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2020.07.27 Monday

Ep.6 クールフェイスは恋しない -中編-

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    おはようございます(=゚ω゚)ノ

    こちらは本日ブログ公開のドルフロファンジンSS、

    「クールフェイスは恋しない」の中編となります。

     

    「ほう、前編から読むか!」というありがたいお客様は

    こちらからどうぞ

     

    puppy_a_6_2.jpg

     

    “幽霊”の正体を探るため、B122基地の閉鎖区画を探る一行。

    なんだかんだで良い雰囲気になったり、喧嘩になったりのコリンとVector。

    一方、スプリングフィールドが怪しい人影を追った先で見つけたものとは?

     

     

    (本編は折り返し〜)


     

     Vectorとコリンはしばらく無言のままで暗い通路を歩いていた。

     事前の説明通り、申し訳程度の照明だけが灯っている。

      

     少年は乙女についていくのが精いっぱいだった。

     Vectorは実に律動的な歩調でさっさと先へ進んでしまう。

     歩幅も足運びも彼女が上なので、勢い、少年は軽く駆け足になる。

     

     息をはずませながら、コリンは声をかけた。

    「ちょっと……ちょっと待ってくださいよぉ」

     

    「こんな暇つぶしみたいな任務、早く片づけたいの」

     銀髪金瞳の乙女は振り返りもせずに、不愛想に答えた。

     

    「はぐれたくなければ、しっかりついてきなさい」

    「意地悪しないでくださいよっ」

     

     駆け足を速めてなんとか乙女の隣まで来た少年が、上目遣いで窺った。

     乙女はちらと視線をくれただけで、素っ気なく言ってみせた。

     

    「意地悪なんてしていないわよ」

    「……じゃあ、なんでまともに話してくれないんですかっ」

    「そんな気分じゃないからよ」

    「じゃあ、どんな気分なら話してくれるんですかっ」

    「キャンキャン吠える仔犬くんが黙ってくれるなら」

    「吠えないと構ってくれないじゃないですか」

    「そんなことないわよ」

     

     乙女の言葉に、少年がむぐぐとうなりながら口をつぐむ。

     

     薄闇の通路にふさわしい静寂が戻ってきたかと思われたが――

     数分間の沈黙の後、少年はたまらず声をあげた。

     

    「ほら! 話してくれないじゃないですかっ」

     

     不機嫌極まるコリンの言葉に、乙女はわずらわしげにかぶりを振った。

    「……なんでそんなに構ってちゃんしてくるの?」

     

    「あなたが心配なんですっ」

     虚飾も欺瞞もない、真摯そのものな声。

     

     そのあまりにまっすぐな口調に――Vectorは思わず顔を向けた。

     

     軽く涙を浮かべた、オニキスの瞳。

     眉をひそめながらも、唇を固く結んでまっすぐにこちらを見つめている。

     勢いよく振られる仔犬の尻尾がついていないのが不思議に思えるほどだ。

     

     しばらく二人の視線は絡みあっていたが――

     

     根負けしたのは、はたして乙女の方だった。

     

    「……ここ最近、つれなくしているのは認めるわ」

     金色の双眸を伏せつつ、渋々ながらVectorは言った。

     

    「ただ、別に不調とかじゃないの。たぶん……」

     

    「たぶん?」

    「……戸惑っている、のかしら」

     

     言いながらもVectorは自分の言葉に自信が持てないようだった。

     

     ただ、不器用な言葉でも、少年には効果絶大とみえる。

     コリンは大きく息をつくと、かすかに笑んでみせた。

     

    「よかった。ぼく、なんか嫌われちゃったのかと思いました」

     

     少年の言葉に――だが、乙女はぷいとそっぽを向いてしまった。

     

    「……ちょ、なんですかっ。それは」

    「なんでもないわ。こっちが気になっただけ」

    「ただの壁じゃないですか」

    「そうね。たしかに、壁だわ」

     

    「――あの。ひとつだけお伝えしておきたいんです」

     少年は乙女を見上げながら、懸命に言葉を紡いだ。

     

    「スプリングフィールドさんを助けに行くときに、Vectorさんがくれた言葉が本当にうれしかったんです。アドバイスだけじゃなく、僕が腹を立ててしまった時も、きちんと叱ってくれて、その後も肩に手を置いて落ち着かせてくれまっした。あなたの言葉と手があったから、僕は踏みとどまって考えることができたんです」

     

    「……ずいぶんとおしゃべりね。今日のあなた」

     

    「『その人にとって良いことはしっかり伝えなさい』って、お母さんが」

     少年の言葉に、そっぽを向いていた乙女は、正面に顔を向けなおした。

     

     横目でちらとコリンを窺ってから、Vectorはぶっきらぼうに言った。

    「――心配をかけている、とは思っているわ」

     

     乙女の声はいつも通り不愛想で、だがいつもと違ってどこか揺れていた。

    「ただ、なにが最適解なのか、見つからないの。わたしの経験でもライブラリでも、手掛かりがなくて、どこから考えたらいいのか悩んでしまって……」

     

     Vectorの言葉にコリンはしばし考えこんでいたが――

     

     ややあって、なにかひらめいた顔をして、朗らかな声で言った。

    「じゃあ、ぼくが答え探しのお手伝いをしますよ!」

     

    「――あたしの内面の問題なのに、どう手伝うって言うの」

    「えっとですね、こうするんです」

     

     少年はにっこりと笑んでみせると、そっと手を伸ばした。

     そして、その手で乙女の手を軽く握ってみせる。

     

     突然のことに、彼女の手がぴくりと震えたが――

     

     その震えを鎮めるかのように、少年の手に軽く力がこもる。

    「この前のお礼代わりです。たぶん、人形でも効果があると思うんです」

     

     少年の声は無邪気で純真そのもので――

     

     また乙女はぷいとそっぽを向いてしまった。

     そのまま何事かつぶやいているが、少年の耳には聞こえない。

     

     コリンが不思議そうに首をかしげていると、ややあって乙女は言った。

     

    「――まあこれなら、はぐれないわね。ちゃんとついてきなさい」

     ぶっきらぼうな声に変わりはない。だが、どこか角がとれたように思える。

     

     乙女が、少しだけ歩くスピードを緩めた。

     少年が和やかに笑みながら、彼女に合わせようと懸命に足を運ぶ。

     

     

     手をつないだ二人の影が、通路の奥へと進んでいった。

     

     

     

    「ああっ、いい雰囲気じゃないですか。コリンくん、やりますね」

    「……なあ、ティス。このまあ、そっとしといてもいいんじゃないか?」

     

    「だめですよ、AA-12さん。秘密作戦は遂行中です」

    「いや、これ秘密作戦というより、覗き魔だと思うぞ……」

     

    「とんでもない! れっきとしたミッションですよ、これは」

    「なにがどのあたりがだよ」

    「肝試しには、適切なイベントが必要です」

    「だから?」

     

    「なんとなく空気が飽き気味になってきたら、仕掛けの出番です!」

    「あー……まあ副官殿も承認だから、いまさら反対しないけどさ」

     

    「えっ、なんですか。秘密作戦に何かご不満が?」

    「いや心配なのは、秘密作戦とやらが露見した時の話だよ」

     

    「……妙に深刻そうな顔してますね?」

    「あー。まあわたしから話はするけど……悪いことは言わないからさ」

     

    「はい?」

    「万が一、あいつが怒りだしたら、すぐにわたしの背後に隠れな」

     

    「どうしてです?」

    「Vectorの短機関銃なら、なんとかシールドで凌げるからだよ」

     

     

    「……あの人が激高するなんて想像できないんですけど」

     

    「バッカ。想像できないから、万一がすごく怖いんだぞ?」

     

     

     

     スプリングフィールドは黙々と歩いていた。

     肩にはライフルを提げ、右手には携帯端末を持ってにらめっこしながら。

      

     だから、二人の間の沈黙を破ったのは、同行のDSR-50である。

     

    「――アイデアとしては悪くないと思うわよ」

     しれっと黒髪美女が言ってみせるのに、栗毛の副官はため息をついた。

     

    「お見通しでしたか。あなたに知らせると面倒だから黙っていたのに」

     

    「口実がないと、坊やとお嬢さんが二人きりだなんてないもの。というより、いままでそんな状況がそもそもなかったんじゃないの?」

    「そうですね――もともと、あの子はそういうのは極端に関心が薄かったですから」

     

    「あら、エヴァン指揮官はどう接していたのよ」

    「……なにか修羅場エピソードでも期待しているんですか?」

     

     スプリングフィールドが眉をひそめると、DSR-50はかぶりを振った。

    「そんなつもりはないわよ。エヴァン・ハワーズは聞いた感じ、パートナーを大事にする人だし。あなたを念頭に置けば、浮気しても、もう少し癒し系の子を相手にしたでしょうし」

     

    「Vectorは対人関係はもちろん、自分の“人生”も興味がない感じなんです」

     栗毛の乙女は副官目線でそう言った。さながらスクールの担任教師である。

     

    「エヴァンが言っていました。『彼女は連続した“いま”を生きている。その“いま”は昨日の続きや、明日の理由でもない。ただぶつ切りにして並べただけの“いま”なんだろう』――と」

     

    「刹那的な生き方……でもないわね。反射行動でやりくりしているみたい」

    「実際、メモリのデフラグ処理は、かなり極端なことをしているようですから」

    「副官として、同僚として、アドバイスはしなかったの?」

    「何て言うんですか? 『豊かな毎日を送りなさい』と?」

     

     スプリングフィールドは肩をすくめてみせた。

    「彼女にとって何が豊かさに値するか分からないのに、押しつけはできません」

     

    「あら、具体例を示してあげなさいよ。美味しい食事、綺麗な音楽や絵画――」

     黒髪美女は指折りして挙げながら、くすりと笑んでみせた。

     

    「――それになにより、熱く焦がれる想いとか」

     

    「Vectorにとっては全部ほうきで掃いて塵箱行きですよ。『あくまで自分は道具でしかないし、道具に余計なものは要らない』を頑固なまでに貫いているのだから」

     

     スプリングフィールドの言葉に、DSR-50は「ふうん」とうなってみせた。

    「あの子にとっては、コリン坊やの“何”になりたいのかしらね。あくまでも大事に使ってくれる道具なのか、それとも一人の女の子として大切にしてほしいのか」

     

    「……あくまで、わたしの考えではあるんですけど」

     栗毛の副官は、ゆっくりと何かを確認するように言った。

     

    「Vector本人としては、前者でありたいと願っているんでしょう。けれど、コリンは自然とどちらもわきまえて、接しているように思えます。戦術人形であり、作戦における手駒。でも決して使い捨てできるものでなく、普段は年上のレディ。だから――」

     

    「――大事にされて、かえって困ってしまう、というところかしら」

    「あの子の場合は、よりアイデンティティにちかい部分が揺れていそうですけど」

     

    「だけど、よ? ポジティブにせよネガティブにせよ、その人を考えると自分が自分でいられなくなる。解決するには、自分が相手の色に染まるか、それとも相手を自分の色で染めてしまうか。そういうものでしょ……“恋愛”って」

     

     

     DSR-50の言葉に、スプリングフィールドは大きく息をついた。

     

    「やっぱり、そういう結論になりますよね」

    「あら、他に考えようがないもの」

     

    「恋というには、お互いにあやふやでぼんやりしているのが心配です」

     栗毛の乙女はそう言うと、軽くかぶりを振ってみせた。

     

    「少なくとも言えることは、Vectorの“たくさんのいま”を貫くように、コリンに対するこだわりが続いているんでしょう。自分の想いに自覚する前に、まずそこで困惑しているのかもしれません」

     

    「『戸惑えば戸惑うほど、それは愛しているということなの』……というわよ」

     ライブラリで見た誰かの言葉なのだろう。

     静かにそらんじてみせると、黒髪美女は表情を改めて言った。

     

    「ところで――調査という割には、あなたの足取りに迷いがないんだけど?」

     

     DSR-50の問いに、スプリングフィールドは軽くうなずいてみせた。

    「この件を持ち込んだのはティスなんですが、“幽霊”の正体が気になって。エヴァン指揮官の端末のデータを再度サーチしてみたんです。そしたら……」

     

    「……副官のあなたもあずかり知らぬ事案が出てきた?」

     

    「ええ。グリフィン本部の命令で、〔イセンガルド〕――S545基地から何かが運び込まれていたようなんです。指揮官のみ関知するところで、何か調べることが求められていたみたい。ただ、“何か”のカテゴリがどうもハッキリしなくて。試験運用の兵装を示すXナンバが付いていましたが、それにしては、戦術人形に付き物の装備品も見受けられました……どうにも判然としないわ」

     

    「あらまあ。本当にびっくり箱案件じゃないの」

     DSR-50があきれたように声をあげた時だった。

     

     

     行く先の通路の奥でガタッと音がした。

     

     乙女達がすかさずトーチを向けると、明かりの中に人形の脚が見えた。

     照らされたことに気づくや、駆け足で逃げ去っていく。

     

     後を追うトーチの灯りはそれの全身を捉えることはできなかったが――

     

     肩から提げるアサルトカービンが、ちらと垣間見えた。

     

    「……噂をしていたら、本当に出てきちゃうものよねぇ」

    「後を追いますよ。この先は倉庫になっているはずです」

     

    「荒事は勘弁してよ? 対物ライフルなんて持ち込めないんだから、得物はリンケージしていないサブウェポンの拳銃しかないんだもの」

    「牽制さえできれば充分です。行きますよ」

     

     

     乙女二人は顔を見合わせて頷くと、正体不明の人形の後を追って駆けだした。

     

     

     

    「ここも異状なし」

     

     携帯端末に表示された見取り図の一画。

     いままさにいるその場にチェックをつけて、Vectorは振り向いた。

     

     トーチの灯りに浮かび上がっているのは、床にへたり込んでいるコリン。

     口をあけて息を切らしている様は、さながら散歩途中でへばった仔犬だ。

     

    「……だいじょうぶ?」

     眉をひそめてVectorが訊ねると、少年は口をぱくぱくさせてから、

     

    「だって、ペースアップは、無しです、よぉ」

     あっぷあっぷで懸命になりながら答えてみせる。

     

     

     銀髪金瞳の乙女は、自分のメモリを再度呼び出してみた。

      

     確かに手をつないだ当初より、ここに来るまで徐々に歩く速度が増している。

     それなりにペースを保とうとしていたはずなのに、なぜだろうか。

     

     セルフモニタを見たところ、なぜか感情パラメータが大きく波打っている。

     おそらくはこれが原因だろう、と考え込んで――

     

     ふと気づくと、コリンが大の字になって床に倒れ込んでいた。

     ふうふうと息をしながら、時折「あー」と声をあげている。

     

     Vectorは彼のそばで身をかがめ、顔を覗き込みながら繰り返し訊ねた。

     

    「……だいじょうぶ?」

     

    「――そう、見えます?」

     訊かれた少年は、苦笑気味の顔で言ってみせた。

     

     Vectorは眉をひそめながらもかぶりを振ると、持って来た鞄を探った。

     

     取り出したのは飲用水の入った水筒である。

     少年の肩に手を入れて抱き起すと、彼の口元に水筒をあてがう。

     

     コリンは喉をごくごくと鳴らしながら水を飲んだ。いささか無理な体勢なため、口からあふれた水が、少年の襟元や乙女の袖を濡らし、床に小さな水たまりを作る。

     

     ややあって、「ぷはっ」と声を洩らして、少年は水筒から口を離した。

     大きく息をつくと、救い主の乙女に笑んでみせて、言う。

     

    「ありがとう……できれば、考え込む前にほしかったですけど」

     

    「人形は、人間みたいに喉は乾いたりしないもの」

    「そうですね――あれ? じゃあ、なんで飲み食べしてるんですか?」

     

    「ひとの真似事よ。躯体の疑似生体や人工筋肉に還元されるから、無意味じゃないけれど――バッテリーの電力で動くのが人形だもの」

     

    「ふうん……なんだか面白い話ですね」

     少年は水筒に再び口をつけて、ごくりと喉を鳴らすと、言った。

     

    「でも、運動した後に飲む水は、人形でも美味しいと思うんだけどなあ」

     

    「……そうかしら」

    「そうですよ、たぶん」

     

     コリンが微笑んでみせる。尻尾を振る仔犬のような愛くるしい笑顔。

     

     Vectorはそんな少年の顔をまじまじとみつめていたが――

     ややあって、唐突に手を伸ばして彼の水筒をつかみあげた。

     

    「ふぁ!? わわわ!」

     

     少年が目を丸くして驚く暇もなく、乙女はおむむろに水筒に口をつけた。

     ごくごくごくと威勢よく喉を鳴らして飲み干し、満足げに息をつく。

     

    「ふう。そうね――わるくはない感じ」

     

    「ああああ、なんで人の水筒を持っていくんですかあ!」

    「目の前にあったから?」

    「疑問形で言ってもダメです! 前もありましたよね、こういうの!」

    「……水筒、あたしのもあるから余裕はあるわ」

    「そういう問題じゃありません!」

    「またシェアすればいいだけじゃない」

    「そうじゃなくて、だって、か、かかか――」

    「かかか?」

     

    「――間接キスになるじゃないですかっ」

     コリンは顔を真っ赤にして言った。頭から湯気が吹きそうな勢いである。

     

     対してVectorは目をぱちぱちさせ――

     薄い桜色の唇にそっと手をあてがうと、ぼそっとつぶやいた。

     

    「……じゃあ、さっきのがコリン味?」

     

     乙女の言葉に、少年は口をぱくぱくさせながら、さらに顔を赤くした。

     

    「ぼくはフレーバーシロップじゃありません!」

     

     

     

    「ティス? あれは……揉めていると思うぞ」

     

    「ふふふ、甘いですよ、AA-12さん。『極秘恋愛指南』に寄ると――」

    「なんだその怪しげなライブラリ。どこのアングラで買ったんだ」

     

    「いいじゃないですか! ともかく――これは『雨が降れば後に晴天』です!」

    「……なんだその顔。よからぬ企みしているように見えるんだが」

     

    「失敬な! シークレットナイスアイデアですよ!」

    「具体的には?」

     

    「ふふふ、“オペレーションゴースト”発動の時です」

    「えー……気が乗らないぞ」

     

    「いまさら何を! あの二人のためじゃないですか」

    「やけに熱心だよな――なんでだよ」

     

    「……Vectorさんには、もう少し彩りのあるメモリを持ってほしいんです」

     

    「なんだかハッキリしない理由だなあ」

     

    「とにかく! ホログラム投影装置を起動してください」

     

    「ああ、まあ……一応つきあうけどさ。なあ、ティス」

    「はい?」

     

    「“ゴースト”を操作してる間、シールドに隠れておけ」

    「……あのですね、そこまで心配する必要あります?」

     

    「考えすぎかもだけど――『降れば土砂降り』って言うだろ?」

     

     

     

     一方、その頃。

     目撃した“幽霊”の後を追う二人の乙女は、がらんとした空間に出た。

     何かの倉庫なのだろうが、茫とした闇で満ちていて全容がつかめない。

     

     スプリングフィールドがライフルを構える。

     その横でDSR-50が拳銃を抜いた。

     

     栗毛の副官がトーチを掲げると――

     

     白い光が闇を退け、薄っすらと“彼女達”が照らし出された。

     

     戦術人形とおぼしき者が、四体。

     ただし、うち三体は床に座り込んだり横たわったりしている。彼女達には携行用バッテリーが繋がれており、目を閉じたままぴくりとも動かない。

     

     残る一体は他の者を守るように立っていた。

     手にしたアサルトカービンを構えているが、こちらを狙っている感じではない。

     

     そして、なにより――彼女達の後ろには異形の物体があった。

     

     人形達の脚よりなお太い、水平に据えられた円筒形の物体。

     それを支える金属の三脚。円筒の上に載っているカメラ状の大仰な装置。

     

     スプリングフィールドは、ライブラリと照合した結果に目を丸くした。

    「……対戦車ミサイル!?」

     

     驚く彼女に、唯一健在な人形が声を発した。

    「グリフィンの戦術人形ですね? われわれに積極的な敵対の意思はありません。ただしメンバーと機材を含めた“ユニット”を損なう行為には、断固として実力を行使させていただきます」

     

     毅然とした口調とは裏腹に、カービンの銃口はかすかに震えている。

     

     その様子から栗毛の副官は察した――通常の戦術人形ではない。烙印によってリンケージされているわけではなく、通常の射撃プログラムしか積んでいないのだろう。

     

     だがこの場では、まずこちらから敵意がないことを示す必要があった。

     ライフルの構えを解き、肩に提げる。

     

     そして、スプリングフィールドは敬礼して言った。

    「グリフィンB122基地、副官を務めるスプリングフィールドです。あなたたちに危害を加える意図はありません。保護を求めるなら必要な手立てを講じられます」

     

     言葉に並行して、圧縮通信を送る。

     敵味方識別、そして、グリフィンの所属や職務をコード化した情報。

     

     彼女の言葉とデータに、ほっとしたようにくだんの人形が銃を下した。

    「グリフィン本部派遣、“実験ユニットX-ATD003”であります」

     

     敬礼を返しながら告げると、少しためらいの顔を見せてから続けた。

    「本来、指揮官級でなければ情報の開示は認められませんが、ユニットのデータ保持の存続に関わるトラブルのため、情報を提供します」

     

    「……トラブル、ですか」

     

    「はい。二千四百二十九時間前より、定期的な電力供給を受けておりません。指示命令者であるハワーズ指揮官に何度もアラートを送っておりますが、回線がロックされており連絡をとることが不可能になっています。やむなく非常措置としてこの区画の照明器具より電力を携行バッテリーに充電し、ユニットのメンバーは休眠状態としましたが――」

     

     そこで、カービンの人形の瞳が揺れた。

     目にじわりと涙が浮かんでいる。

     

    「――バッテリーの使用限界を超えつつあり、メンバーへの電力供給が間もなく途絶えることが予想されます。実験部隊ですので、相応の扱いは覚悟しておりますが……同じ機材を一体となって扱うメンバーを喪失することは、実験データの活用の点から見ても望ましくなく……」

     

     そこでカービンの人形は何も言えなくなった。

     

     言葉に詰まって無言となった彼女に――

     スプリングフィールドはそっと歩みより、手を伸ばして抱きしめた。

     

    「……状況は分かりました。エヴァン・ハワーズは指示が行えない状況なので、わたしが副官権限で保護します……こんなところに置き去りにして、ごめんなさい。それから――もう、感情モジュールをオンにしていいですよ。心配ありません」

     

     その言葉に、抱きしめられた人形が大きく目を見張り――

     次いで、顔をくしゃりとゆがめた。その目からいくつも雫が零れて落ちる。

     

     人形であり、実験部隊であり、その雫が視覚素子の保護液でしかないとしても。

     仲間を案じて流すのであれば、やはり乙女の涙というべきであろう。

      

    「怖かった……こっそり廃棄処分にされたのかと……本当に不安で、不安で」

     

     泣きながら自分の肩にすがってつぶやく乙女を、スプリングフィールドは抱きしめながら優しく背中を撫でた。閉鎖区画から出れば助けを求められる。だが、グリフィン本部からの直接命令では、自己保存よりも機密保持が優先されたのだろう。

     

     来るかどうかも分からない助けを待ちつつ、仲間の命を繋ぐ。

     感情モジュールを切った人形であっても、想像を絶する孤独だ。

     

    「……それにしても、対戦車ミサイルなんて。もし当局に知られたら――」

     

    「――そう、知られたら、ただでは済まない」

     冷たい声と共に、スプリングフィールドの頸椎に硬い銃口が押し付けられる。

     

     必殺の位置で拳銃を突きつけながら、DSR-50は告げた。

     

    「これが、エヴァン・ハワーズが謀殺された理由、ということになるわ」

     

     

    後編へ続く

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