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2020.06.29 Monday

Ep.3 クールフェイスは笑わない -中編-

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    おはようございます(=゚ω゚)ノ

    こちらは本日ブログ公開のドルフロファンジンSS、

    「クールフェイスは笑わない」の中編となります。

     

    「ほう、前編から読むか!」というありがたいお客様は

    こちらからどうぞ

     

    puppy_a_3_2.jpg

     

    過去の作戦報告からコリンが見つけた、Vectorの真の強さ。

    不和の火種を残したまま、乙女達は迎撃任務へ出発する。

    そこでコリンが彼女に託した驚くべき役割とは――

    ピンチを前に銀髪金瞳の乙女が戦場に舞う!

     

    (本編は折り返し〜)


     

    「はい、コリン。コーヒー淹れましたよ」

     スプリングフィールドがそう言って、陶器のマグカップをそっとデスクに置く。

     

     いつもなら振り向いて笑顔を見せるコリンだが、この時ばかりは違った。

     顔は画面に向いたまま、目は展開される〔ウォー・チェス〕の駒の動きから離そうとしない。

     ワンテンポ遅れて、少年は応えた。

     「ああ、うん。ありがとう……あとでいただきます」

     

     その横顔に――スプリングフィールドは思わず見とれてしまった。

     

     あどけないながらも真剣な表情には、あの人の精悍な面影が確かにあった。

     何よりも、その眼差し。一瞬たりとも何物も見落とすまいと、知性と洞察力をフル回転させて、作戦画面に見入るその眼光は、エヴァン・ハワーズのそれを思い起こさせるのに十分であった。

     

     スプリングフィールドの感情パラメータが、とくんと跳ねた。

     思わず彼女は自分の胸元に手を当てた。収められている“それ”を確かめつつ、大きくひと呼吸する。エヴァン・ハワーズは、もういない。コリンも、エヴァンその人ではない。

     

     それでも――こういう時の彼女の役割は、きっと同じだ。

     

     モニタの光を反射して、乙女の鶯色の瞳に優しい光が灯る。

     集中している殿方の邪魔にならぬよう、さりとて気が付くように――

     そっと、すべりこませるように声をかけた。

     

    「指揮官、ご休憩になさいませんか? わたしからも報告がありますから」

     そう言われて、初めて気づいた、という感じでコリンが振り向いた。

     少しあっけにとられた顔をしてから――軽く、苦笑い。

     

     そんな仕草まで本当に、亡くなったエヴァンそっくりだった、

     

    「ごめんなさい――ちょっと、はいり込んじゃっていて」

    「いいんですよ。でもコリンは無理しちゃダメです」

     スプリングフィールドは嫣然と微笑んでみせた。

     

    「とりあえずコーヒーを飲みながら、報告は聞いていてください……あ、お砂糖かなり多めにしていますよ。きっと脳が糖分ほしがっていますから」

    「ふわ……ほんとだ。すごく甘いです」

    「うふふ、ほっこりしたところで始めましょうか。隠し撮りの件です」

     乙女が話題に触れると、コリンの眉がぴんと立ったかのようだった。

     

    「実は前任のエヴァンがいた頃にひそかに監視カメラ網にバックドアがしかけられていたようです。やらかした当の人形は電子戦が得意分野ですけど、この基地がいったん清算に入った際、早々に他の基地へ転属になっています」

    「逃げた、ってことですか?」

     

    「いえ、単に戦闘でも優秀な子だったから、自分を高く評価してくれる指揮官のところへ早々に売り込みをかけたのでしょう。実際、エヴァンは自分にもしもがあったら人形達の転属先は本人の希望を尊重してほしい、と本部にかけあっていましたから。ただ――」

    「――ただ?」

     

    「当の人形が、ここを去る際に基地内フォーラムにバックドアへのアクセス法を置いていったようなんです。だから、今回の件で明らかになるまで、実は監視カメラは基地のほとんどの人形が覗き見可能な、駄々洩れ状態でした」

    「だ、駄々洩れ……」

     

     コリンの顔がたちまち赤面する。副官の乙女は慌てて言った。

    「あ、いえ、大丈夫です! 指揮官室とプライベートルームに枝はついていませんでしたから、少なくともシャワーとか寝顔とか寝起きとか、そういうものは心配ありませんから!」

     

     つまり、それ以外での基地内のあれこれは、見られ放題だったわけである。

     コリンは思わず記憶を探ろうとして――だが、やめた。恥ずかしい振る舞いがあったかどうかに限らず、戦術人形達にとっては年端のいかない可愛らしい男の子というだけで、それはもう極上のエンタメであったに違いない。

     

     世の中のお姉さんは大なり小なり、心の奥に少年愛を秘めているのだ。

     

     コリンが憮然とした顔をしていると、スプリングフィールドが続けて言った。

    「バックドア自体はすでに無効化していますし、基地内のネットワークに散らばっていた隠し撮りの画像はすべて削除しています。各人形達の携帯端末にもリモート管理で当該画像を消していっています――ただ、その……」

     

    「……人形たちが自分のメモリに入れちゃった画像でしょう?」

    「はい。一応、デフラグである程度の削除は可能なのですけれど、強制的な外部処理は悪影響も懸念されます。ですから、実際、どこまで対処できるかといえば――」

    「――いいよ、もうそのままで」

     コリンは苦笑いを浮かべて、ため息をついてみせた。

     

    「これに関しては、ぼくは自分が“可愛い仔犬ちゃん”だってことを認めないといけないみたいですから――正直、とても悔しいけれど、少なくとも“生意気なガキ”だと思われるよりもまだしもマシだって思うことにします」

     

     少年の言葉に、スプリングフィールドは目をぱちくりとさせた。

    「……ここに来た当初から、だいぶ変わりましたね、コリン」

     

    「ロロさんに毎回してやられているし、自分の未熟さを感じることが多いんだけれど……なんていうか、変なこだわりを捨てたら、ここにはすごく学べることがたくさんあるって思ったんです」

     

     そう言って、少年が再度モニタに顔を向ける。

     オニキスの瞳は好奇心と驚きできらきらと輝いていた。

     

    「あの人が言うように、宝の山です。エヴァン伯父さんは、本当にすごい」

     

     少年の言葉に、乙女も横から画面を覗き込んでみた。

     地形図は表示され、駒に見立てられた各陣営の戦力が配置される。

     赤色でそこかしこに展開しているのは〔鉄血〕。

     対して、敵陣に楔のように撃ち込まれるのがグリフィンの部隊だ。

     

    「エヴァン伯父さんのすごいところは、最低限の指示しか出していないんです」

     少年は、興奮を抑えられないように声を弾ませていた。

     

    「チームとしての目標と、各ユニットへの大まかな方針。あとは人形任せなんです。けれども、丸投げではなくて――人形が何か行動を変える時は手短に報告を挙げてくるんですけれど、伯父さんは『よろしい』の一言で応えています。もし問題があっても、頭ごなしに命令するのではなくて、優先順位を確認させて人形から自発的に変えさせるようにしています」

     

     そこまで一気に話して、少年は大きく息をついた。

    「こういう指揮は〔ウォー・チェス〕でもたまに見かけます。駒の動きをAIに任せて、大まかな“方向”だけ示すやり方。ただ、ゲームでは初心者向けというか、カジュアルに楽しみたい人向けの方法で、ランキングを狙うプレイヤーは事細かに指示を出します」

     

     言いながら、コリンがにんまりと笑みを浮かべている。

     エヴァン・ハワーズと同じ表情――思わぬ気付きを得た時の顔だ。

     

    「でも……それじゃダメなんだ――実際に戦うのは人形。戦場の空気を知っているのも人形。指揮官が気づくよりも、人形が感知する方が早いことだってある。そうだ。だから、エヴァン伯父さんは、Vectorさんに敢えてこんなポジションを――」

     画面に見入って、コリンが熱に浮かされたようにつぶやきだす。

     

     そんな少年を見て、スプリングフィールドは肩をすくめると――

     やおら、指揮官卓のチェアをくるりと回した。

     

    「ひゃあ!? な、なに?」

     突然のことに目を白黒させる少年。

     彼のおでこをつんとつついて、乙女は言った。

     

    「夢中になると時間を忘れてのめりこむのは、どの殿方も一緒ですね。熱中するのは結構ですけれど、時計を見て下さい――子供はもう寝る時間です」

     

     言われてコリンはちらと時計に目をやって、口をとがらせた。

    「まだ夜の九時じゃないですかっ」

    「もう夜の九時ですよ。シャワー浴びたりしてるうちに、十時になっちゃいます」

     

     乙女は腰に手を当てて身をかがめ、目線を合わせて少年を見つめた。

    「子供は寝るのも仕事です。ほらほら、店じまいしてください」

     

     鶯色の瞳は柔和な光を帯びつつも、有無を言わせぬ圧がある。

     彼女の双眸に思わず射すくめられ――少年は、こくりとうなずいた。

     


     

     翌朝。コリンは植物の生い茂るスペースにいた。

     

     温かみのある木製のベンチに腰かけて、待ち合わせをしているのだ。

     少年は周囲を見回してみた。ちゃんと樹が数本生え、その隙間を埋めるように草花がにぎやかに植わっている。天井は一面が明るいが、聞くところによると光ファイバーを用いて実際の日光を取り込んでいるらしい。このスペース、というよりも部屋自体が、いわば人が入れるテラリウムのようなものなのだろう。

     

    「こんなところがあるなんて……」

     少年は、思わず嘆息した。

     

     グリフィン基地でもしっかりした設備ならたまにお目にかかれる贅沢な場所のひとつ。天然物の植物を堪能できるがゆえに、かえって余人を遠ざけてしまい、本来のリラックスの用途を果たせていないここは、戦術人形の間では“聖域”とさえ呼ばれている。

     

     スライド式のドアが開く音がした。

     コリンが目を向けると、天井の灯りにさざめいて輝く銀の髪が見える。

    「……冗談でしょ? こんなところに呼び出すなんて」

     

     やってきたVectorは、どこかあきれた口調だった。

     いや、顔も声も相変わらずの不愛想ではあるのだが――

     彼女の言葉の尻尾にほのかに混じるため息が、少年にそう感じさせた。

     

    「何か、マズかったですか? リラックスして話せる場所と思ったんですけど」

    「あのね……ここの“聖域”だなんて大げさな呼ばれ方、なぜだか知っている?」

     

     コリンが目を丸くして、ふるふるとかぶりを振る。

     それを見たVectorはふんと鼻を鳴らすと、少年の隣にすとんと腰をおろした。身体と身体が触れ合うほどの近さ。小声とささやきの境界線上のような声で、静かに少年に告げた。

     

    「ここはね、人間にとっても人形にとっても、めったに拝めない自然の緑を体感できる。だから、なにか特別なことがなきゃ使っちゃいけないって不文律になっているの。そう、たとえば――恋人同士の愛の語らいとか、または指揮官と人形が誓約を結ぶ、とか」

     

    「せい……やく……」

     聞かされてコリンの目が思わず点になる。

     

    「そうよ。だからここであなたが待っているとメッセージが入った時、あたしでも三度は読み返したもの。いくら何でも早すぎない?って。たぶん分かっていないんだろうなとは見当ついていたけど」

     

     淡々と語る乙女の隣で、コリンの頬がたちまち赤くなっていく。

    「す、すみません! ぼく、ぜんぜん知らなくて、その――」

    「まあ、いいわよ。最初から期待とかしていないし」

     

     そう言ってから、乙女の金の瞳が、少年のオニキスの瞳をじっと見つめる。

    「でも、ここにわたし達がいることは見られていそうだから、変な勘違いとかされそうよね……」

     

    「わわわ! で、出ましょう! いますぐ場所を変えましょう!」

     上ずった声で少年は立ち上がったが――

     すぐに乙女が服をつかんでベンチへと引きずりおろした。

     

    「ひゃあ! な、何するんですか!」

    「どんと構えて座っていなさい。いま慌てて出ていったら、それこそ変な方へ噂がこじれるわよ。あなた、おつむは出来がいいのに、そのあたりは本当に肝が据わっていないんだから。堂々としていなさい、堂々と」

    「う……わかりました」

     

     座りなおしたコリンだが、ややあってVectorとの距離を少し空けた。

     と、すかさず彼女が詰めてくる。

     

    「あああ……なんで、なんで」

    「間を空けたら携帯端末が見えづらいでしょう。当たり前のことよ」

     

     言われてコリンは、ばつの悪そうな顔をした。

     手持ちの鞄から携帯端末を取り出すと、ワイドモードでモニタを展開する。

    「――気づいていたんですか」

     

    「というより、副官どのから教えてもらったの。あなたが昨夜、エヴァン指揮官の作戦報告にかぶりつきだったんですよ、って」

    「ううう……スプリングフィールドさんってば」

     

     悶えうめきながらも、コリンが端末を操作して、〔ウォー・チェス〕の画面を展開してみせた。表示される地形図と、駒の配置を見るや、すかさずVectorが言った。

     

    「あら、懐かしい。半年前の45戦区での作戦よね」

    「やっぱり……“分かってしまう”んですね」

     

     コリンは言いながら、端末をぽちぽちといじる。グリフィン側の青い駒に吹き出しで短いワードが添えられ、そして駒のひとつになにやら猫耳のマークがつく。

     

    「……これは?」

    「えっと、吹き出しは指揮官――エヴァン・ハワーズから受け取っている指示を表示しています。それで、このマークがついているのが、Vectorさんです」

    「どうして猫なの?」

    「えっと……なんとなく。わかりやすいかな、と。か、かわいくないですか?」

    「人形にかわいいも何もないわよ」

     

     Vectorの声はいつも通りそっけないが、少年の頬を金色の視線でちろりと撫でた。

    「ただ、仔犬くんがわたしを猫に見立てた心理は、弁明がほしいわね」

    「と、とりあえず! 画面を見ていてくださいっ」

     

     青い駒が動き出す。楔となって赤い敵性に殴り込みをかけていく。

     適宜、駒の頭に吹き出しが付く。付いた途端、駒の動きがガラッと変わる。

     やがて、十倍はある敵に対して、大した損害はなく撃退に追いやった。

     キルレートで考えれば相当な戦いぶりだ。

     

     画面を見ていたVectorが顔をあげて、少年をじっと見る。

    「これが、どうかしたの?」

     

    「あの――Vectorさん、エヴァン伯父さんから指示をもらっていませんよね?」

     

     コリンがきりと表情を改め、乙女を見つめ返す。

     オニキスの瞳は新月の夜のようであった。真っ黒な空に、知性の星が煌めく。

     

    「これだけじゃありません。他にも同じケースはいくつもありますし、指示をもらっても一回だけというケースもありました。エヴァン伯父さんの作戦報告書では、あなたのポジションは〔遊撃前衛(アサルト・ヴァンガード)〕となっていました。でも――」

     

     真剣な眼差しで、漆黒の瞳が金色の瞳を上目遣いで覗きこんだ。

    「――実際のところは〔即興前衛(アドリブ・ヴァンガード)〕と呼ぶべきじゃないんですか?」

     

     少年の言葉に、Vectorはすっと目を閉じた。

     いや――かすかにまぶたは開けている。雲の切れ間から差す陽光のように、細めた目から金色の瞳を覗かせていた。

     

    「ふうん……あなた、やっぱり大したものだわ。さすがあの人の甥っ子ね」

     

     乙女はそう言うと、足を組んで、その膝の上に手を置いてみせた。

     少しくつろいだ様子で、聞かせるような、独り言のような――そんな声を発した。

     

    「わたしはその場に応じて最善と信じる行動をとるの……予測演算を働かせ、手持ちのデータを常に参照しながら、どうすれば指揮官が判断する時間を稼げるか。それを第一に考えて動いている。エヴァン・ハワーズはそのあたりが分かっていた。『君は放し飼いにしておくことが、どうやら一番みたいだ』……これは、あの人の評価ね」

     

     乙女の隣で少年がうなずく。

     そして、言葉を発した。いささか、硬い、緊張に満ちた声で。

     

    「でも、一部のエリート人形でもない限り、そんな演算は大変です。だから、あなたに訊きたいんです――Vectorさんって、もしかして……」

     


     

     少年の問いに――乙女は、答えた。いつも通り、淡々とした声で、無感動に。

     

     だが、彼女の言葉を聞いた少年はうなずきながらも――

     大粒の涙をぽろぽろとこぼしながら、泣き出してしまったのだ。

     

     泣きじゃくる少年に、乙女は怪訝そうな顔をした。

     ただ、すべきことはわかっていたので――彼の背をそっと撫ででやった。

     

     

     

     その二日後の早朝である。

     

     要撃部隊が、出動する事態となったのは。

     


     

    「こちら〔ナイト〕。〔アグラロンド〕聞こえるか、どうぞ」

     AA-12が険しい目つきで周囲を見渡しながら、通信機に呼び掛ける。

     

     見渡すといっても戦場の様子が皆目見当がつかない状況ではあった。

     

    「こちら〔アグラロンド〕。現状を知らせてください」

     指揮官室でモニタリングしているコリンの声は、いつになく緊張している。

     監視ドローンを通じて“見て”いる彼にも、どんな状況かは分かっているのだ。

     敢えて訊いたということは、戦術人形のセンサを頼っているのだろう。

     

     だが――部隊を預かるAA-12は軽く舌打ちしてから答えた。

    「まるでミルクの中を泳いでいるみたいだ。霧だよ、それもすんごい濃霧。このへんでこれだけ立ち込めるのはかなり珍しいんだけどね。まいったな」

     

    『部隊の状況は?』

    「とりあえず普段より陣形を密にして、お互いのデータリンクが切れないようにしている――ああ、ちょっとプライベートチャンネルに切り替えていい?」

    『……どうぞ』

     

     コリンが応じて、一瞬のノイズの後、指揮官と一対一の回線に切り替わる。

     音声が漏れないように、発声機器のシグナルを通信につなげて彼女は訊いた。

     

    (心配なことが二つあるんだが、確かめていいか?)

    【なんでしょうか】

     

    (あのさ……後衛のアサルトライフル、あの二人で本当にいいのか? コリンのところに隠し撮り写真抱えてカチ込んできたバカだぞ)

    【その件ならちゃんとスプリングフィールドさんがお説教済みですし、風紀上問題があっても作戦能力的に問題がなければ、構わないと思っています】

     

    (いやまあ、正論ではあるけどさ……)

    【選り好みできるほど、B122に真っ当に戦える人形は少ない――ですよね】

     少年指揮官の落ち着いた声に、AA-12は内心でうなった。

     

     確かにその通りだ。巡回や偵察を任せられても、実際に戦闘任務をこなせるだけの練度の人形はいまのB122では数少ない。できる連中はとっくに出ていき、残ったやつらは訳あり品か、でければ転属できるほど“売り物にはならない”技量の連中。

     かろうじて一個部隊が組めていること自体、ありがたいぐらいなのだ。

     

     だが、それならそれで別の問題が出てくる。

    (じゃあ、なんであいつを〔遊撃前衛〕だと指名したんだ?)

     

     コリン自身がわざわざ宣言したのだ。

     銀髪金瞳の戦術人形に、フリーハンドの権限を与える、と。

     それを聞いて赤ベレーの乙女達はそろって不平の声をあげ、二人してVectorをじろりとにらんだのだ。当の彼女は超然と受け流していたが。

     

    【AA-12さんはおいやでしたか? 隊長である自分にも、指揮官であるぼくにも、指示を受けないポジションがあるっていうことが】

    (いや――わたしは構わないんだ。これでも、あいつとは付き合い長いんだぞ)

     エヴァンが健在な時に肩を並べて戦ったことは、二度や三度ではない。

     

     だが、赤ベレーの二人――ティスとAK-47にとっては違う。

     

    (もうちょっと部隊内の調和っていうか、気配りとかした方がいいんじゃないかってこと。ちゃんと君が手綱を握っているという証拠を示すとか、さ)

    【それでちゃんと勝てるなら……皆の強みを活かしきれるなら、そうしています】

     少年の声はきっぱりとしていて、淀みも迷いもない。

     

    【でもそうじゃない。むしろ、あの二人がVectorさんの実力をきちんと認めるのが先だと思いました――本当は一対二の模擬戦とかできればよかったんですけれど……】

     

     そこまで聞いて、目の隈美人はふっと笑った。

     長い睫毛の下のターコイズの瞳が、愉快そうに煌めく。

     

    (なんか、吹っ切れた感じだね、コリン)

    【そうですか?】

    (口ぶりがちょっとエヴァン指揮官に似てきたよ。オーケー、分かった)

     

     そこまで通信を繋いだ後、AA-12は声をあげた。

    「全周警戒! 夜間戦闘以上に視界不良だ! どこから来るか分からないぞ!」

    「イエスマム!」

     

     後衛の二人が応答してみせた矢先だった。

     


     

    「――待ってて。たぶんこのへん……あぶりだしてくるわ」

     一陣の風が吹きぬけるかのようにVectorがふわっと言うや――

     銀髪金瞳の乙女は、霧の中へ突っ込んでいった。

     

    「ああ、おい、ちょっと!」

     AA-12が声をあげるが、Vectorはもう白い闇の向こう側だ。

     背後で後衛の二人がぶつくさ文句を言うのが聞こえた。

     

     その時。

     霧の中で赤い色がいくつも広がった。

     それに続いて、銃声が何度も鳴り響く。

     Vectorの短機関銃ではない――〔鉄血〕が使う銃器の音だ。

     

    「だっ!? 本当に潜んでいたッ?」

     あっけにとられながらも、AA-12がシールドを展開する。

     

     後衛を守るように陣取りながら、号令を出した。

    「迎撃準備! たぶん1時半の方角から来るぞ!」

     

     言った矢先、霧をぶわりと裂いて、Vectorが戻ってくる。

    「あ! おまえさあ、突っ込むなら一言……」

    「11時と3時にも警戒して。連中、半包囲の態勢よ」

     文句をつけようとしたAA-12に、Vectorがすかさず答える。

     

     目の隈美人は歯噛みしながら、通信回線を呼び出した。

    「聞こえてた、コリン? ちょいとやばいぞコレ」

     

    『だいじょうぶです。Vectorさんが飛び込むだろう位置は、事前にいくつか把握していました。彼女があぶり出しに行ったということは敵の連携が乱れているはずです』

     少年の声に緊張感はあったが、戸惑いは一切なかった。

     

    『2時の方向へ全速で走って、敵の網を突破です。三百メートル走ったところで態勢を百八十度変えて、追ってくる敵をそこで撃破してください。たぶん、縦に伸びた陣形の敵を来るそばから潰していく、理想的な迎撃戦が展開できます』

     

     それを聞いて、AA-12はにやりと笑む――仔犬がいっぱしの猟犬に化けやがった。

     

    「2時の方角、全速力で突撃して敵陣突破! 心配すんな、たぶん敵の隙間だ!」

     AA-12は号令を吠えると走り出した。

     

     すぐに赤ベレーの後衛二人が追いついてくる。

     おそらく彼女達の想定を超えた展開なのだろう――戸惑い気味の声ながらも、それぞれに不満の声をあげた。

     

    「指揮官の指示もないのに敵をつつきにいくなんて!」

    「それにまたどっか行ってるぞ、あいつ!」

     

     非難の声だけは一人前の彼女達に苦笑しながらも、AA-12は答えてみせた。

    「バッカだな、あの子の動きなら、コリンは把握済みなんだ。左右を見てごらん!」

     

     促されて後衛二人が目をやり――そして、驚きの表情をみせた。

     左手の方で赤い光、焼夷手榴弾が燃え広がったかと思えば。

     その後に右手の方で短機関銃を小気味良く連射する音が聞こえる。

     

    「え……どういうこと」

    「あいつがやってる……のか?」

     

     戸惑い気味の二人の声に、AA-12はかぶせて言ってやった。

    「わたし達が挟みつぶされないように、一人でひっかきまわしているのさ!」

     

     走りながら声をあげて、活を入れる――隊長の大事な責務だ。

    「あの子が時間稼ぎしている間に距離を取るんだ! 頭から湯気吹いて追ってくる〔鉄血〕どもに、礼儀正しく鉛玉をぶちこむぞォ!」

     

    「……ハハッ。了解だ、隊長!」

    「……イエス、マム……」

     

     AK-47は快活な声で応えたが、相方のティスはどこか含むような声で応じた。

     

     

    後編へ続く

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