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2020.05.25 Monday

天使の叶えるプレイヤ 〔後編〕

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    おはようございます(=゚ω゚)ノ

    こちらは本日ブログ公開のドルフロファンジンSS

    「天使の叶えるプレイヤ」の後編となります。

     

    「ほう、前編から読むか!」というありがたいお客様は

    こちらからどうぞ

     

    sister_3_b.jpg

     

    姉のG36が、妹のG36cに持ちかけた提案とは?

    舞台は戦術人形どうしのトライアルマッチへ! 

    姉妹に立ちはだかる最優のチームはやはり“あの少女”が率いていた――

    策と技と力を尽くして、トライアルの決勝戦でぶつかりあう乙女達。

    そして、チャンピオンが指揮官に願ったささやかな望みとは?

     

    (本編は折り返し〜)


     

     青い瞳でじっと覗き込むと、緋色の瞳が逃げるようについと逸らされる。

    「……わたしは、別にそこまでしなくても……」

     

    「ご主人様――ローズ指揮官のご意向でも?」

     姉の言葉に、妹が大きく目を見開く。

     

     G36は、握っている手に少し力を加えると、うなずいた。

    「ええ、ご主人様は、あなたが出場してトライアルで優勝することを望んでおられます――ううん、正確には違いますね。あの方はこうおっしゃいました」

     

     メイドは喉元に手を添えた。

     指揮官の音声を合成して、メモリから再生してみせる。

     

    『優勝するだろう、とかではないよ。G36cなら、必ず優勝する。この基地の子の考え方なら、好きなことも嫌いなことも、得意なことも苦手なことも、みんな知っている。そのうえで、敢えて言うよ。出場するなら、必ずあの子がトロフィーを手にする。私は知っているから、断言できるんだ』

     

     その音声を聞いて、G36cの目が大きく見開かれる。

     

     姉は、それを認めて、少し咳払いをすると自分の声に戻って、言った。

    「……あなたに、本当に悔しいという気持ちはありませんか? 悔しさでなければ、羨望や嫉妬でも構いません。たとえば〔指輪の乙女〕のスオミ――あれだけ指揮官に認められて、信頼が置かれている戦術人形を見て、なんとも思いませんか?」

     

    「わたしは――あの子ほど、できる人形ではありませんから」

     緋色の瞳を揺らして妹が言う。

     

     それに対して、姉はかぶりを振ってみせた。

    「できるできないの話なら、スオミは存外不器用な子ですよ。一生懸命ですけど、目の前しか見えなくなる癖がありますし、かなり抜けているところもあります。副隊長のFALも似たところがありますから、わたしがサポートに回るのはいつものことです」

     

     そこまで言って、G36は目を大きく見開いた。

     険がなくなった青い眼差しはやわらかく――だが強い光を帯びていた。

     

    「スオミが、何に長けているか分かりますか?」

    「……作戦能力ですか?」

    「違いますよ――意志の強さ、自分の我を通す強さです」

     

     メイドは肩をすくめて、ふうとため息をついてみせた。

    「あの子は好き嫌いをハッキリ口に出しますし、こうと決めたら譲らない頑固さがあるのです。彼女が選ぶ作戦は最適解ではないことも多いのですが、それでもいったん決めたらやり遂げようと皆を引っ張っていきます。結局のところ、〔指輪の乙女〕というのは――スオミのお守り役をやっているようなものよ」

     

     姉の言葉に、妹は眉をひそめてみせた。

    「それは……お姉さんにとって、ご迷惑ではないのですか?」

    「ええ。迷惑ですとも。だけど、放っておけないのも確かなのです――あの子に引っ張られていくと、ついつい熱意に当てられてしまうのですよ」

     

     G36はふっと微笑むと、妹の頭をそっと撫でた。

    「あなたが見習うべきは、スオミの我儘さだと思います。認めてほしい、評価してほしい――そう思うなら、目に見える形でアピールしないと。でないと、分かってほしい方には伝わらないものです。想いは、言葉と態度で示さないといけないのよ」

     赤ベレーの乙女は黙って聞いていたが……緋色の瞳は、揺れていた。

     

     姉は肩をすくめて、さらに言葉を続けた。

    「あの子――スオミがなんだかんだ“[[rb:ローズ指揮官の一番 > Top of Her]]”なのは、彼女があの人のからかいに逐一反応しては、『自分はこう思っています』を伝えているから。そして、あの人が黙りこくっていたら『どうしたのですか?』と訊きに行くから。そのこだわりを全部真似しろとは言わないけれど――少しぐらいは見習っていいと思いますよ」

     そう言って、姉が黙ってみせる。

     

     しばらくしてから、そっとつぶやくようにG36cは言った。

    「わたしに――できるのでしょうか」

     

    「あなたがそう望みさえすれば。ローズ指揮官は人形をからかっても、嘘はつかない人。優勝する、と断言するからには――当のあなたさえ本気になれば、スオミの率いるチームでさえ、打ち負かすことができるでしょう」

     姉の言葉に――妹は自分の手に置かれた手をさらに上からかぶせた。

     

     そのまま、すうっと一呼吸してから、こくりとうなずいてみせる。

    「やって……みます――お姉さんは、構わないのですか?」

     

    「もちろん。今回の参加枠は部隊の縛りがありませんからね」

     そう言って、G36はにやりと笑んでみせる。

    「それに一度、スオミとFALのコンビとは矛を交えてみたかったのです。あちらもびっくりするでしょうね……ふふっ」

     

    「……それにしても、あと一人ですか。誰をチームに加えたら――」

     G36cが考え込んだところへ、ひょいと声がかけられた。

     

    「――フムン。ご助力つかまつりましょうか、お嬢さん?」

     赤銅の髪。戦列歩兵のような実用性と装飾を兼ねた軍装。

     肩から提げた、戦歴を重ねた古強者のごとき年代物のライフル。

     

    「エンフィールドさん……」

     G36cは驚いて声をあげたが――

     少しの逡巡を置いて、彼女に向かって手を差し出した。

     

     淑女は翠の双眸を細めると、その手を握ってみせた。

    「……よろしい。これでメンバーは決まりですね」

     

     三人の乙女は視線を交わすと、そろってうなずいた。

     


     

     今回のトライアル大会もまた、随分と大がかりだった。

     特設の大型訓練場に、本物の資材を持ち込んで市街戦を模したフィールドを構築している。三人一組の簡易チームを組んでの対抗戦。銃弾の弾頭は模擬戦用のものになっているが、単なるペイント弾などではなく、当たれば干渉ジャミングを発生させて人形の動きを阻害するという実に凝ったものだ。

     

     一応は、L211基地だけのレクリエーションということになっている。壁のスクリーンにデカデカと表示されたオッズも、基地のスタッフだけのお楽しみのはずだが――

     

    「――その割には……毎回、お金かかってますよねえ」

     亜麻色の髪の少女は眉をひそめながら、控室でうなった。

     

    「あら、なにかご不審な点でもあるの?」

     栗色の髪の相方――FALが訊ねると、スオミは腕組みしながら言った。

     

    「いえ、模擬弾自体がどこから出てきた新兵器なの? という感じですから。実際、指揮官って単純な雇用関係以上に、グリフィン本部と繋がりがあるみたいですし。わたし達の試合も実際のところは、ずっと偉い人に見られているのかも――」

     

     やや深刻そうなつぶやきをはじめた少女に、相方はため息をつくと、

    「なーに難しいこと考えちゃってるの。やっぱりアレ? 指揮官が大会のしょっぱなにわたし達にコインを賭けてくれなかったのが気がかり?」

     そう言って、スオミの頭をぽんぽんと軽くたたいた。

     

    「わぁ! もう、そんなんじゃないです」

     言いながらも、少女が頬をぷうとふくらませてみせた。

     アイスブルーの眼差しは不機嫌そのもので険しくなっている。

    「どうしてあの人ったら、あんなことを――」

     

     大会の開始挨拶で、ローズ指揮官は高らかに宣言したのだ。

     G36cのチームにコイン五万枚を賭ける、と。

     さらに優勝チームには、「それぞれ何でも望みをかなえてあげる」とも。

     

     大盤振る舞いを通り越して、頭のネジが外れたとしか思えないが――もともとローズ指揮官の変人ぶりは知られているので、みんなお祭りの熱狂に当てられて、気前のいい景気づけぐらいにしか考えていない。

     

    「だけど、あの人のことですから……なにかたくらみがあるに違いないんですよ」

     

     難しい顔をしてみせるスオミに、

    「すでに公言されちゃったものを悩んでも仕方ないじゃない。それよりは、ほら――その指揮官ご指名のチームの出番みたいよ」

     

     FALがそう促すと、スオミは控室のモニタに目を向けた。

     G36cがポイントマン、G36がバックアップ。後方からエンフィールドのスナイプ。

     

     その戦いぶりを見て――少女が眼光鋭くつぶやいた。

    「……手堅い戦い方ですね」

     

    「ちょっと意外。指揮官が肩入れするから、トリッキーな戦い方をするのかと思ったけど」

     FALがそう感想を洩らすと、スオミは小さくかぶりを振った。

    「以前、指揮官から教わったことがあります……チェスで最強の布陣とは、ゲーム開始時のそれだって。あの構えをそのまま押し立てていければ、負けることはないと」

     

    「また、あの人らしい無茶な言い振りね」

    「でも、G36cは少人数でその再現に成功しているように見えます」

     スオミの眼差しがモニタの中の彼女たちに向けられる。

     

     見事な連携プレーだった。お手本通りに見えて、実は細かなタイミングのズレをわざと作って相手側の対応を迷わせている。ポイントマンとリーダーを務めるG36cが自らサーチ役を担うことで、後から続くメンバーの配置を効果的にしているのだ。大胆に突撃しつつ、相手の隙をみて巧みに切り崩していく手際は、とても急造チームとは思えない。

     

     だが――それを見つめる少女の顔は静寂そのものだった。

     雪山の奥深くにひっそりと在る湖のごとく。

     鏡のように静かな湖面は、どこか硬質さと冷たさを感じさせる。

     

     そんな相方の様子を見て、FALがにんまりと笑んでみせた。

    「……ふふっ、対策はもう準備済みってわけ?」

     

    「対策というほどでもありません。単純な手ですけど、だから利くでしょう」

     

    「――なら、聞かせてもらおうじゃない、リーダーさん?」

     じっとモニタを見守っていた三人目のメンバーが声をあげた。

     

     艶やかな長い黒髪、ツンとつりあがった目元。

     黒を基調にした衣服に、胸元に映える赤いネクタイ。

     そして手にしたライフルは意欲的な独特のデザインをしていた。

     

    「隊長権限をいいことにいつも無茶振りしてくる、あの紅茶マニアにはいっぺん痛いのを食らわせたいんだから」

     

     彼女の言葉に、スオミはうなずくと、そっと手を差し出す。

    「作戦を説明します――プライベートデータリンクを」

     

     戦乙女の呼びかけに、仲間たちは次々と彼女の手に触れた。

     


     

    『ンンン、さーあ、決勝戦! いよいよラストバウトだ!』

     

     ローズ指揮官の飄々としたアナウンスが流れる。

     

    『まずはチームブルー。王者の貫禄、〔指輪の乙女〕からトライアル最多優勝のペア――スオミとFALに加えて、ライフル隊のサブリーダーの組み合わせ。これはもう順当だネ!』

     

     そこまで言って、ひと呼吸置いてからロロはさらに声をあげる。

     

    『そして、チームレッドだ。みんなまさかと思っていたろうが、私は当然だと思っていたよ? ここまで勝ち上がってきたのは、第三部隊のリーダーをいつも務めるG36c。そして、彼女に助力するベテラン二名だ!』

     

     ロロのアナウンスに歓声が沸き上がる。

     それがひとしきり落ち着いたところで、ロロは言った。

     

    『彼女の部隊については〔[[rb:継ぎはぎ組 > パッチワーク]]〕などと呼ぶ者もいるだろう――まあ敢えて正式な名称をつけなかった私にも責任はあるネ。そこは認めるよ……だから!』

     声高らかに、指揮官が宣言する。

    『いま決勝戦に挑む彼女へ……私から正式な部隊名をプレゼントしよう。今後はどんな編成であれ、このロゼ・ローズの指揮下では、これが彼女の率いる部隊の正式名だ――』

     彼女の言葉に、観客たちがしいんと静まり返る。

     

     そこへ、ロロの声が響き渡った。

    『――その名は〔正しき資質〕……“ライトスタッフ”だ!』

     

     どよめく観客たち――基地のスタッフたちに、ロロは語りかけた。

    『並外れた勇敢さとか、優れた作戦能力でもない――彼女が率いる部隊は、その時その場面において、戦う相手にとって最適の対応ができるメンバーとなる。だからこそ、部隊は固定化しない。その時に応じて、最もふさわしい技量を持った隊員で形作られ――だからこそ第三部隊のリーダーには、単なる強さを超えたものが求められる。それを果たせる戦術人形は……この基地でG36c、彼女しかいない』

     基地のスタッフ達から、どよめきがさらに沸いてくる。

     

     それを制するかのように、指揮官は最後のひと押しの声をあげた。

    『まだ疑う者がいるだろう。あやぶむ者がいるだろう――でもね、私は人形について嘘はつかないし、過大評価もしない。私は、知っていることをそのまま話しているだけサ。あとは――赤ベレーの彼女が証明してくれるだろう……』

     

     そこまで言うと、ロロはにやりと笑んで最後に叫んだ。

    『……さあ、試合開始まで十分足らず! 投票をやり直すなら急ぎたまえ!』

     

     けしかけるような呼びかけに、観客が一斉に沸き返った。

     


     

     試合フィールドへ向かう通路で――

     

     G36cは口を押さえて立ちつくしていた。

     肩がかすかに震え、目には涙を潤ませている。

     

     彼女の耳にも、ローズ指揮官のアナウンスは聞こえていた。

     

     そして、それに続く歓声も。

     半分は相手チームを応援する声。

     だが、もう半分は自分を呼ぶ声、自分の部隊名を呼ぶ声だ。

     

     思わず涙が溢れそうになった時――力強く、肩を叩かれた。

     

     目に入ったのは、フリルのついたヘッドドレスと冴え冴えした金髪。

    「これからです――あなたは実力を証明しなくてはいけません」

     姉の青い瞳が、優しげに、だが強い光をたたえている。

    「ご主人様があそこまで言ったのよ。恥をかかせてはだめ」

     

     その言葉に……G36cは天を仰いで、大きく一呼吸した。

     ひとつまばたきをして、正面を向き直る。

     その瞳にもう涙は溢れていない。

     代わりに闘志の光がたぎっている。

     

    「――行きましょう。〔正しき資質〕の呼び名に、恥じない勝利を」

     

    「『勝てると思えば勝てる。勝利には信念が必要』というところですね」

     背後でエンフィールドがそっとつぶやく。

     

     G36cは自らに従う二人に向かってうなずくと、声高らかに叫んだ。

    「部隊前進! 行け行け行け!」

     


     

     フィールドへ躍り出たチームレッドを出迎えたのは、熾烈な歓迎だった。

    「――散開ッ!」

     すんでのところで気づいたG36cが号令をかける。

     

     直後、チームがいた地点に、立て続けに連射が浴びせられる。

     明らかに、高所からの狙い撃ち。

     

    「どこから――」

     緊張で顔をこわばらせるG36cだったが、

    「――ずいぶんなところに陣取ったものですね」

     エンフィールドが流れるような動作でライフルを構えた。

     

     そのまま遠く向こうの物見櫓に向けて撃ち放つ。

     硝煙が消える間もなく、淑女がすぐにその場から駆ける。

     その後を追うように、立て続けに銃弾が地面を跳ねた。

     ライフル型による攻撃――だが、それは執拗にエンフィールドを狙っている。

     

     姉妹は――赤ベレーの乙女とヘッドドレスの乙女はうなずきあった。

     そのまま銃を構えて駆けだす。

     

     物陰に隠れていた、チームブルーの前衛が姿を現す。

     短機関銃をたずさえた亜麻色の髪の少女。

     アサルトライフルを構えた栗色の乙女。

     

     妹が前衛に回って盾代わりになり、姉がその背後に隠れる。

     狙うのは栗色の髪――FALだ。

     G36cが牽制の射撃を仕掛けようとした時――

     

     標的のはずのFALは避けようともせず、にやりと笑んだ。

     銃身に取り付けられたグレネードランチャーがこちらを睨む。

     

    「……お姉さんッ!」

     ハッと気づき、G36cが叫ぶ。

     後に続くG36が応じて距離を空けた瞬間、放たれた榴弾が炸裂する。

     

     態勢を崩されたペアが、互いの距離を離されてしまう。

     それをさらに追い打ちをかけるかのごとく、FALが榴弾を次々と撃つ。

     接近してくるG36cは、彼女の眼中にないように。

     

     ――で、あるならば。

     

     赤ベレーの戦乙女は、ブーツを地面で削りながら止まった。

     銃を構えて、正面を睨みつけた矢先。

     

     亜麻色の髪の少女が、アイスブルーの瞳を煌めかせ――

     音の壁を突き抜けるかの勢いで、突貫してきた。

     


     

    『ほらほら! しっかり避けないと当たるわよッ!』

     通信回線にのせて相手が煽ってくる。

     

     軽くため息をつきながら、一発応戦して、淑女は答えた。

    「いいのですか? 私のような年代物の足止めなどをして」

     通信に応じながらも、常に動き回ることを止めない。

     走った後には銃弾が跳ねていく。

     

     射程こそライフル型だったが、射撃速度が尋常ではない。

    『フン、アンタなんか変に狙ったりしたら、その隙に何をされるか分かったものじゃないもの。最低でも仲間と引き離して、あわよくば討ち取るまでッ!』

     

     戦意が滾りきった声に肩をすくめながら、エンフィールドは、

    「やれやれ、血の気が多いことですね。どうしてそこまで……」

     

     言いながら再度一発応戦してみると、櫓の上から五発ほど返答があった。

     地面が銃弾で次々と抉られていく。

     

    『アンタのせいでしょ! 毎回そりゃあもう変な雑用ばっかり押し付けてくれて! わたしは殺しのために生まれたのに、なんでアンタの小間使いになってんのよ!』

     

    「……フムン。足止めついでに憂さ晴らしですか」

     淑女は、凪のように静かな顔をわずかにさざめかせた。

    「ちょっぴり残念ですね。貴女はもう少し聡明だと思っていましたが――銃の性能に頼って数を撃てばいいというものでもないでしょうに」

     淡々とした声で、しかし、発音のアクセントでわずかに煽りを入れる。

     

     はたして返答は、猛烈な連射であった。

    『いーわよ! そこまで言うならどこまで逃げ切れるかやってご覧なさい! だいたいアナタの銃弾だってロクにこっちをかすめてさえいないわ!』

     猛烈な銃撃が、怒りの言葉に続く。

     

     それをかわしながら、淑女はまた一発撃ち放った。

     通信回線に乗らないよう、こっそりとひとりごちてみせる。

     

    「……当たり前ですよ。わたしの銃弾は貴女を狙っていないのですから」

     


     

     G36も懸命に移動を――いや、機動を強いられていた。

     

     駆けるどころではなく、時に跳び、時に地面に転がって避ける。

     その後を追うように、榴弾の爆発が次々とはじけた。

     

     FALは、最初の位置から動いていない。

     あくまで榴弾だけを使ってG36の動きを攪乱するにとどめている。

     

     いまいましげに睨みつけると、FALは得意げな笑みを浮かべていた。

     明らかな策略。あからさまに計算づくの動き。

     

     ちらと遠くのエンフィールドの様子を窺って、メイドは舌打ちした。

    「チッ……そう来ましたか」

     

     集団として手強いなら、個別に相手をすればいい。

     そして敵方の一角に、自陣の最強をぶつけて突き崩すのだ。

     古代ギリシア、スパルタの精兵を破ったテーバイの斜線陣。

     いわば、数の優劣を個々の性能に置き換えての再現だ。

     

    「……さすがスオミです」

     少女の戦術経験の蓄積度は分かっていたが、なお感嘆を禁じ得ない。

     それでこそ〔指輪の乙女〕のリーダー。誉れ高き、我らが隊長。

     だが――いまこの場に在っては、難敵そのものだった。

     

     榴弾の合間に、ちらと前衛の様子を窺う。

     G36cとスオミは、案の定、ある戦闘状態に突入していた。

     

     だが……それは予想のひとつとして、妹も挙げていたのだ。

     選んでほしくない戦法だったが、読めていなかったわけではない。

     しかしなお、その打開には忍耐が必要であった。

     

     勝機は――必ず来る。

     問題は、妹が凌げるかどうかだったが……

     

     そう考えて思わず、G36は口の端で微かに笑った。

     いまさら、何を迷うことがあるだろうか。

     指揮官のお墨付き以前に、なにより自分の妹なのだ。

     彼女の真価をいまさら疑う何物もない。

     

     ならば、機を待つだけだ。

    「――ヒュッ」

     G36は鋭く呼吸を入れて躯体を束の間クールダウンさせた。

     

     続く榴弾が飛んでくる。着弾地点を見計らって、躯体を再び跳ねさせた。

     


     

     繰り出される蹴り。次いで突き出される掌底。

     勢いよく回転して脇腹を狙ってくる肘打ち。

     スオミが次々と繰り出す攻撃を、G36cは懸命に凌いでいた。

     

     仕掛けられたのは――まさかの格闘戦だった。

     

     突如コロシアムに変じたフィールドの中央で展開する肉弾の戦い。

     その原始的といえる闘争の様子に、観衆が一斉に沸き返っていた。

     

     躯体の頑丈さであれば、スオミの方は上だ。

     銃撃戦であればタフさに繋がるが、格闘戦では打撃力に変じる。

     スオミに搭載された戦術反応回路。

     一時的な高機動を得るこれは、取っ組み合いでも有効に機能する。

     

     そしてなにより、スオミの武器は重いのだ。

     撃ち合いでは取り回しで不利になるハンデさえ活かして戦う。

     

     執拗にスオミは、G36cの銃を――それを持つ腕を狙っていた。

     格闘戦による武装解除。それが狙いなのだ。

     G36cの銃は繊維強化プラスチックで形作られている。

     つまりは軽いのだ。

     撃ち合いならメリットになる特徴が、いまはデメリットだった。

     

     必死で凌がなければ、銃を取り落としてしまう。

     そうなれば、もうおしまいだ。

     

     だが、対処策を考えていなかったわけではない。

    「……ふーっ」

     G36cは長く、太く、息を吐いた。

     熱を帯びた躯体をクールダウンさせる。

     

     逆転の目はある。それが来るまで、無理に抗わなければいい。

     こわばった躯体をゆるめて、G36cは打撃を受け流した。

     

     それまでと違った感覚に、スオミがかすかに怪訝そうな顔をする。

     違和感に気づかせないように、G36cは相手の動きに合わせて膝を繰り出す。

     

     スオミが身をよじって避け、反撃の手刀を突きだしてくる。

     それをいなしてみせると、示し合わせたように肘打ちを狙う。

     

     二つの楽器が自然とアンサンブルを奏でるかのごとく――

     

     いつのまにか、二人の格闘はまるで演武の様相を呈していた。

     


     

     物陰からリーダーどうしの取っ組み合いを窺って、

    「フムン。なかなかどうして、二人とも見事なものです」

     エンフィールドも格闘戦のテクニックとしてバリツを会得していたが、めったに使ったことはない。それに比べれば、二人の技はいずれも戦場で磨かれたものだろう。実戦経験値を反映すれば、スオミが上。理論的な動きの洗練さなら、G36cだろうか。

     

     いずれにせよ甲乙つけがたいのなら――どこかで打破する必要がある。

     エンフィールドは耳の近くをコツコツと指で叩いた。

     返ってきたのは、G36の咳払いであった。

     

    「頃合いよし、ですね」

     物陰から飛び出すと、櫓の上からまた勢いよく銃弾が飛んでくる。

    「さては、あの子……箱で弾を持ち込みましたね」

     あきれ半分につぶやくと、淑女はまた銃を撃った。

     

     ほどなく、得意半分嘲笑半分の声が通信に入ってくる。

    『どこ狙ってんの! 当たってないわよ!』

     

    「まったくです。これは訓練が必要ですね」

    『フン! アンタの射撃訓練?』

     

    「いえ、違います」

     エンフィールドは足を止めると、櫓の上をみつめてにやりと笑んだ。

    「貴女の戦術訓練ですよ――まったく、足場には気を付けないと」

     

    『はあ? 何を……え、や、ちょっと待って! 傾いてる! 崩れてる!』

     櫓を支えていた支柱がぐらぐらと揺れ、次々と外れていく。

     エンフィールドの銃弾は、ことごとく支柱の接合部を射抜いていた。

     

    『わあああ! こ、この卑怯者ぉぉぉぉ!』

     

    「心外ですね。クレバーと言ってください」

     淑女はそう答えると、崩れる櫓に向かって一礼した。

     両の手をさらりと横に流しつつ、腰を折って頭を下げる。

     嫌味なほどに鮮やかなボウアンドスクレープであった。

     


     

     櫓が崩れていき、通信回線に黄色い悲鳴が響く中。

     

     きっかり一ダースめの榴弾が炸裂したのを確認して――

     G36は地面を蹴って駆けだした。

     

     FALが舌打ちして銃を構えようとする矢先。

     先手を取って連続で銃を撃った。

     狙ったものではないから当たらないものの、

     

    「わわっ、こっちの準備まだなのに――ッ」

    「――榴弾だけでどうにかなると考えたあなたの落ち度です」

     慌てるFALに向けて、G36は再度射撃を放った。

     

     相手が横ざまに跳び、地面を転がって避ける。

     やはり命中弾は得られないが……もとより自分以上のベテランなのだ。

     こういう危地で自分を守るすべは心得ているだろう。

     

     ただし――守れて己の安全がせいぜいではあるが。

     

     FALが倒れて起き上がる隙に、G36は振り返った。

     狙いは相手リーダー。アサルトライフルの銃口を向ける。

     

    「――スオミッ!」 

     たまらずFALが声をあげる。

     

     彼女の叫びを聞いて、G36は心の中でほくそ笑んだ。

     そう――彼女の心配ばかりしてしまうのは、あなたの良いところ。

     だけど、この場はそれがチームの弱点となる。

     


     

     櫓の崩れる音。FALの叫び声。

     

     それを耳にした途端、スオミの動きが変わった。

     打撃を繰り出しながらも、どこか相手の出方を窺っている。

     

     それを察知して――G36cは、大きく一呼吸した。

     少女の動きにあわせて、何度か肉弾を合わせて――

     攻勢に耐えかねたように見せて、スオミを蹴り飛ばした。

     

     蹴り飛ばされた方は、しかし、地面で綺麗に受け身を取った。

     

     そのまま、片膝を立てて、短機関銃を構える。

     銃口は、G36cを狙っていた。

     

    「――これで、おしまいッ!」

     少女が叫んで、引き金に指をかける。

     

     赤ベレーの乙女は、避けようとしなかった。

     逆に地面を蹴って、スオミに向かってとびかかる。

     

     予想外の行動に、少女が唇を噛んで銃を撃ち放った。

     立て続けの連射音がフィールドに響き渡る。

     

     しかし――

     撃ち放ったはずの銃弾は、弾頭をひしゃげさせてバラバラと落ちた。

     

     銃口を遮っているのは、大きく開いたG36cの左手。

     その左手は、青白い燐光に包まれていた。

     

    「……お忘れですか、わたしの機能を」

     〔偏向障壁〕――歪曲した力場を張って実弾を防ぐものだ。

     

     そして、フリーになっている右手もまた、燐光を放っていた。

    「――なッ」

     銃を上げて逃れようとするスオミ。

     

    「遅いですッ!」

     その銃を狙って、ほのかに光るG36cの拳が繰り出された。

     力場で強化された打撃が短機関銃にクリーンヒットする。

     

     その予想以上の衝撃に――少女は抗しきれなかった。

     

     愛用の短機関銃が打ち飛ばされ、目を丸くするスオミ。

     

     その虚をついて、G36cは少女の態勢を崩して、押し倒した。

     馬乗りになって、その眼前に自身の銃を突きつける。

    「王手です」

     

     赤ベレーの乙女が言う。そこへ、

    「まだよ! まだみんなやられたわけじゃ……」

     態勢を立て直したFALが銃を構えてみせる。

     

     だが、その躯体を二発の銃弾がかすめてみせた。

     一発は脇から銃を突き出して撃ったG36の弾。

     そしてもう一発は、狙いすましたエンフィールドの弾。

     

     メイドと淑女はそろって声をあげた。

    「王手詰み」

     その言葉を聞いて、FALが苦笑いを浮かべた。

     

     スオミは目を丸くしていたが――

     押し倒されたまま、観念した様子で両手を上げる。

     そしてどこか爽やかな声で言った。

    「投了です――力場を温存された時点で負けでしたね」

     

     その途端、甲高いブザー音がフィールドに鳴り響いた。

     ファンファーレと共に、壁のモニターに表示される勝利者の表示。

    『チームレッド、勝利ィ! チャンピオンの誕生だッ!』

     誇らしそうに、ローズ指揮官のアナウンスが流れる。

     

     一斉に歓声で沸きかえる中、G36cはスオミの手を取った。

    「立てますか? ごめんなさい、どこか痛くされていたら……」

     

     おろおろする赤ベレーの乙女に、少女は笑いかけた。

    「平気です。わたしはタフですから。それより、ほら!」

     スオミがG36cの腕をつかむと、高らかに揚げさせた。

     

    「あのっ、これはちょっと恥ずかしいです――」

     頬を赤らめる乙女に、少女はウィンクしてみせた。

    「勝者の義務ですよ、ほら、もっと高く、こぶしを握って!」

     

     朗らかな声に、赤ベレーの勝者はしぶしぶ従う。

     気恥ずかしそうな“勝ち名乗り”に、歓声が一際大きくなった。

     


     

    「優勝おめでとう、G36c

     喜色満面の笑みで、ロロはチャンピオンにトロフィーを渡した。

     

    「……ありがとうございます」

     まだ信じられない、という顔の乙女に、

    「こらこら、勝者は堂々としてなきゃダメだよ」

     乙女達の主はウィンクしてみせると、嬉しそうに言った。

     

    「ンフフ、しかしコインに関しては実に稼がせてもらったよ」

     携帯端末に示された表示額を見せながら、ロロはエンフィールドに言った。

    「じゃ、これは人事考課と突き合わせて、とくに首が回っていないヤツへの救済策にするから。なんか財布飛ばしたバカがいたら、くれぐれも早まらないようにしてやってネ」

     

    「……まったく。貴女はどこまでも人が良いですね」

    「でしょう? 私ってば善人だよ? 聖女だよ?」

    「……ご主人様は善や聖というには、俗にまみれすぎていますよ」

    「ンンン! これだからなァ、ベテラン連中はなんで口が悪いんだい!」

     

     指揮官の嘆きに、三人が顔を見合わせて、声をそろえて言った。

    「――だいたい指揮官のせいじゃないですか?」

     

     三人がかりで確認された事実に、ロロは顔を覆って悶えた。

    「オゥン! 私って人望があるんだかないんだか、分かんないネ!」

     

     その言葉に、三人だけでなく――表彰式を見守る観客もどっと笑う。

     この基地が、異端で破天荒なのは、ひとえに彼女あってこそなのだ。

     

    「こほん――さてと、優勝チームにはご褒美と言ってたよね」

     彼女は、ぱっと両手を広げてみせると、元気よく訊ねてきた。

    「かなえられるものなら、どんなものでも各人ひとつだけ」

     煌めく紫の瞳が、三人を探るように見つめる。

     

     最初に手を挙げたのは――G36であった。

    「ご主人様への24時間密着ご奉仕を希望します」

     

    「……それ、ご褒美になってるの?」

     目をぱちくりさせるロロに、メイドは薄っすら笑んでみせた。

    「それはもう、おはようからおやすみはもちろん、ベッドの中でも食事の時もお風呂の時も、わたしの念入りなご奉仕を受けていただきますよ」

     

     響き渡るメイドの言葉に、一斉に「おおー」と歓声があがる。

     一画が早くも騒がしいのは、もうその件での賭けが始まっているのかもしれない。

     

    「わー、なんというか優しくお願いするヨ……さて、次はエンフィールドに聞こうかな」

     

     訊ねられた淑女は、軽く首をかしげてから――こともなげに言った。

    「辞退いたします」

     

     観客から一斉にどよめきがあがる。乙女達の主は目をぱちくりさせた。

    「えっ、いいの? 遠慮しなくていいんだよ?」

    「構いません――つまり、指揮官に貸しひとつとなります」

     淑女は人差し指を立てると、自分の唇にそっと当ててみせた。

    「返してもらった、と思うまでは貸しのままですから……そういうことです」

     

    「わー、相変わらずのズルっこだね、きみ……」

    「英国人のパーソナリティですから。致し方ありません」

     

     それを聞いて肩をすくめたロロは、最後にG36cに向き直った。

    「さて、最後はきみだ。実のところはきみのために用意した贈り物と言ってもいい。さあどんな願いごと(プレイヤ)をかなえたい? 遠慮はいらないよ。いまのきみなら、どんなことでも皆は納得するだろう。さあ、心のおもむくままに言ってみるといいサ」

     

     優しく微笑んでみせる彼女に――G36cは顔をうつむけた。

     

     そのまま、小さな声で言葉を紡いだ。

    「あの……なんというか、ここに来るまでに、願いごと(プレイヤ)は全部叶えて頂いてしまった気がするんです。部隊の名前もそうですし、自分への自信もそうです。全部満たしておいてから、それで何を望むって訊いてくるなんて――」

     

     G36cが顔をあげる。緋色の瞳が涙で潤んでいた。

    「――指揮官ったら、いつか翼を生やして天国へ帰ったりしたらダメですよ?」

     

    「オーゥ! これは褒められたものだ。私が天使みたいじゃないか」

    「そうとしか思えません。人形の守護天使じゃないんですか?」

     

    「あおいにくさま。私はただの人間さ。しかもどっちかっていうと、結構ダメな方だと思うなア――でもね、ひとつ心に決めていることがある。それはサ……私の目の届くところにいる人形は、必ず幸せにすること。きみ達は祝福されて生まれてきたんだ、と思えるように、精いっぱいの努力をする。そんなバカげたことを心に誓った、ちっぽけで傲慢な人間にすぎないヨ」

     

    「それなら――」

     赤ベレーの乙女は、瞳を潤ませて、言った。

    「――人間だとおっしゃるなら、そのカラダを確かめさせてください」

     

     その言葉に、観客から一斉にどよめきが起こる。

     どちらかといえば、祝福とからかいまじりの声だ。

    「ははは、そりゃ嬉しい言葉で――って、スオミとFAL! 頼むから棘交じりの視線でにらむのはやめてよっ。乞われたなら仕方ないだろう――それで? どうすればいい?」

     

     にんまりと笑む指揮官に向かって、艶っぽい声で乙女は言った。

    「…………ハグ、してください」

     

    「――はい?」

    「だから、その……ぎゅっと抱きしめてください」

     G36cの声はいまにも羞恥で消え入りそうだった。

     

     最初に笑い出したのは、チームメンバーの二人だった。

     次いで、優勝を争ったスオミ達が笑い出し――やがて、皆が愉快そうに笑った。

     

    「あー……まあ、うん。この場合、わたしが汚れているということだネ」

     苦笑いを浮かべてから――ロロは表情を改めた。

     

     目を細めて、慈母か天女のような表情で、優しく乙女を抱きしめた。

     乙女の方も、そっと彼女の背中に手を回す。

     観客の一隅から拍手が起こり――やがて皆の喝采へと変わった。

     

    「……これでいい? 満足した?」

    「はい……すみません、夢じゃないかと思ってしまって」

     

    「はは。夢は夢でも、かなえる方の夢にしてしまえばいいんだよ」

     

     そう囁くロロを、乙女は顔をあげて見つめた。

     ぽうっとした表情。

     朱に染まった頬。

     潤んだ双眸。

     

     ロロは紫の目をぱちぱちしていたが、ややあって、

    「じゃあこれは……ささやかなオマケと思ってネ」

     そう語りかけると、おもむろに乙女の唇を奪った。

     

     穏やかな気持ちで見守っていた皆が、一斉に「あーっ!」と声をあげる。

     女の子遊びのプレイガール、ロロの悪い癖発動であった。

     

     たっぷり唇をねぶられた乙女は……G36cは――

     顔を真っ赤にすると「きゅう」とうめいて崩れ落ちた。

     あわてて姉が抱き留めると、妹は目をぐるぐる回していた。

     

    「ははは……あー、やりすぎちゃった?」

     照れ笑いをしてみせるロロに――

     

     G36が握りこぶしを作って振り上げ、

     エンフィールドが穏やかな表情のまま平手打ちを構え、

     スオミとFALがスパークリングワインの瓶を手にして駆けてくる。

     

     数瞬後。

    「あがっ! あががっ!」

     衆人環視のもと、めでたくロロはしかるべき制裁を受け――

     

     ここに今回のトライアル大会も無事に閉幕となったのである。

     


     

     あのトライアル大会の後。

     わたしを取りまく環境は随分と変わりました。

     いえ……正確には、わたしが変わったのですけれど。

     

     まずやったことは、過去の作戦で一緒になった子と連絡を取りました。

     皆、トライアルを見ていて、口々に祝福してくれたのはもちろん――

     次に組む時はぜひ声をかけてほしい、と言ってくれました。

     

     そして、指揮官から第三部隊の編制指示を受けた時。

     ちょっとルールを変えてもらえるようにお願いしました。

     どんな作戦で、どんな相手か伺ったうえで――

     わたし自身がメンバーを募ることにしたのです。

     〔正しき資質〕と名乗るからには、納得して部隊を組みたかったのです。

     わたしはもちろん、参加するメンバーにも――

     その時、その場において、参加することが誉れと思えるように。

     

     あと、第一と第二の部隊長とも、交流するようになりました。

     スオミさんはもちろんですが、〔厄介の妖精〕の隊長ともです。

     それぞれに違った意見や戦い方を学ぶのは、新鮮な喜びでした。

     ただ、スオミさんからは「友達だけど、まだライバルじゃないです」と念押しされて。

     妙に気を揉んでいるように見えるのですけれど、どうしたのでしょうか?

     

     ただ、そんなわたしには、新しい困りごとがひとつできてしまって。

     今日も休憩時にレクリエーションルームの隅でうなっています。

     

    「……あのね、G36c? 恋文とかあまり意味がないのですよ?」

     わたしの様子を見たお姉さんが呆れ気味に言います。

    「表彰式で何をされたか覚えているでしょう? あの人、そっちの方はかなり食い意地が張っていますから、夜に寝間着一枚で私室を訪問すれば、美味しく召し上がってもらえますよ」

     

     姉のアドバイスに、わたしの反論はいつも決まっています。

    「ダメですよ! そういうことをする仲だったら、ちゃんと手順を踏んで仲を深めて……そうです、あの人がわたしだけを見てくださるようにまごころ込めて想いを伝えて――」

     

     対するお姉さんは、なんだかうんざりな感じです。

    「ご主人様の心は、海か大空みたいに大きいから、大地のような子でもなければとても埋められないのよ……あのスオミだってそこまでは――ちょっと、聞いてるの?」

     お姉さんはお小言ばかりです。

     

     わたしは適当に相槌を打ちながら、恋文の続きを書きます。

     ええ――あの天使のような人に、きちんと届くような言葉を紡がないと。

     彼女が、天の園に帰ってしまう前に想いを伝えるために。

     

     そんなわたしの大事な恋文が――

     

     ひょんなことから〔鉄血〕のエリート人形の手に落ちてしまって。

     なんとも大騒動になってしまうのですけれど……

     

     それはまた、別のおはなし。

     

     

    〔ep.3「天使の叶えるプレイヤ」End〕

     

    〔――Next.Ep「姉妹ならぬ絆のラーヴェ」〕

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