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2020.06.01 Monday

姉妹ならぬ絆のラーヴェ 〔後編〕

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    おはようございます(=゚ω゚)ノ

    こちらは本日ブログ公開のドルフロファンジンSS、

    「姉妹ならぬ絆のラーヴェ」の後編となります。

     

    「ほう、前編から読むか!」というありがたいお客様は

    こちらからどうぞ

     

    sister_04_b.jpg

     

    退屈ながら平穏なはずの〔止まり木〕の日々。

    ところがG11の振る舞いがなにやらおかしくて……?

    怠惰なはずの相方のまさかの行動に疑念を持つ416だが……

     

    (本編は折り返し〜)


     

     

    「ふわあ……眠い〜」

    「あなた、どれだけ眠れば気が済むのよ……」

     

     基地の通路を、416とG11は連れだって歩いていた。

     正確には、前を歩くのが416

     彼女に手を引かれて渋々ついていくのがG11だ。

     

    「こんなに待機ばかりじゃ、勘が鈍るわ。訓練ぐらいしないと」

    「えー、ヤダァ」

     

     ぶうたれるG11に、416が振り返って冷たい視線を向ける。

     棘だらけの視線でにらまれて、相方はげんなりした顔をしてみせた。

     

     二人が向かっているのは射撃訓練場である。

     偽装の効果なのか、二人は再配属待ちの基地預かりという待遇のままであった。なにか仕事を振られて、それで暇をつぶすなり、緊張感を保つなりできるかと思ったのだが――実際は閑居する日々であった。不善を為すというならG11はこれ幸いと眠りっぱなしであって、416は所在なげに基地をうろついては無為の時間を過ごしていた。

     

     エンフィールドが射撃訓練に誘ってくれたのは、もっけの幸いだった。

     人形の射撃性能が劣化するということはまずないのだが――

     メンタルモデル的には、訓練できるならやっておきたいところなのだ。

     

     少なくとも416としては、完璧を目指す以上、刃は研いでおきたい。

     

    「ほら、ぐずぐず言わずに、さっさと歩く!」

    「え〜〜〜」

     

     手を引いて歩くというより、ずるずる引きずるていであったところへ、

    「――おや、二人で仲良くどこへ行くんだ?」

     ずしりと低い声がかけられた。

     

     視界に入るのは黒と臙脂の制服を着こんだ、隆々とした男であった。

     胸板は厚く、腕は丸太のように太い。髪は短く刈り込んでいる。

     だが、顔つきは神父か牧師のように福々しく、穏やかであった。

     

     彼に向って、416はすかさず敬礼してみせた。

     ――相方に肘でつつかれて、G11がのそのそと続く。

     

    「リーゼ指揮官、お世話になっています」

     416がきびきびとあいさつすると、彼はうなずいてみせた。

     

    「いやいや、いいんだよ。指揮系統を離れてしまって、元の部隊もわからないのでは大変だろう。娯楽は少ないだろうが、ゆっくりしてくれたまえ。じきにグリフィン本部から再編成の指示がくるだろうから……」

     

    「あの――指揮官? 遠慮などなさいませんように。退避組とはいえ、戦術人形である以上、基地のお役に立つべきですから」

     凛とした声で416が言ってみせると、その隣で、

    「……えー、ラクできるなら別にいいじゃん」

     ぼそぼそした声でG11が言うのに、416は無言で足を踏んで黙らせた。

     

    「ああ、いいんだよ。待機中に本来の所属が分かるかもしれないし、それまでに諸君に何かあったら困るからね――それはそうと、最初の質問に答えてもらっていないね?」

     

     穏やかな笑みを浮かべて訊ねる巨漢に、416はきびきびと答えた。

    「はい、寝てばかりもいられませんから、銃の訓練を」

     

    「熱心だね、自分を磨くのはいいことだ――まあ、怪我には気をつけなさい」

     指揮官はそう言うと、敬礼をして二人のそばを通り過ぎようとして――

     

    「……じゃあ、またな」

     軽くそう言うと、G11の頭をそっと撫でていった。

     

     そんな彼の後ろ姿を見送って、416はぽつりとつぶやいた。

    「なんか……見た目はすごく男らしいのに、なんかなよっとしてるのよね」

     

     彼女の疑問に答えたのは相方である。

    「軍の出身らしいよ。第一線の戦闘部隊じゃなくて、治安活動で活躍していたみたい。ただ、軍がそっち方面をグリフィンにアウトソーシングしだしたから、転職を決めたんだってさ」

     

    「……なんでそんな詳しいのよ……」

    「食堂で皆の話聞いてると、ちょいちょい耳に入ってくるよ」

     G11が上目遣いで見上げてくる。

     

     鉄錆色の瞳が、とがめるような視線を投げかけてきた。

    「――隊長がいないからって、気を抜いていない? アンテナは張らないとさ」

     ぼそっと言ってみせる相方の言葉。

     

     416はにんまり笑むと、平手でぱかんとG11の頭をたたいた。

    「あだっ」

    「えらそうなこと言うなぁ! 一日中寝ている子が何を言うのよ!」

     

    「たたくことないじゃない……」

     G11は口をとがらせながら、かぶっていた帽子を直した。

    「せっかく指揮官が撫でてくれたのにさ――」

     

    「……そういえば、去り際の『またな』ってなにかしらね……」

    「別に不思議なことじゃないでしょ」

     相方は眠そうな声で416の疑問に答えてみせた。

     

    「同じ基地だから、また会うのは当たり前じゃん」

    「それも……そうよね」

     かぶりを振りながら、416は同意してみせた。

     

     ふと湧き上がってきた疑念を振り払うと、声をあげた。

    「ほら、しゃんと歩く! 訓練場に着くなりへばるんじゃないわよ?」

    「……はいはい……わかったよ、もう」

     相方の返事を聞いて、416は再び手を引きながら歩きだした。

     

     歩きながら――

     認識領域の片隅に、先ほどの指揮官の仕草がしつこく残っていた、

     何度繰り返し見ても、G11の頭を撫でる時の指使いが気になる。

     

     それは妙になまめかしく、どこか気色わるいものに見えたのだ。

     


     

    『こちらソルト。こちらソルト。ビネガー、聞こえますか?』

    「こちらビネガー、よく聞こえますよ」

     

    『……このコールサイン、ちょっとアレじゃないですか?』

    「ポテトやコッドでは嫌だと言ったのは貴女でしょう」

     

    『いいです。本題に入ります――隊長がデータを送ったブツですが』

    「さすが、仕事が早い。クロだったでしょう?」

    『ええ、ケミカル系の……グリフィンでもあるんですね、こういうの』

     

    「めずらしいことではありません。ウチが清潔すぎるんです」

    『……ある意味でお嬢様学校並みですからね』

    「学園長がそれはもう気を使っていますから」

     

    『――それで? 正面から堂々押し入りますか?』

    「ほぉ。なかなかいい考えですね」

    『……お気に召しませんか?』

     

    「可能なら穏便に済ませたいところです。その意味では、いまここはイレギュラーを抱え込んでいますからね。彼女達にちょっとだけ手伝っていただきましょう」

     

    『あ……悪いことを考えている声だ』

    「英国人のパーソナリティを受け継いでいますからね、仕方ありません」

    『……それは、わたしも同じはずですが、隊長ほど曲がっていません』

     

    「あの方の薫陶によるものですね。早くこちらへおいでなさい」

    『またの機会にしておきます――ひとまずは、どんな準備を?』

     

    「正式なワラントを入手してください。あとはこちらでやります」

    『大丈夫なんですか? そのイレギュラーとやら』

     

    「読みが確かなら、彼女たちはこの手の事案は慣れっこのはずですよ」

     

    『……いったい、何者なんです?』

    「“:悪戯妖精が化かされた事件”は聞いたことあるでしょう?」

    『それじゃ、まさか――』

    「おっとそこまで。見えないものは、見ないことにするのが吉です」

     


     

     射撃訓練も食事も終えて、416とG11は宿舎に戻っていた。

     

     ライフル部隊の隊長だけあって、エンフィールドの腕前はなかなかのものだった。ほぼ一週間ぶりに銃を撃ってみて、自分たちの感覚が鈍っていないのを確認できたのも安心できる要素だった。 

     

    そのあと、くだんの淑女が食事に誘ってくれたのも、ありがたかった。

     ただ、ひょんなことから「手料理でも作りましょうか」と先方が言い出し、メニューを聞いてみたところ「ウナギのゼリー寄せに、マッシュポテトがいいですかね」などと言い出し、丁重に遠慮するのには随分と苦労したのだが。

     

     ベッドに倒れ込んで、うつぶせで横になりながら、

    「はあ――いつまで続くんだろ、この生活」

     

     ついぼやきが出てしまう416に向かって、G11が眠そうな声で答えた。

    「だから休養してればいいじゃん――任務になったらまたツライんだし」

     そそくさと寝間着に着替えながら、大あくびをしてみせる始末。

     

    「ふわあ……ねむ……寝るねー」

    「宣言しなくても見りゃわかるわよ」

     

     鼻を鳴らしていったんはそう応じた416だったが、ややあって、

    「――ねえ、まだ起きている?」

     

    「寝てる」

    「起きてるじゃないの」

    「……なあに?」

    「あなた、夜にいったい何をしてるのよ」

    「ああ……食堂へ適当に漁りに――」

    「……それだけ?」

    「なんかサイクルずれてるっぽい――もう寝かせてよ」

     言うや、G11がすうすうと寝息を立て始める。

     

     416はしばらく相方の顔を見つめていたが、

    「なら、いいんだけどさ……」

     ため息をついて、毛布をかぶると相方に背中を向けた。

     

     ――躯体をクールダウンさせる呼吸の音がなくなり。

     サスペンドモードになって寝返りも打たなくなり。

     二人きりの宿舎には、しいんとした静けさが満ちた。

     

     閑寂とした時間が流れて、どのくらい経ったのか――

     

     

     不意に、片方がそろそろと身を起こした。

     

     ぼさぼさした灰色の髪を手櫛で整える。

     別のベッドで寝ている銀髪の相方をしばし見つめた後。

     こくりとうなずくと、赤錆色の目をこすりながら――

     

      少女は、昨夜と同じように、寝間着にスリッパだけの姿で宿舎を出た。

     


     

     そして。

     

     相方の一部始終を、世話役を自ら任じている彼女は、見ていた。

     

     毛布の隙間から小型カメラを覗かせて、自分の視界に接続しておいたのだ。

     がばと跳ね起きると、携帯端末を取り出して位置シグナルを確認する。

     

     基地の見取り図は入手していたが――食堂へ行くには方向がおかしい。

    「……あのバカ、まさか本当に変なことを――ッ」

     舌打ちと同時に、いまいましげにつぶやいて、宿舎の扉へ向かう。

     

     変なこととは何なのか。予測はできるが、416は敢えて考えないようにした。

     もし“本当にそうなら”、これからあいつをどんな目で見ればいいのか。

     

    「頼むわよ、本当に、もう……」

     銀髪をかきあげると、キッと表情を引き締め――

     携帯端末を片手に、彼女は相方の後を追って歩き出した。

     


     

    「ああああ……なんてことよ」

     声を潜めて物陰から窺いながら、416はわなわなと震えていた。

     

     はたして、指揮官の私室までやってきた寝間着姿のG11

     少女を待っていた様子の、若干取り乱した様子の男。

     

     明らかに酒が入っている様子の彼は、みっともない泣きべそ顔で。

     そして、息遣いも荒々しく、華奢な少女を抱きすくめていた。

     

     だが――それよりもショックを受けたのは相方の顔つきだ。

     いつもは眠そうな目つきが、見たことのない慈しみの眼差しをしていた。

     それでいて男にかける声は、くすぐるかのような媚びた声音。

     

     男の太い腕に抱きしめられて、寝間着に包まれたカラダの線が見えるようで。

     およそ、普段から見慣れている、だらしない寝ぼすけではない。

     自身の価値や売り方を知っている――オンナの振る舞いだった。

     

     男が――指揮官が、少女を抱きすくめたまま、部屋の中へ消える。

     

     すかさず閉められ、視界から切り離された室内で――

     どんなことが行われているかは、およそ想像に難くない。

     

    「嘘でしょ……なんで……なんでよ」

     416は壁に背をもたれさせながら、ずるずると座り込んだ。

     

     感情パラメータがネガティブに波打つ。

     コントロールしきれない苛立ちのまま、思わず足を踏み鳴らした。

     何をやっているのか? あいつは何をやられているのか?

     疑問と怒りで思考パルスがぐるぐる回りだし――

     思わず双眸に涙が溢れそうになった矢先。

     

    「……いかがされましたか?」

     凪のような穏やかな声がかけられた。

     

     目を向けると、懐中電灯を手にした淑女が歩いてきた。

     翠の目が、照明を反射して鮮やかに光る。

     

     その双眸が――へたりこむ乙女と、指揮官室の扉をそれぞれ捉えた。

     淑女の目の動きを、416は見逃さなかった。

     憤然として立ち上がると、エンフィールドに詰め寄った。

    「……あなた、最初から知っていたわねッ」

     


     

    「何を、でしょうか?」

    「とぼけないで! G11とここの指揮官の関係よッ!」

    「知っていたわけではありません」

     肩をすくめながら、淑女はあっさりと答えてみせた。

    「――ただ周辺の様子から、こうだろうと推測はしていましたが」

     

    「それを、知っているって言うのよッ」

     銀髪の乙女は気色ばんで、赤銅の髪の淑女の肩をつかんだ。

     

     険しい目つきでにらみつける彼女を――

     エンフィールドは冷ややかに見つめ返していた。

    「それで? あなたのお連れさんが自分の意思で指揮官となにやら関係を持っていて、お互い合意の上だとして――倫理コード上、なにか問題がありますか?」

     

    「――――ッ! だからって!」

     

    「まあ、落ち着きなさい。あまり褒められた習慣ではありませんが、グリフィン内部では指揮官と人形がそういう関係になるのは珍しいことではありません。戦術人形は多彩な子が揃っていますし、立場上、使用者にあたる指揮官に好意を持ちやすい。最初に求めるのがどちら側にせよ、なんらかの意図なり欲求なりを満たすために合意して行為に及ぶことは、ままあることです」

     淡々と言われて、淑女の肩をつかんでいた416の手の力が抜けた。

     

     顔をうつむけて、震える声でこぼす。

    「だけど……あいつがなんで――ここにはちょっと足を留めるだけなのに」

     

    「フムン。こうは考えられませんか? もし、お連れさんが“できるだけ自由にできる時間と状況を確保するために”、ここの指揮官に取引を持ち掛けたのだとしたら?」

     エンフィールドの言葉に、416は息を呑んだ。

     

     顔をあげると、翠の双眸が鋭く光っていた。

    「考えてみてください。わたしのように素性の知れている人形ならまだしも、普通、所属の定かでない人形を迎え入れたら、通常の指揮官がとる行動は二つです」

     

     そう言って、淑女はまず親指を立ててみせた。

    「ひとつはスリープモードにして保管庫送りにするパターン。普通はこちらですね。人間と違って人形は眠らせっぱなしでコンテナに放り込めますから。扱いが決まってから再度起動させてしかるべき手配をすればいい」

     

     次いで、人差し指を立ててみせる。

    「もうひとつは、自身の基地に臨時編入させて、なし崩し的に人員補充してしまうパターン。まあ、雑用に使うもよし、戦闘部隊に放り込むもよし。どちらにせよ、何もしない人形を一週間も遊ばせておくほど余裕のある基地というものは――まったくないとは言いませんが、めったにあるものではありません」

     

     そこまで言って、エンフィールドは片眉を吊りあげてみせた。

    「……ですが、あなた方二人にとっては、そのどちらも避けたかったのでは?」

     

     淑女の言葉に、416は目つきを険しくした。

     声を低めて――持参してきたサイドアームの拳銃に手をやりながら、

    「……あなた、何者? どこまで知っているの?」

     

     殺気を込めた問いだったが、淑女は苦笑を浮かべてかぶりを振った。

    「何も知りません。言ったでしょう? 周辺から推し量っているだけだと。丹念に足跡を消したとしても、消したこと自体をトレースしていけば、なんらかのシルエットが浮かんでしまうことは、ままあるものです」

     

     穏やかな声で言うと、淑女は416の肩にポンと手を置いた。

    「ご安心ください。わたしは別件でここの指揮官に用があるだけです。あなた方の邪魔をする気はありませんし、用が片付いた後の善後策もどうにかできるでしょう――あと、拳銃から手は離していただけますか? これだけの接近状態でしたら……あなたの銃よりも、わたしのバリツの方が速いと思いますよ」

     

     エンフィールドに言われて――416は自身の動力コアのあたりに、いつの間にか淑女の手のひらが押し当てられていることに気づいた。

     

    「なッ――いつの間に」

     ぎょっと目をむく銀髪の乙女に、淑女は静かな声で語りかけた。

    「おそらく平常のあなたなら、こうはいかなかったでしょう……それだけ動揺されている証拠です。ここはどうか、おまかせ願えませんか?」

     

     言うや、エンフィールドがすっと身を退いて、軽く頭を下げてみせる。

     油断なく淑女の赤銅色の髪をにらみながら、416は訊ねた。

    「あなたの何を信用しろというの?」

     

    「そうですね。束の間の茶飲み仲間として、はぐくんだ友情――でいかがでしょう?」

     しゃあしゃあと言ってのけたエンフィールドに、416はため息をついた。

     

    「あなた、かなりいい性格しているわね……」

    「恐れ入ります。英国人の気質を受け継いでおりますので」

     実に言い慣れた口調で答えると、淑女がわずかにウィンクしてみせた。

     

     それを見て取って――銀髪の乙女は両手を空けると、ひらひらと振った。

    「わかったわよ……あなたの性格は正直アレだけど。手際のよさと、相当な遣り手なのは認めてあげる――それで、どうするっていうの?」

     

     416が訊ねると、すっと目を細めながら、エンフィールドは扉へ歩み寄った。

    「フムン。こういう場合は“オープン・セサミ”が基本です」

     


     

    「リーゼ指揮官。L211所属、リー・エンフィールドです。少しお話が――」

     扉の呼び出しマイクに向かって、淑女は話しかけた。

     

    「――聞こえていらっしゃいますか? 聞いていらっしゃらない? なら仕方がありませんね……いま、そちらへ本部発行の令状をお送りしました。ご確認ください」

     そう言って、二呼吸ほど置いてから、淑女は毅然とした声で言った。

     

    「D512基地指揮官、ベルント・リーゼ殿。ドラッグの闇取引、および、服務規定に違反した薬物濫用の疑いで、グリフィン本部から査察令状が出ております。ただちに応答願えますか? ご回答願えない場合、当方も不本意ながら実力行使をせざるを得ません。理性がおありなら、おとなしく出てきていただけませんか」

     エンフィールドが数え上げた罪状に、後ろに控える416が目を丸くする。

     

    ほどなく、室内でドタドタと騒がしい音がした。

     それに混じって、軽く少女が慌てるような、うめくような声もする。

     扉に駆け寄りそうになった416を――エンフィールドが手で制した。

     ほどなく、扉わきのスピーカーから、涙まじりの男の声が発せられた。

     

    「グ、グリフィン本部の査察令状だと……人形ふぜいが何を言っているんだ……お前などに人間の指揮官をどうこうできるはずがない――ど、どこの回し者だ」

     

    「事実を申し上げているだけですよ。お送りした令状にはわたしの身分証明もついていたかと思いますが……グリフィンの戦闘要員として籍を置いてある関係上、一応は手持ちの銃と同じコールサインを名乗っておりますが――わたしは市民権を有し、個別の名前を持っている身分です。そしてグリフィンの査察規程では、自然人と同等の権利を持つものであれば、人形であっても査察官の権限を有する、となっております」

     

    「……ばかな、ばかなッ。なぜ市民権など……クソッ、クソッ!」

     悪態と共に、室内でガラスが砕けるような音がした。

     かすかに、少女のうめきがそれに入り混じっている。

     

     そして、扉が――ゆっくりと開いた。

     目を血走らせ、顔を赤くした巨漢が出てきた。

     右手には護身用とおぼしき拳銃を握りしめ――

     そして左手では灰色の髪の少女を抱きかかえていた。

     

     G11がぐったりしたような顔で、囚われたままになっている。

    「……このバカッ! なにやってるのッ」

     416が悲鳴まじりの声をあげるが、当の少女は軽く呻いただけだった。

     

    「う、動くなァ! 動くんじゃねェ!」

     指揮官――いや、惑える男は手にした拳銃を二人に突きつけた。

    「こ、ここは俺の基地だ! 俺がやっと見つけた安息の場所なんだ!」

     

    「おや、人知れず酒におぼれ、ドラッグで平静を保ち、それだけでは精神が休まらずに夜ごと華奢な少女を抱かないと満足に眠れない身で、安息などと言いますか」

     淑女が冷ややかな目つきと声で、煽る。

     

    「がああぁぁぁああ!」

     巨漢は言葉にならない怒声をあげると、

    「こいつが! この人形がどうなってもいいのか! そこの銀髪のお前、この小娘の連れなんだろう! 傷をつけられたくなきゃ、そっちの高慢ちきな人形を取り押さえろッ」

     

    「……ッ」

     男の無法な要求に、416がためらいつつも腰のサイドアームに手を伸ばした―――

     


     

     その矢先であった。淑女がポンポンと手を叩いたのは。

     

    「はいはい、そこで寝たふりしている貴女。ちょっとご協力いただけませんか。交換条件は……そうですね、別の安全なねぐらと、あとどなたかは知りませんが、その人から怒られない口添えなど――わたしが直接手配はできませんが、その筋にお願いすることはできますので」

     そこまで言って、エンフィールドはにやりと笑んだ。

     

    「査察官に銃を持ち出した時点で彼はグリフィンの服務規程違反をおかしています――いまこの時点から、この基地はもう彼のものでなく、彼も指揮官の職に留まれません。貴女がたが必要としているものはもう彼から供給できない……いわば、用済みの存在です」

     

    「…………それ、ホント?」

     彼女の言葉に、のびていたはずのG11がむくりと顔をあげる。

     

     鉄錆色の目は据わっていて、眼光は抜き身の刃のように鋭い。

     

     その眼差しに、エンフィールドはうなずいてみせた。

     

     淑女の無言の返答に少女は嘆息して、

    「――いっぱい眠れるし、働かなくていいしで、よかったんだけどな……」

     愚痴まじりにつぶやくと――G11がするりと巨漢の腕から抜け出した。

     

     そのまま男が対処する暇もなく、あれよあれよと体をよじ登り、

    「よッ、と――すぐ気持ちよくなるから……暴れないで、よッ」

     脚と手を巧みに絡ませて、上半身の動きを封じると共に、首を絞め上げる。

    「――ガッ……オゴッ……な、んで、そん、な――」

     見る見るうちに男の顔が赤から紫に、そして青色に変わり。

     口から泡を吹いて、前のめりにどうと倒れ込む。

     

     G11は器用に男の背中を踏みながら降りると――

     床に足をつけるや、へたりこんだ。

     

    「ひゃあ……ちょっとヤバい系だと思ったけど、まさか人質にされちゃうかぁ」

     そうひとりごちて、少女は銀髪の乙女の様子に気づいた。

    「あれ……? 416、もしかして泣いてる?」

     

     顔をうつむけて肩を震わせていた416が、つかつかとG11の元へ歩みよった。顔を伏せたまま、へたりこんだ少女をむんずと掴み上げる。

     

    「へ……ちょ、ちょっと、ねえ……? し、心配、させちゃった?」

     恐る恐る灰色の髪の少女が訊ねると――

     

     銀髪の乙女は、がばと顔をあげた。

     怒りの形相にゆがめつつ、それでいて目にはいっぱい涙を溢れさせて。

    「バカッ! このバカッ! 一言相談なさいッ!」

     

     掴み上げた少女をぶんぶん揺すりながら、乙女はわめいた。

    「相棒でしょ! ペアでしょ! ちゃんと頼ってよ! わたしは、あなたの――」

     

     そこまで言いかけて、乙女がぐっと言葉に詰まる。

     

     少女が鉄錆色の目を数度まばたきしながら、ぼそっとつぶやいた。

    「――お姉さん?」

     

     そのフレーズを聞いた瞬間、416は噛みつくように叫んだ。

    「誰があんたの姉だあぁぁあ!」

     叫びながら、少女を抱きしめるや、おいおいと泣きだす。

     

     困り顔の少女は、傍らに立つ淑女を見上げたが――

    「はて? プライベートには干渉いたしませんよ」

     

     鮮やかに微笑まれると、もう相方が泣き止むまで待つしかなかった。

     


     

     指揮官室前でのちょっとした捕り物の――数時間後。

     

     わたしとG11は揃って基地のヘリポートにいた。

     仲良く並んで――とは、ちょっと違う。

     わたしがこのバカの首に腕を回して、肩をつかんで抱き寄せている。

     

    「……く……くるしい……」

     カエルみたいな声でG11が言ったけど、わたしはふんと鼻を鳴らした。

    「うるさい。心配かけたぶん、このままにしなさい」

     

     そう言って、抱き寄せる手に力をこめる。

     かすかに「ぐえ」とうめく声がしたけど、気にするものか。

     

     別に追い払われたわけじゃない。

     

     エンフィールドが新しい落ち着き先を探してくれる前に、隊長のUMP45から指示コールが来たのだ。現地で合流して作戦開始。いつもはそっけないコールテキストには珍しくおまけがついていて、「今度は同じ場所で休めるから安心なさい」と来た。

     

     隊長は隊長なりに、心配してくれたのかもしれない。

     あるいは、ここでの騒ぎをとうに聞きつけたのかもしれないけれど。

     

     エンフィールドは残念がっていた。

    「茶飲み友達としてはなかなか悪くなかったですよ」

     

     そう言うと、肩をすくめながら、こうも言った。

    「直後のデフラグで貴女のことは忘れるのでしょうね。もったいない」

     

     そんなことを言うものだから、わたしは言い返してやった。

    「わたしが憶えておいてやるわよ……とんだ食わせ物だわ、あなた」

    「皆、そう言うのですが――ちょっとユーモアがあるだけです」

     

     そう言うと、彼女は土産を持たせてくれた。

     パウダースタイルの即席紅茶と、甘さ控えめのビスケット。

     

     なぜか四人分揃っているあたり、どこまで知っているのか疑問に思ったけど。

     ただ、“良い人ではない”だけに、約束は守ってくれそうに感じた。

     

     きっと足跡を消したとしても――

     次に会う時は、きっとまた推測を元にズルい立ち回りをしそうだし。

     

    「……あなた、本当に添い寝してただけなんでしょうね?」

    「もぉ、何度も答えてるじゃん……抱き枕の真似ごとはしたけどさ」

    「それにしては手慣れてたし……直に調べた方がいいかしら」

     

     そう言うと、G11が「ひゃあ」と声をあげて脚をぴっちり閉じた。

    「やめてよー。そういう趣味はないんだからさ」

     

     ぼやき声で抗議すると、G11はつまらなそうな声で続けた。

    「ベルントさん、難民キャンプの警備をしていた頃に、物資と引き換えに、ある女の子と割と濃い関係だったんだよ。ただ、そのキャンプがさ……〔鉄血〕に襲われたときに、守り切れなかったみたい。同じことは繰り返したくないって、グリフィンに入ったって」

     G11が、わずかに体重を預けてきた。

     

     わたしは、それをそっと受け止めてあげた。

    「たださ……グリフィンの戦術人形って、見た目は女の子と変わらないじゃん。そういう子が次々戦場に行って、戦って帰ってくるのを見ていううちに、なんか心の傷が開いたまま血が止まらなくなったんだって。昔つきあっていた難民の子となんか似ていると感じたら、その人形を抱きしめてキスして、おいおい泣いてからじゃないと眠れなくなったんだって――可哀そうだよね。難民キャンプが襲撃された時に、戦傷で男性機能も失くして性欲の解消もできなかったんだよ」

     

     珍しく饒舌な相方の声は、でも、つまらなそうだった。

    「指揮官に向いてなかったんだね。でも、悪い人じゃなかったよ」

     

    「――あんたは、イヤじゃなかったの?」

    「こういうのは、天井を眺めながら適当に調子あわせてるうちに終わるし。向こうが満足したら、だいたい優しくしてくれるし」

     

    「……それ、どうなのよ……もうちょっと自分を大事にしなさいよ」

    「のんびりだらだらできれば、それがいいし――それに……」

     

    「それに?」

     ため息まじりに聞き返したわたしに、G11はぼそりと答えた。

    「416が同じ目にあったら、辛い思いをするからさ――そういうのはイヤだし」

     

    「はあ? なによ、それ」

    「隊長に頼まれたんだよ。416は意外と情に厚いから、間違ってそういう関係になると、いざって時に当の相手を上手く処理できないだろう、って……」

     

     なんとも腹の立つ評価を聞いて――わたしは抱き寄せている手とは反対の手で拳を作り、相方のこめかみをぐりぐりと揉んでやった。

    「いたっ……いたたっ……UMP45が言ったんだってば」

     

    「なんかムカつく。あなたもイヤって、何様よ」

     わたしが口をとがらせると、相方がかすかに身じろぎした。

     

     見ると、鉄錆色の瞳が、上目遣いでこちらを見ていた。

    「わたしが寝ると、いっつも416が怒るけどさ……それでも」

     眠そうでいてどこか据わっている目だけど――瞳がわずかに揺れている。

     

    「起こしてもらう時は、416の声がいいもん……」

     そう言って、相方がさらに体重を預けてきた。

     

    「……だから、わたし達を忘れてどっか行くのはヤだ」

     ぼそぼそと話す声は、身体を密着させているせいか――

     彼女の想いが、躯体にじかに響いて伝わってくるように感じた。

     

     わたしは、拳でいじめるのをやめると、ふわりと手を開いた。

     そのまま、指でわしゃわしゃと彼女の灰色の髪をかき回す。

     

    「どこにも行かないわよ……あなたみたいなヤツ、放っておけないもの」

     あきれ半分の言葉に、かすかに相方が笑ったように思えた。

     

     聴覚センサに、ヘリの爆音が聞こえてくる。

     乗り込めば、また死の危険と隣り合わせの、暗闇の戦場だ。

     

     戦場から戦場へ飛び――束の間、〔止まり木〕で羽を休める渡鴉(ラーヴェ)。

     それが一種の漂泊の日々だとわかっていても――

     

     粗忽な相方と共に出発を待つ時間は、とても価値ある何かに思えた。

     

     たとえ、本当の姉妹ではないとしても。

     別の形の絆か、それとも腐れ縁か。

     

     きっと、こいつとはそういうものがあると思うから。

     


     

     ところで――

     ここで会ったエンフィールドとは程なく再会することになる。

     

     しかも、彼女を従えている指揮官がおまけについてきて。

     またえらく面倒な目に遭うことになるんだけど――

     

     それはまた、別のおはなし。

     

     

    〔Ep.4 「姉妹ならぬ絆のラーヴェ」End〕

     

    〔――Next.Ep.「少女達のノーマンズランド」

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