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2020.06.22 Monday

Ep.2 困った部下への処方箋 -中編-

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    おはようございます(=゚ω゚)ノ

    こちらは本日ブログ公開のドルフロファンジンSS、

    「困った部下への処方箋」の中編となります。

     

    「ほう、前編から読むか!」というありがたいお客様は

    こちらからどうぞ

     

     

    AA-12から、人形の記憶の在り方を教えられるコリン。

    少年に迷惑をかけまいとある決心を口にする彼女だったが……

    納得いかないコリンは、意外な方法でAA-12の本心を確かめるのだった。

    その方法とは、はたして……?

     

     

    (本編は折り返し〜)


     

     マグカップにコーヒーが注がれ、黒琥珀の色からかぐわしい香りが立ち昇る。

     さらに横のお皿には、湯気がほんのりと立つマフィンが並べられていた。

     

     コリンが目を輝かせるのに、スプリングフィールドは莞爾として笑んだ。

    「おなかすいたでしょう。ちょっとした補給ですわ」

     

    「ありがとう……いただきま――」

     少年が言いかけて手を伸ばそうとした矢先、

     

    「――あぁ、あの子のフォローも疲れる……あら、お茶会なの?」

     指揮官室の扉がさっと開き、銀髪金瞳の乙女が遠慮なく入ってきた。

     

    「ちょっと、Vectorさん! 入室前にコールぐらい鳴らしてくださいな」

     

    「ああ、ごめん副官どの。考え事しながら歩いていたら、忘れてた」

     悪びれた様子もなく――そもそも表情がぴくりとも変わらないのだが――彼女はけろりとした様子で答えてみせた。

    「コーヒーにマフィン? いいわね、あたしのぶんは?」

     

    「あなた、いま来たばかりでしょう。都合よく三人めの準備なんかしてませんよ、もう。ちょっと待ってて……」

     言うや、スプリングフィールドがぱたぱたと足音を鳴らしながら給湯室へ消えていく。残された乙女はひとまず手近な椅子に座ると、テーブルの上の軽食にじいっと視線を注いでいた。

     

    「あ、あの。Vectorさん、良かったらぼくの分を半分こしませんか?」

     コリンが笑顔を向けてみせるのを、銀髪金瞳の乙女は少し見つめてから、

    「そう? じゃあ、ありがたくいただくわ」

     

     そう言うと、少年の目の前のマグカップをしれっと手に取り、遠慮もなくこくこくと飲んでみせた。コーヒーがきっちり半分の量になったマグカップを、そのままとんと少年の目の前に置く。

     

    「……マフィンは手で割ったほうがいいかしらね」

    「あああ……Vectorさあん、なんでカップから直に飲むんですかあ」

     コリンが頬を赤らめて抗議の声をあげると、乙女は目をぱちぱちさせた。

     

    「なにって、半分こでしょう?」

    「そうですけど! そうじゃなくて!」

    「なにか問題?」

    「これじゃ、その、か、かかかかか……」

    「かかか?」

    「間接キッス、になるじゃないですかあ!」

     少年がぶんぶんと腕を振りながら言う。

     

     当の乙女はといえば、理解できないという顔で小首をかしげてみせた。

    「それがどうかしたの? あたしは気にしないけど」

     

    「ぼくは気にするんです!」

    「人形は人間と違うから、雑菌がついていたりとかは心配しなくていいわ」

    「そうじゃなくて! Vectorさんは、お、おおお――」

     

     そこまで言ってコリンの羞恥心が限界を迎えた。口は「おねえさんだから」という形に動いているのだが、声は出ないまま顔を真っ赤にしている。“おすわり”が限界にきた仔犬のような有様の彼を見て、Vectorは軽く肩をすくめた。

     

    「――はい、三人目ぶんですよ……って、コリン? どうしました!?

     戻ってきたスプリングフィールドが目を剥いた。

    「Vectorさん、あなた何かしましたね!?」

     

    「何もしてないよ。コーヒーを半分ごっこしただけ」

    「ほら、何かやってるじゃないですか!」

    「何を騒いでいるのか理解できないわ」

    「はいはい、そうでしょうとも――はあ、本当にあなたは変わりませんね」

     

     鶯色の瞳を憂い半分呆れ半分に揺らして、副官はお子様指揮官の肩をたたいた。

    「ほら、コリン、しっかりして。この子のいつもの悪い癖です」

     何度も肩をぽんぽんと優しくノックされて――少年は我に返った。

     

    「……ふわあ……ぜーはー、ぜーはー」

    「気が付きました? お水持って来ましょうか?」

    「ううん……だいじょうぶ、びっくりしただけ」

     

     目を丸くしながら、呼吸を荒くしているコリンを見てVectorが言う。

    「一緒にお風呂に入ったり、同じベッドで添い寝とかしたら、ショック死しそうね」

     

     不穏当な発言に、たちまちスプリングフィールドが目を三角にした。

    「……冗談でもやったら、わたしのライフルで撃ちますよ」

     

    「そうね、気を付けるわ」

     反省しているのかどうにも窺えない銀髪金瞳の乙女。

     

     鶯色の瞳の副官が剣呑な目でにらんで、場の空気が歪むかに思えた、その時。

     

    「あ、あの――ほら、Vectorさん? AA-12さんはどうだったの?」

     遠慮がちにコリンが訊いた言葉で、緊張感がなんとか緩んだ。

     

    「……なんとか落ち着いていたし、次は頑張るって言ってたけれど……『次こそは』って聞くのはもう何回目だっけ? まあ、前線に出てくるのは彼女なりに頑張っている証拠だけど、いざ誰かを守る場面になると思い出しちゃうみたい……その――」

     

     Vectorがちらとコリンを窺う。少年がこくりと頷くと、彼女は言葉を続けた。

    「――ハワーズ指揮官の最期の様子をさ」

     それを聞いて、コリンがきゅっと唇を結んだ。

     

     スプリングフィールドが腕組みして、軽くうなってみせた。

    「やっぱり自己デフラグじゃ限界なのかしら……メーカーとまではいかないけど、グリフィン本部のメンテスタッフならなんとかしてくれるかも――すぐ手配すれば、そう、四、五日程度あれば何か改善が見込めるかもしれないけど……」

     

     そこまで言って、副官は鶯色の瞳を揺らした。

    「……そうか、ローズ指揮官のタイムリミットって、これが理由なのね」

     

    「あの――その場合、AA-12さんはどうなるんですか?」

     おそるおそる訊いたコリンに、スプリングフィールドはかすかに愁眉を見せた。

     

    「上手くすれば、トラウマに近い症状が緩和されて帰ってきます――でも、彼女のような場合、一番多く取られる手法は〔ロールバック〕になりますね」

     

    「……巻き戻し?」

    「ええ。端的に言えば、事件の起こる直前までメモリを削除します。彼女の場合、ハワーズ指揮官が目の前で亡くなったことが思考回路のノイズになっていますから、それを取り除いてあげれば、解決するはずではあるんですけど……」

     

    「あの、でも、それじゃあ!」

     いたたまれずに、コリンは声をあげた。

    「だとしたら、AA-12さんがずっと悔やんでいた時間が無駄になるじゃないですか! それだけじゃないです、ぼくが就任あいさつの時に決心して応援しようと思ってくれた、その想いまで消しちゃうことになるじゃないですか!?」

     

    「それは……そうではありますけれど――」

    「――深く考えないで。あたし達は人間ではないの。人形よ」

     スプリングフィールドの言葉を、Vectorが引き継いで言った。

     

    「メモリは単なる電子データ。感情だって模倣品。人形のライフサイクルは、自然人の生涯とはまた違うの。どこか故障があれば、取り換えが効く。それがあたし達なんだから」

     

    「でも……だとしても、ぼくがあの人の立場だったら、きっとイヤですよ……」

    「どうかな? 案外、素直に受け入れるかもよ?」

    「そんな……」

     

    「信じられないなら、自分で確かめるといい」

     Vectorはそう言うと、スプリングフィールドに顔を向けた。

    「ねえ、コーヒーを保温ポットに淹れなおして、マフィンを包んであげて。差し入れを持って来たって名目なら、この子も彼女に話しかけやすいだろうし」

     

     その提案に、副官を務める乙女は意外そうな顔を一瞬見せたが――

     すぐにうなずくと、てきぱきと立ち回って、素早く“てみやげ”を整えてみせた。

     

    「ほら、行っといで。自分で確かめるといいわ」

     銀髪金瞳に促されて、コリンはこくんと頷いた。

     

     “てみやげ”が入ったバスケットを手にして、慌て気味に扉へ向かう。

     部屋の外へ出る瞬間、少年は二人の方を振り向いて、言った。

    「ちゃんと話をしてきます――ぼくは、ここの指揮官ですから!」

     

     元気に声をあげると、ぱたぱたと足音を立てて駆けて行く。

     

    「……転ばないといいんだけど。本当に仔犬みたいよね」

     

     銀髪金瞳の乙女がそっとつぶやくのに――

     はたして、栗色の髪の副官が胡乱な視線を彼女に送った。

     

    「ねえ、Vector? あなた、どこまで意識して仕組んでいます?」

     

    「仕組む? 何を? そんな器用なことができるパーソナリティじゃないことぐらい、副官を務めてきたあなたが一番よく知っているじゃないの」

     さも当然との言葉に、鶯色の瞳の乙女はため息まじりにひとりごちた。

     

    「……そっか、自覚、ないんですね」

    「……何のはなし?」

    「いいえ、なんでもないです」

     

     スプリングフィールドは苦笑いを浮かべると、胸元にそっと手を当てた。

     


     

     目の前にずいと差し出されたバスケットを目にして、

    「あー……なんか、ごめん。コリン坊や」

     バツの悪そうな声をあげたAA-12であった。

     

     そして、彼女の言葉を聞いた少年は、軽く眉をひそめてみせた。

    「坊やじゃないです。訂正してください」

     

    「ええと……コリン君――?」

     相変わらずロリポップを咥えている目の隈美人であった。

     

     二人がいるのはレクリエーションルームの一角、休憩スペース。往時であれば賑やかであったこの区画も、戦術人形の多くが去った今では閑散としている。それでも人影がないでもないのだが――

     

    「と、とりあえずさ。バスケット置いて座りなよ。君がそのかごを両手で突き出しながら、わたしの顔とにらめっこなんて……さっきからじろじろ見られているし」

     ははは、と笑ってみせたAA-12の声はどこか乾いている。

     

    「じゃあ、そうします……お隣、失礼します」

     そう言って、彼女の隣に少年がちょこんと座った。

     

     いったんは思い切りよく腰かけたくせに、二人の距離を確かめるや、コリンは少し頬を赤くして心持ち間隔を空けた――その様子に、AA-12は内心で苦笑した。本当に女性を意識しすぎて、あまりにウブすぎる。

     

     真面目でも、女性の扱いは手慣れた感のあったエヴァンとは大違いであった。

     ただ、そんな恥ずかしがり屋が、わざわざ自分を探しに来たのだ。

     何を話しに来たのかは、AA-12には概ね検討がついていた。

     人間と人形とはいえ、少なくとも精神のオトナ具合では自分が上なのだ。

     

    「……グリフィン本部のメンテチェックの話かい?」

     ぼそっと口に出してみると、コリンがぎょっと目を丸くした。

    「え――どうして、それを……」

     

    「わたしだってさ、満足に戦えない状況のまま前線でグダグダやっていて、何にも反省していなかったわけじゃないんだぞ――メーカー送りがイヤなら、それが一番いいのかな、とは思っていた。本当はさ、前はそれも御免だったんだけど――君のために必要なら、そうした方がいいんだろうなと思ってる」

     

    「……あの、ひとつお聞きしていいですか」

    「なんだい」

    「どうして、すぐにメーカーの再調整を受けなかったんですか」

     

    「――エヴァン・ハワーズを忘れたくなかったんだ。あの人からかけてもらった言葉とか、自分で認識した感情とか、あの人の……最期の様子、とかさ」

     

    「でも、人形のメモリは、バックアップが使えるんでしょう?」

     

     コリンが不思議そうに訊ねるのに、AA-12は舌で飴を転がして言った。

    「そうだね、人間――自然人にはちょっとわからない感覚かも……ああ、そうだ。君は本を読むかな? それも物語とか、フィクションのたぐいとかさ」

     

    「はい……あの、わくわくする冒険ものとか、ちょっとドキドキします」

    「じゃあさ、その冒険小説でいいや。主人公がピンチにあったり辛い目にあう時、自分が同じ感覚になったりする? 言い直すと、自分の体験と思いこんだりとかする?」

    「えっと、感情移入とは違うんですよね? ドキドキする場面に遭遇して、自分もドキドキはしますけれど――本を閉じた後まで、自分がその世界にいるとは思わないです」

    「うん。人形のメモリ整理ってさ、実はそんな感じなんだ」

     

     目の隈美人は、ははは、と、また乾いた笑いを浮かべてみせた。

    「普段のデフラグで処理するぶんには、自分ごととして整理できる。でも、バックアップから復帰した時とか、外部から強制的にメモリを整理した時は、体験した記憶はいろんな繋がりを断たれて、単なる情報になってしまう。もちろん、後から見ることはできるよ? チェックしながら、これは自分の体験だと理解はできる。でも、それまで、なんだ。まるで本を読んでいるみたいに、他人事みたいに感じられてしまう――それが人形の記憶ってやつさ」

     

    「そんな……それって寂しくないんですか」

    「惜しむやつもいる。気にしないやつもいる。Vectorは気にしないタイプだね。あいつは自分は道具だと割り切っているから、人間みたいな悩みを持ったりしない。少なくとも、本人はそう言ってる……けど、わたしはイヤだった――だから、B122基地へ来た」

     

    「え――どういうことです?」

    「元は別の基地の所属だったんだよ。そこもアルファラインの拠点で、わたしは実戦部隊のリーダーだった。仲間を守るために、文字通り自分を盾にして戦って……その結果、何度か“死んだ”ことがある。最初はどうともなかった。けど、何度も死ぬうちに、自分の記憶がなんだかよそよそしくなっていく感じがしたんだ……自分から剥がれていくっていうのかな」

     言いながら、AA-12がまたごろと舌の上で飴を転がす。

     

     しばらく飴を歯に押し当てる軋み音をさせてから、彼女は言葉を続けた。

    「それがイヤになって、エヴァン・ハワーズ指揮官のところへ転属願いを出した。ハワーズ指揮官はさ、そのあたりを理解してくれた。つらいことなんだね、と声をかけてくれたし、現にわたしを前線に出しながら、決して死ぬような目にはあわせなかった。他の子もそれぞれに事情はあっただろうけど――あの人は、そのあたりをすり合わせて、チームとして人形を使うのが上手かった。だから、ここに来てからのわたしの記憶は自分自身のものだって、自信を持って言える」

     

     目の隈美人が、ターコイズの瞳をコリンに向ける。

     その双眸は、かすかに潤んでいた。

    「こんな言い方、お笑い草なんだけど――生きてるって、実感があったんだ」

     

     そう言った瞬間、AA-12の口内でぱきっと音がした。

     歯で飴玉を噛み割ったのだ。そのまま、ぼりぼりと咀嚼して飲み込む。

     

    「でも、だよ。乗せられたかはともかくとして、わたしは君を支えるって宣言しちゃったんだ。そう決心しちゃったんだ。だったら、手助けすると決めた人のために、自分ができる限りのことはしなきゃ――でないと、戦術人形(オンナ)がすたるってもんだ」

     

    「あの……でも、それじゃあ、ずっと大事にしてきたものが!」

     口をへの字に結んで、とがめるようでさえあるコリンの顔。

     

     そんな少年の肩に、AA-12はポンと手を置いた。

    「君みたいな子供にそんな顔させてちゃ、お姉さん失格だ。自分の始末は自分でつける――悪いんだけど、スプリングフィールドに本部メンテの手続きをとってもらうように伝えてくれない? これはさ、一介の人形が勝手に申請できないから」

     

     そう言うと、AA-12はバスケットを手に取って、立ち上がった。

    「今夜、本部行きの準備をしておくよ――いつもの深夜ラジオを聞きながら、せいぜい荷造りと気持ちの整理をしておくさ」

    「……でも、けれども……」

     

    「もう、そんな顔するなって。ただでさえ仔犬みたいなのに、お預けくらって泣きそうな顔になってるぞ、坊や――差し入れ、ありがと。部屋で頂くよ」

     そう言って、目の隈美人は少年を置いてその場を去った。

     

     去り際に、少年が洟をすする音が聞こえたように思える。

     泣かせてしまったのかもしれない。

     

     でも、その時の彼女には気遣う余裕はなかった。

     

     

     乙女のターコイズの双眸にも、涙があふれて、こぼれそうだったからだ。

     


     

     温めなおしたマフィンは美味しかった。

     ポットのコーヒーはぬるくなっていたが、なおほんのり熱を保っている。

     

     差し入れをもそもそ食べながら――その夜、AA-12はラジオを聞いていた。

     

     ベッドの枕はぐっしょり濡れそぼっていた。

     宿舎に戻ってから、わんわん泣いていたことの、物言わぬ証人だ。

     

     荷造りならとっくに済んでいる。わずかな着替えと、あとはお気に入りのキャンディを大量に詰めた鞄がベッド脇に転がっていた。元より私物を持たない性格で、給料は飴玉を買い込むのに使っていたぐらいだ。目の下の隈を消そうとしたり、肌の手入れには気を使っているが、グリフィン支給の消耗品でどうにかするタイプではあった。

     

     差し入れを総合消化器――“胃”に収めると、ベッドにごろりと横たわった。

    「これでいい……これでいいんだよ……」

     横向きに寝そべって、指で“のの字”を書きながら、彼女はひとりごちた。

     

     元より人形風情のわがままなのだ。

     戦えないままでは、コリンの役に立たない。

     

     自分の執着と、人間の子供への助力と、どちらが重いかなんて天秤にかけるまでもなく明らかなことだった。たとえ、その決心が、いまこの時点は悔いが残るとしても――措置を終えた後の自分はけろっとしているだろう。

     

     嗚呼、人形のなんと便利なことか。

     AA-12はうめくと、ベッドのシーツに顔をうずめた。

     

     

     枕元のスピーカーから、しっとりした男性の声が流れてくる。

     

    『眠れない貴方に、こんばんは。今夜の“ミッドナイト・バカンス”をお届けします。まずは音楽からお楽しみください。いまはもう亡き極東の国で生まれた歌が北米へ渡り、当時のビルボードの首位を飾ることになりました――』

     

     ほどなく、ノスタルジックでゆったりした歌が流れ始める。夜更けにふさわしい楽曲が次々と流れていき、AA-12はうつぶせのような格好のまま、耳を傾けていた。

     

    『それでは、フレンドシップカウンシルのコーナーです。人間でも人形でも、友人関係は実り多き日々を与えてくれますね。ここは素敵な友情を築くために、リスナーのお悩みを、リスナー同士のアドバイスで解決したいと願っています。それでは、最初のお便り――おや、初投稿ですね――“仔犬くんと呼ばないで”さんからです』

     

     妙ちきりんだが憶えのあるフレーズに、AA-12はがばと顔をあげた。

     

    『“わたしには、できたばかりの友人がいます。彼女にはちょっと悩みがあって、それを解決するために、わたしのそばを離れようとしています。でも、わたしはその子の悩みを自分でなんとかしてあげたいと思っています。せっかくの友達が遠くへ行くのがイヤなんです。これは、わがままなんでしょうか。その子の意思を尊重して、見送るべきなんでしょうか。でも、わたしには友人として、まだできることがあるんじゃないかと思っています。皆さんのご意見が訊きたいです”

     

    ――なるほど、ひょっとすると、新人の戦術人形さんでしょうか? さて、リスナーの方の素敵なアドバイス、投稿フォームからお寄せください』

     

     AA-12はスピーカーを睨みつけて、うなった。

     

     ただでさえ長い睫毛と目の下の隈があいまって、すさまじい目ヂカラでラジオ回線の向こうを見透かさんばかりだった――否、彼女には見えていた。本来なら寝ているべき時間に、踏んばって起きている、愛らしい顔の褐色黒髪の少年の姿が。

     

    「なんなんだ……あの子、意外とバカなのかな」

     自分で言ってみてから、いや、と思い直す。バカはバカでも、馬鹿正直とか馬鹿真面目とかそういうたぐいのバカだ。おつむの出来はいいはずなのに、それを対人関係の絡め手で使う性格ではないのだろう。

     

     否。それを感じたからこそ、自分はあの時、声をあげたのではないか。

     

     AA-12は、手を伸ばして携帯端末をつかんだ。

     端末の画面に映し出された文字は“ミッドナイト・バカンス”。

     ぽつぽつとメッセージを打ちながら、彼女は思った。

     

     投稿が採用されるかは、運の問題かもしれない。

     でも、運命の神が振ったサイコロが、その目を出すのなら――

     

     あきらめずに、彼のチャンスに賭けてみるべきかもしれない。

     

     亀の歩みのようなスピードでメッセージを打ち終えると、送信する。

     

     その途端、何か安心したのか――どっと倦怠感が押し寄せてきた。

     AA-12の思考パルスは徐々に静かになっていき、思考は眠りの淵へと落ちた。

     眠りという名のデフラグに入った後も、つけっぱなしのラジオは滔々と流れる。

     

    『……今夜の“ミッドナイト・バカンス”、いかがでしょうか? 最後に、フレンドシップカウンシルのコーナーのお便りを紹介したいと思います。お名前は“寝不足でスキンケア苦労だわ”さん。常連さんですね――

     

    “どちらが友人のためとか関係ないんじゃないでしょうか。あなたがその子のためにしたい精一杯をしてあげることが、結果的にあなた自身を助けることになります。そして、それはきっと友人なら喜ぶはずですよ”

     

    ――素敵なアドバイスですね。そろそろ夜明けです、皆様、よい一日を』

     

     

     短い睡眠を終え、携帯端末を確認したAA-12だったが――

     はたして、本部移送の連絡などこれっぽちも来ていなかった。

     

     

     そして、その次の日のことである。

     

     コリンの発案で、〔偵察任務〕が敢行されたのは。

     

    後編へ続く

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