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2020.07.13 Monday

Ep.5 コーヒーが苦いのはイヤだから part.1 -後編-

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    おはようございます(=゚ω゚)ノ

    こちらは本日ブログ公開のドルフロファンジンSS

    「コーヒーが苦いのはイヤだから part.1」の後編となります。

     

    「ほう、前編から読むか!」というありがたいお客様は

    こちらからどうぞ

     

     

     

    乙女が少年を連れてきた思い出の場所。
    そこで明かされる、エヴァンが軍を抜けた真の理由。
    コリンとスプリングフィールドがそれぞれに思い出を確かめる中……
    そこへ突如として謎の眼帯の男が現れ――!?

     

    【作者より】
    やきもきするところで締めてますが、続きの第二部は来週更新です!
    コリン君はどうするのか? スプリングフィールドは何を想うのか?

     

     

    (本編は折り返し〜)


     

     コリンが連れてこられた場所は、集落の一角、少し開けた広場だった。

     何人かの子供たちが遊んでいるほかは、あまり人がいない。

     喧騒は近いものの、ここは比較的静かで、空気も違っているように見えた。

     

     広場の真ん中には何かの大きな石が建てられている。

     

     いや、ただの石ではない――石碑だ。

     少年は、石の表面に絵と文字が刻んであるのを見てとった。おそらくはレーザー彫刻なのだろうが、機械で精密に彫ったという感じではない。おそらくは素人に近い者が、しかしできる限り丁寧に彫りあげた――そんな印象だ。

     

     絵はシルエットだったが、コリンにはなんとなくわかった。

     おそらくは、地に突き立てたライフルと、それに被せたヘルメット。その構図の意味するところは、少年でも察することができた。ブロードキャストのドラマや映画ではしばしば登場するモチーフだ。

     

     絵の下には文字が刻んである。少年はそっと読み上げてみた。

     

     

     「国に忠を尽くし 民を守るため

      戦い そして 斃れた友たちよ

     

      彼らは忘れど

      我らは忘れじ

     

      そして思い出せ 忘れた者たちよ

      汝の糧が 彼の血で贖われたことを」

     

     

     静かに声に出してみたコリンは、隣に立つスピリングフィールドに訊ねた。

     

    「……お墓、なんですか?」

    「代わり、のようなものかもしれません」

     

     石碑を見つめながら、乙女は静かに語った。

    「ここの集落が落ち着いた頃に、エヴァンがどうしても建てたいとここの住民にかけあったんです。皆は、憶えていたくない、あの記憶は忘れたいって拒んだのですけど……」

     

     乙女は鶯色の瞳をそっと揺らした。 

    「彼が、言ったんです――『俺達が憶えておかなくて、誰が憶えておくんだ。それにこれは彼らのためだけじゃない。俺達のためでもあるんだ。彼らの命の分まで生きなきゃいけないっていう証なんだ』って……それはもう喧々諤々でした」

     

     スプリングフィールドは、そっと口元を綻ばせた。

    「でも、結局はエヴァンが正解でした。居住区に入れない人々が、ここなら戦友を弔うことができる、と……戦争中は、戦場に放置したり、適当に埋めたりでしたから。部隊の生き残りがここに弔いに来て、持っていた旗を括り付けて、そして新しい生活へ向けて再び発っていく。もと、これに名前はなかったのですけれど、いまではこう呼ばれています――」

     

     乙女がそっと言葉を発する。

     コリンの耳には、それがずしんと響くかに聞こえた。

     

    「――“憶えている(ポムニ)”、とだけ」

     

    「おぼえている、ですか……」

    「あの当時は記録もあやふやだったと聞いています。まして、新政府は彼らをなかったものとして扱おうとしました。だから、戦地で倒れた兵士をきちんとおぼえていられるのは、その当時肩を並べて戦った生き残りだけなのかもしれません」

     

    「哀しい場所……なんですね」

     コリンが素直に感想を洩らすと、乙女は苦笑いを浮かべた。

     

    「そうですよ、哀しい場所です。でもここで、エヴァンはわたしと誓約したんです」

     

     思いがけない彼女の言葉に、コリンは目をぱちぱちとさせた。

    「えっ、ここで? あの、基地の中の“聖域”じゃなくて?」

     

    「彼が何を考えてここを選んだのかは、教えてくれなかったのですけれど――」

     乙女はそっと片膝をついて身をかがめた。

     目線を少年と合わせ、鶯色の瞳が、オニキスの瞳をじっと見つめる。

     

    「――もしかしたら、戦友たちに背中を押してほしかったのかもしれません。誓約のことでは、あの人かなり悩んでいましたから」

    「悩んでいた? どうしてですか?」

     

    「たぶん……自分だけ女性と結ばれていいのか、とかそういうのだと思います。たとえその女性というのが、ひとを模した人形だったとしても」

     

     そこまで言って、乙女は少年の目の前でくすりと笑んでみせた。

    「そういえばコリンは、人形との誓約の言葉は知っていますか?」

     

    「あ……ええと、はい。グリフィンの研修で軽く教わりましたし、ブロードキャストのドラマとかでもよく出てきますよね。たしか、“DEAR MY PARTNER”でしたっけ」

    「ええ。一般的にはそうですけど……実は人形の方で変えることもできます」

     

    「……初めて聞きました」

    「まあ、手続きがいりますから、わざわざ変える子も少ないんですけど。わたしだって、自分でというよりも、エヴァンに頼まれてしぶしぶ変えたぐらいですから」

     

    「伯父さんに頼まれて?」

    「はい。どんな認証ワードか分かりますか?」

    「ええと、もっとこう、カッコいいとか、ロマンティックな、とか?」

     

     少年の言葉に、乙女は破顔してかぶりを振ってみせた。

    「そんなのじゃありませんよ。実際は――」

     

     スプリングフィールドがコリンにそっと耳打ちする。

     そのワードを聞いた少年は目を丸くして、口をぽかんと開けた。

     

    「本当ですか? 伯父さんがそんなワードを……」

    「あらあら。がっかりしましたか?」

    「……びっくりしてます」

    「でしょうね。わたしも最初はそうでしたから」

     

     スプリングフィールドは嫣然と笑ってみせた。

    「もしかすると、心の男らしさでは、コリンの方が上かもしれません」

     

     少年は一瞬はにかみ――だが自分の姿を確かめて、うんざりした声で言った。

    「あの……この格好でそんなこと言われても、うれしくないです……」

     

    「うふふっ、そうでしたね」

     乙女が鶯色の瞳を揺らして、愉快そうにささめき笑いをあげた。

     

     つられて少年もくすくすと笑いだした――その矢先だった。

     


     

    「よお。人形とガキが仲良しこよしじゃねえか」

     

     野卑な男の声。重いブーツの足音。銃火器特有の不吉な響き。

     

     二人がハッとして振り向き、乙女が少年をかばって腕を広げる。

     

     

     視界に入ってきたのは、大仰な擲弾銃を携えた、眼帯の男だった。

     


     

     その男は、野戦用のジャケットにボディアーマーをつけていた。

     使い込んだ感じはあるが、手入れが行き届いていて、くたびれた様子はまったくない。衣服ごしでも分かる隆々とした肉体が目につく。上着の袖はまくりあげて腕があらわになっていたが、みっしりと筋肉のついた腕は太く、血管が浮き出ていた。

      

     武器に頼らなくても、その腕力で実力行使ができそうである。

     

    「――おい、あれをもってこい」

     

     男がこともなげに言うと、仲間らしい別の男たちがやってきた。肩には子供をかついでいたが、その子たちには猿轡が噛まされ、後ろ手に縛られている。苦痛と恐怖に顔をゆがめる子供を二人、男たちは無造作に地面に投げ出した。うめきをあげながら子供達が転がってきて、コリンたちの傍らで止まった。

     

    「な……なんなんだ、お前ッ!」

     激したコリンが思わず声をあげるのを、スプリングフィールドが手で制した。

     

     眼帯の男は口元をゆがめて歯を見せると、少年に遠慮なく罵声を浴びせた。

    「なんだもなにもねえよ、本家筋のくせに何も知らないお子様はすっこんでろ。俺はそこの人形に用があってきたんだ――なあ、“メラニー”さんよ」

     

     その名で呼ばれて、スプリングフィールドが睨みつけた。

    「あなたの顔はメモリにありますよ、キリール。一族でも傍系筋もいいところが、いったい何の御用ですか」

     

    「ハッ! 傍系筋もいいところ、か。人形風情が言うじゃねえか」

     キリールと呼ばれた男は、せせら笑いを浮かべながら言った。

    「だが気丈な女は嫌いじゃないぜ。だから、前もって忠告してやる――俺と一緒に来い。そして一族会議の場で、俺と誓約しろ。そうしたら、だいじなだいじな、そこのお子様と、あとおまけに付けたガキどもの命は助けてやる」

     

    「お断りします、と言ったら……どうするつもりですか」

    「そりゃあ、こうするに決まってんだろ」

     

     男はそういうと、無造作に擲弾銃を構えた。

    「わかるなァ? グレネードランチャ―だ。ぶっ放すとお前ら消し飛ぶぞ。人形のお前は手足がもげても“生きていられる”が、そこのお子様やガキはどうかなァ。五体無事でも打撲のショックに耐えられるか、試してみるか、あァ?」

     

     男が嗤って顔をゆがめる。眼帯もあいまって凶相の凄みが増して見えた。

     

    「なに、難しい話じゃあない。“メラニー”、お前がおとなしく俺についてくればいいんだ。心配はいらない、行き先はハワーズ本家の邸宅だ」

     

    「――ッ。そんなこと、ゲオルギー翁がお許しには」

    「そのご老人の許可を取って、俺がここに来てるんだ、といえばどうだ?」

     

     乙女の抗弁を、キリールは一笑に付してみせた。

     

    「どのみち屋敷にいけば分かるよ――ただ、お前がごねていると、うっかりこいつの引き金をくいッとイクかもしれないがな」

     

     スプリングフィールドは、険しい顔つきのまま、そっと両手を下ろした。

     その様子を見たコリンが、声をうわずらせてうめく。

     

    「イヤだ……行っちゃダメだよ……やめてよ」

     少年の眼には、じわと涙が浮かんでいる。

     

     その様子をちらと窺った乙女は、そっとささやいた。

    「心配いりません。きっと、どこかで行き違いがあったのです。あなたは心配しないでください。何もかも解決したら、その時は――」

     

     その言葉の先を、彼女は言わなかった。

     そっと立ち上がり、両の手を背中で組むと、男に向かってゆっくりと歩きだす。

     

    「ダメだ……スプリングフィールドさん、行っちゃやだ……」

     

     コリンはぶんぶんとかぶりを振った。ウィッグがはずれ、地面にぺしゃんと落ちる。少年の嘆きに、乙女は束の間振り向き、何事かつぶやいて――そして、そのまま歩いていく。

     

    「よーしよし、それでいい。やっぱり人形ってのは従順でなきゃな……クッ、しかしなんだ。仮にもハワーズ直系ともあろう者が、こんなべそかきでしかも女装なんぞしやがって――」

     

     口元をぐにゃりと歪めて、キリールが嘲った。天を仰ぎ、うそぶくように。

     

    「――ふん、結局、エヴァンの見立ても甘かったなァ。まあ、軍を逃げて人形とおままごとにうつつをぬかすような女々しい男だ。ハワーズ本家の血も尽きたか」

     

     男は天に向かって、嗤いをうかべていた。

     だから……コリンの表情の変化に気が付かなかった。

     

     


     

     泣きべそをかいていた仔犬は一変していた。

     

     伯父であるエヴァンが軽蔑されたと感じた途端――

     少年は歯を向き、獰猛な怒りの顔を見せ、

     

    「――あああぁアァァ!!

     

     喚きとも怒鳴りともつかない声を荒げさせ、猛烈に男の脚へ突っ込んでいった。

     

     キリールは、少年の声と同時に、左手を振りかぶった。

     余裕の笑みを浮かべ、転倒させる狙いの少年を殴り倒すつもりだった。

     

     ゆえに、少年の本当の狙いに気が付かなかった。

     

     コリンが、すんでのところで身をひるがえした。次いで、跳びあがる。

     子供の跳躍だ。そこまで高く跳べるはずがない。

     

     だが、彼にとっては、擲弾銃を握っている右手に噛みつければ充分だった。

     

    「……ヴァアア!」

     男の悲鳴があがる。親指の付け根の腱をがっちり噛まれ、キリールは苦悶の悲鳴をあげた。右手を降りまわしてほどこうとするが、コリンは腕にしがみついて離れない。数秒ほど苦悶の声をあげた後、キリールがたまらず擲弾銃を手放した。

     

     すぐにコリンが男から離れ、投げ捨てられた武器へ飛びつく。

     だがそれを見て、男は怒りで赤黒くなった顔をぐにゃりとゆがめた。

     

    「ハン! だからお子様だって言うんだ!」

     コリンが擲弾銃を抱え込んだ時には、キリールは左手で拳銃を抜いていた。

     狙いをぴたりとコリンの頭に向け、睨みつけている。

     

    「なかなかどうして、ガッツがあるじゃないか。だが冷静に考えてみろ。そんなゴツい武器がお前に扱えるのか? 身の丈を知れよ、小僧。そして人生最後に学んだ代償に、てめえの可愛い顔に鉛玉をくれてやる……覚悟はいいよな?」

     

     男の凶相と鋭い視線に、だが、少年はひるまなかった。

     戦術人形達がレトリバーの仔犬と囃している彼だったが――そもそもレトリバー種は温厚ながらも立派な猟犬なのだ。歯を向き、鼻にしわを寄せ、うなりながら男をにらみつける顔は、まさしく勇猛な狩人のそれであり、そして。

     

     乙女がただの二度だけ目撃した、エヴァンの怒りの顔そのものだった。

     

    「――やめて! コリンは、彼は、ハワーズ一族のことは何も知らないの!」

     

     スプリングフィールドの必死の懇願に、キリールは唾を地面に吐き捨てた。

     

    「なら、知らないまま、エヴァンの野郎のところに送ってやるさ」

     

     男の太い指が、拳銃の引き金にかかった瞬間――

     

     

     キリールの足元を太い弾痕が抉り、次いで、遠く長く銃声が鳴った。

     


     

    『はァい、聞こえる? キリール・ノヴィコフ』

     

     声は、コリンが持参していた携帯端末から流れていた。

     どこか物憂げで、しかし、艶やかな声――DSR-50だ。

     

    『分かるわよね。一発目は警告代わりの前戯。次からがナマの本番。50口径が狙っている――“黒薔薇”ドロシーの腕前は知っているわよね? 腕がいい? 頭がいい? それとも胴の真ん中? まあ、どこ撃ってもあなたが先に死ぬわよ』

     

    「てめえ、ドロテーア!」

     キリールが忌々し気に顔をゆがめて吠えた。

    「俺を裏切るつもりか!?

     

     男の問いに、物憂げな声はため息交じりに答えた。

    『わたしはゲオルギー翁に依頼されただけ。別にあなたはクライアントではないし、ここへの座標を渡した時点で、ご老人への義理も果たしたもの。後は別のクライアントの依頼を遂行しないといけないの……その栗毛のお嬢さんは連れて行けばいいわ。でも、コリン・ハワーズを殺すことも怪我をさせることも、一切ダメ。そんなことしたら、あなたもお仲間も、洩れなく撃ち殺してあげる』

     

    「フン……人形が、人間を殺せるわけないだろ」

    『あらぁ、試してみる? わたしが“名持ち”だと、お忘れかしら』

     

     涼しい口調でDSR-50が答えるのに、キリールはまた地面に唾を吐いた。

     

    「クッ、命拾いしやがって――おい、俺はこの女を連れていく。その代わり、ガキの人形どもには手出しさせるなよ。でなかったら……わかっているな?」

     

     男の言葉に、数瞬の間をおいて回線の向こうから返事が来た。

    『……わかったわ。だったら、面倒が大きくなる前に早く行ってちょうだい』

     

     DSR-50の言葉を聞いて、キリールが仲間の男たちにあごをしゃくってみせる。

     スプリングフィールドは拘束されていないものの、肩を掴まれて歩かされていく。

     そして、彼女の背中を隠すように、キリールの背が巌のように塞いだ。

     

     少年は、唸った。また歯を向き、跳びかかろうとした矢先、

     

    『おちつきなさい、坊や。まずはあなたの身の安全を。彼女は、彼らにとっても大事な存在だから妙な真似はしないわ。だから、おちついて。いまあなたがもう一度歯向かうなら、それこそ撃ち合いになってしまう――スプリングフィールドの気遣いを無駄にするほど、あなたは聞き分けができない子じゃないでしょう?』

     

     艶やかさは変わらないが、DSR-50のなだめる声は普段の口調とは少し違っていた。しっとり湿らせたハンカチで、額の汗をそっとぬぐっていくかのような声だ。

     

     コリンは顔を伏せた。そしてうずくまると、低く嗚咽を洩らしだした。

     

     少年の眼から涙がいくつも零れていく。

     怒り、悲嘆、恐怖、落胆、そして無力感。

     

     否定的な感情の大鍋となった心から、次から次へと溢れていく。

     

     VectorとAA-12がようやくたどりついた時には――

     うずくまった少年の元には、涙で作られた染みが地面に黒々と描かれていた。

     

    《hr

     

     帰りのバギーには、誰にとっても居心地の悪い空気が漂っていた。

     住民たちの騒ぎを避けて逃げるように出てきた一行である。

     当然、来た時よりも、一人欠けた状態だ。

     

     AA-12は車両を運転しながら、飴を舐めていた。口に放り込んで数度転がしたかと思えば、ぱきぱきと噛み割って咀嚼しては飲み込み、というのを繰り返している。

     

     Vectorは不愛想な顔をさらに不機嫌のヴェールで包んで、明後日の方向を見ていた。その彼女の膝には、泣き疲れたコリンが頭をのせて横になっていた。眠ってはいないが、しゃっくりが止まらなくなった少年の頭に、乙女はそっと手を添えていた。

     

     荷台は行きと同じようにDSR-50がいたが、手錠で両手を封じられていた。コリンが判断を下せない状態だったので、AA-12が隊長権限で拘束したのだ。本人は従ってみせたとはいえ、いささか不満な様子で、さっきから文句を言っているのだが。

     

    「もぅ、わたしは少なくとも、コリン坊やの命を救ってあげたのよ?」

     

    「だけど、スプリングフィールドが連れていかれるのは見逃したし、そもそもお前がそのキーリルってやつにタレ込んだんだろうが」

    「そうしないとちょっとした“戦争”になっていたのよ。あなた達、キーリル・ノヴィコフって男を単なる暴力自慢の下種野郎と思っていない?」

    「暴力自慢の下種野郎には違いないだろ、あんなヤツ」

     

     先ほどからDSR-50とAA-12の間では、棘と針を含んだ言葉の応酬がなされていた。

     ほぼ同じ内容のことをもう五回は繰り返している。

     

     AA-12はちらと後ろを振り返ると、大きくため息をついて言った。

    「わたしばっかり文句じゃ、疲れるじゃないか。Vectorも何か言ってやれ」

     

     話を振られた銀髪金瞳の乙女は、目をぱちぱちさせた後、

    「特に、何もないけど」

     

    「……いや、こういう時にまで無関心を気取るなよ」

    「スプリングフィールドが考え無しについていったとは思えない。たぶん彼女はわたし達が知らないずっと多くのことを知っている。だから、そのあたりを知らないわたし達は、彼女の判断を是とも非ともできないわ――ただ」

    「ただ、なんだよ?」

     

    「この女がコリンの身の安全を請け負った相手によっては、割とすっぱり話が収まるかもしれない。ねえ、DSR-50。基地につく前に、せめてそれだけ教えてちょうだい」

     

     Vectorの問いに、黒髪の美女はため息をついてから、ぼそりと言った。

     

    「依頼主は、ジェラルド・ハワーズ。コリン坊やのお父様よ」

     

     その名前に、ダウンしていた少年のしゃっくりが止まった。

     顔を覆っていた手をそろそろと除けると、涙にぬれたオニキスの瞳が現れる。

     

     少年は、か細い声で訊ねた。

    「この件……僕の家と、どんな関係があるっていうんですか」

     

     その問いに、黒髪美女は目を細めて答えてみせた。

     

    「基地に着いたら分かるわ。お節介な人があなたとの通信を待っているもの」

     

    《hr

     

     B122基地に帰投したコリンは、ひとまずシャワーを浴びて着替えた。

     

     グリフィンの制服を着こむのはもどかしかったので、ラフにTシャツとショートパンツだけ着てプライベートルームを出る。

     

     扉をあけて部屋の外へ出ると、なぜかVectorが待っていた。

     少年のいでたちを一瞥すると、無言で頭から大きめのパーカーを羽織らせてきた。

     

     Vectorをお供に指揮官室へ入ったコリンを、二人の乙女が出迎える。

     AA-12は苦虫を噛んだ顔で。拘束を解かれたDSR-50はどこか涼しい顔で。

      

      

     そして――通信モニタには、案の定、予想していた顔が映っていた。

     

     白く長い癖毛、紫の瞳、飄々とした表情。

     

     少年の身に起こったことは承知のはずだが――ロロの声はいつも通りだった。

    『ンン、ずいぶんしょぼくれているね、パダワン』

     

    「あなたの冗談は笑えませんけれど」

     コリンはむすっとした声で言った。

    「でも、あの時、映画のような力があればと、本当に思いました」

     

    『ンンンッフ、あれはフィクションだから映えるものだよ。現実にあってもたぶん対抗手段は考えられてしまうし、結局、ひとにとって『最大の力こそ知なり』なんだ』

     

    「それで……あなたは何を教えてくれるんですか」

    『話せばそれなりに長くなるんだが、まずはここからだろうな』

     

     画面の向こうでロロがずいと身を乗り出した。

     

     

    『コリン。ご両親の口から“基金”という言葉を聞いたことはないかい?』

     


     

     同時刻、某所。

     

    「こちら〔エルフ〕。〔ロスロリアン〕へ報告。28戦区に入りました――あと一時間足らずでB122基地へ到着します。以上」

     

    「ふう、市街戦用装備にゲリラ戦用装備ねえ。何が始まるのよ」

    「……始まるかもしれませんし、始まらないかもしれません」

     

    「なによそれ」

    「すべて、あの男の子がどう決断するか、です。だから、場合によっては、B122までドライブして帰るだけの道中になるかも」

    「そしたら骨折り損じゃないのよ。せっかくの休暇だったのに」

    「でも……たぶん、大丈夫ですよ」

     

    「うちの指揮官をあんな目で見てくる子なんです。小さくても、子供でも、見た目が仔犬みたいでも……魂は戦士の心をもっているはずです」

     

    「……スオミ」

    「はい?」

    「言ってて恥ずかしくならない?」

     

    「い、いいじゃないですかっ。コリン君は、いい子に違いないんですし」

     

    「あら、指揮官を捨ててオトコに鞍替えなの? スオミってやらしー」

    「ご主人様という方がありながら、あなたという子は……」

    「おや、ごぞんじですか? 『バレる浮気はただの愚行』って言うのです」

     

     

    「もう! そんなのじゃありません! 早く行きますよ!」

    「はいはい、冗談だってば。みんな分かって、からかってるのよ」

     

     

     

    〔Ep.5 「コーヒーが苦いのはイヤだから」part.1 End〕

     

    〔――Next Ep.「コーヒーが苦いのはイヤだから」part.2

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