……これはこれで絵になる構図だと思うけれど――」

     戸惑いがちの想い人に、少女は微笑んでみせた。

     

    「いえ、ここから本番です。目を閉じて、自分の呼吸と鼓動に集中してください。落ち着いてきたら、わたしのことを考えてください。どんなイメージでも構いません。わたし、スオミのことについてなんでもいいから頭に浮かべてください。後はわたしの方で合わせていきます」

    「なんかメディテーションみたいだね――うん、わかった」

     

     指揮官が目を閉じて、頭をそっとスオミの肩に預ける。

     ほどなくして、ゆったりとした呼吸へと変わる。

     それを確認して、少女はそっと囁いた。

     

    「少し……びっくりするかもしれませんけど、いつもみたいなことにはなりませんから。お願いだから、わたしを信じて預けてください」

    「ンン。いまさら疑う何もないヨ」

     

     想い人がそっと囁き返す、その言葉を聞いて――

     少女は〔接続〕を開始した。

     肌が触れ合う箇所からデータリンクを始める。

     神経の励起などはせずに、ただ穏やかに彼女と自分とを繋いでいく。

     

    「……んんっ……」

    「……だいじょうぶ、ですか?」

    「……いや、問題ない。ちょっとわかった。私も合わせてみる……」

     

     想い人がそう囁くと、少女はデータリンクの感度が急に上がっていくのを感じた。

     理解してくれている――その喜びに感情パラメータが跳ねそうになる。

     その波形を不用意に伝えないようにしつつ、少女も記憶領域からメモリを呼び起こしていった。

     


     

     認識領域にいくつも展開する、想い人のメモリ。

     触れ合う肌と肌から繋がるデータリンク。

     

     彼女のニューロンへ自身が想起したイメージが流し込む。

     

     それと同時に少女自身もポートを開けて迎え入れる。

     想い人の描く、少女自身に対するイメージが流れ込んでくる。

     

     躯体を通じて、肌を合わせた彼女の心臓の鼓動が伝わってくる。

     少女は、跳ねる自身の感情パラメータの波を、鼓動のリズムに合わせた。

     

     鼓動とリズムが寄り添っていき、同じリズムを刻み始める。

     

     イメージがとめどなく流れ込み、想いがあふれてまた相手に流れ込む。

     

     

     さまざまな感情が色鮮やかに咲き乱れ、それもまた流れに乗った。

     互いを想う気持ちが、相手へと流れていき。

     そして受け取った気持ちに反応して、感情が生まれる。

     その感情がさらなる想いとなって、また巡っていく。

     

     トクン、トクン、トクン。

     シンクロした鼓動とパラメータがメトロノームのように刻み。

     二人の心を巡って、反響し合う想いがメロディとなって紡がれる。

     

     少女も。想い人も。

     いつしか、自分の想いと相手の想いで頭がいっぱいになり――

     

     そして、世界が白く閃いた。

     

     

     朝焼けの海を、飛んでいくかのような感覚。

     隣り合いながらひとつとなり、絆で結ばれあう二人。

     比翼の鳥となって、遥かな空をどこまでも翔けていく。

     

     想う心と、想われる心。

     それが分かちがたく結びつき。

     少女と想い人のニューロンをひとつに繋げていく。

     連理の枝となって、それはどこまでも広がっていく。

     

     人形も人間もない。少女も想い人もいない。

     いまここにあるのは、【わたしたち】だった。

     

     分かちがたい二つの魂がお互いに融けあう。

     

     澄んだ青空に、太陽と月がともに輝き。

     そして、ひとつの星となるかのような。

     

     

     想いがひとつになって、天の極に輝く星となる。

     それを中心に、星空がぐるぐると回転し始める。

     

     一瞬のうちに幾千幾万の夜が流れていき。

     

     

     そして、とわの輝きが不変となる――

     


     

     少女と想い人は、期せずして同時に目を開いた。

     二人とも、目に涙を潤ませ、頬を染めていた。

    「あの……えっと……なにが起きたの?」

     涙声で訊ねる想い人だったが、その顔には微笑みが浮かんでいた。

     

     少女はくすりと笑んでみせた。朗らかに、明るく。

    「――わかりません。わたしにも何が起こったのか」

     少女がそっと目を閉じた。溢れた涙がしずくとなって一筋頬をつたう。

     悲しい涙ではないことは、軽くはずんだ声から明らかだった。

    「でも、きっと素晴らしい体験だったことは確かです」

     

    「うん、すごかった……とっても」

     想い人が相好を崩す。双眸から涙がとめどなく溢れて流れる。

    「イった、という感じじゃないね。そんなあっさりしたものじゃなかった。もっと高みへと二人でのぼり詰めていくような、ずっと遠くへ飛んでいくような……ああ、アカデミーで文学にも手を出しておくんだったかな。言葉の無力を感じてしまうヨ」

     

    「無理に言葉にしなくても、いいんじゃないですか?」

     少女は愉快そうにささやくと、ちらと部屋の時計を確認した。

    「びっくりですね……小一時間しか経っていません」

    「そうだね。不思議。一緒に千年の時を過ごしたように思えたのに」

     そう囁いて、まだ離れがたいというふうに、想い人は少女にそっと身体を寄せた。

    「終わってしまったのが惜しい。済んでしまうと、もっと体験したくなるネ」

     

    「――これから何度でも味わえますよ。わたしとも……あの子たちとも」

     少女の言葉に、想い人はにまっと笑んでみせた。

    「おや、独り占めしなくていいのかな?」

    「……実は、最初はそう思っていたんですけれど――あんなのを体験しちゃうと、自分だけの秘密にしておくのが、かえってもったいなくて。何度かわたしたちで試してみて、大丈夫なようなら、他の子にも教えます」

    「びっくりするだろうね、きっと」

     

    「指揮官、前に言ってましたよね。百合の花を散らしたエンペラーサイズのベッド」

    「うん……ンン、最終的に六人でやってみるのかい?」

    「とても、面白そうじゃありません?」

     見つめてくる少女の瞳がきらきらと輝く。

     見つめ返す想い人の瞳もまた、好奇心と期待感で煌めいていた。

     

    「ンフフ。生きたままニルヴァーナへ旅立って、そのまま帰ってこれそうにないな」

    「帰ってこれますよ……あなたが手を引いてくれれば大丈夫です」

     少女がにっこりと微笑んだ。

     

     ペチュニアの蕾が、そっと綻んで花開くかのような。

     

    「あなたが導いてくれるなら、わたし達はきっと、どこへだって行けます」

     そう言って、そっと毛布をはごうとした少女を。

     想い人が、くいっと抱き寄せた。

     

    「――指揮官?」

    「最後に、キスがほしいな」

    「あんな体験をしたのに?」

    「うん。ちゃんと戻ってきたっていう確認がしたい」

     

     紫の瞳が煌めく、綺麗なパープルタイガーアイの光。

     それに吸い込まれるかのように、少女はそっと顔を寄せて。

     二人は、優しく満ち足りた口づけを交わした。

     


     

     宿舎に戻ると、照明はもう落ちていました。

     常夜灯が照らす暖かい光の中、ベッドに横たわった仲間たちが見えました。

     

     彼女たちを起こさないように、わたしがそおっと自分の寝床に戻ると、

    「――指揮官と何をしてきたの?」

     ちょっと拗ねた感じのFALの声が聞こえました。

     

    「素敵なことです――わたしはもちろん、みんなにとっても」

     くすくす笑いを含ませながら答えてみせると、

    「ふうん――なるべく早めにシェアしてよね、ホントに」

     ぼやくようなFALの声。そこにG36が続きます。

    「ご主人様は、わたし達みんなのものなんですから」

     

    「『愛されたいなら、愛し、愛らしくあれ』」

     コンテンダーがそっとつぶやいてから、くすりと笑みをこぼしました。

    「愛らしさなら、この中の誰もが、甲乙つけられませんからね」

     

    「だから――独り占めはナシよ、スオミ?」

     ヴィーフリが、少し妬いた――それでいて照れたような声で言います。

     

     わたしは、にっこりと微笑んで、言いました。

    「もちろんです。わたしたちは〔指輪の乙女〕ですから」

     歌うように、さえずるように、わたしは言いました。

     

    「……その魂は等しくあの人のために。その願いは等しく仲間のために」

     

     そのフレーズに、FALが口笛を吹き鳴らしました。

    「あら、新しい誓いの言葉? やるじゃないの」

    「なるほど……本当にご主人様と素敵なことがあったのですね」

    「あなたの言葉の通りなら、なるほど、期待できそうです」

    「ふふっ。ちょっと楽しみよね」

     

     ほんのりした灯りの中で、わたし達はさざめく笑い声をあげました。

     ええ、指輪で繋がれた仲間はどこまでも一緒です。

     一緒にそろって、あの人が連れて行ってくれる明日へ行くんです。

     

     そしていつの日か――

     みんなで空を飛んで、一緒に星になる日が、来るかもしれません。

     

     それは、とても素敵で。

     

     そして、心ときめく予感でした。

     

    〔ex.End

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