わが友マキアヴェッリ

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    わが友マキアヴェッリ―フィレンツェ存亡 (塩野七生ルネサンス著作集)
    わが友マキアヴェッリ―フィレンツェ存亡 (塩野七生ルネサンス著作集)
    塩野 七生

    これまた塩野七生女史の本。
    かのマキアヴェッリの生涯に関して書いたものです。

    「マキャベリズム」という言葉だけが先行して語られがちな彼ですが、
    本書ではその実像を活き活きと描き出しています。

    斜陽国家となって影響力を失いつつあったフィレンツェ共和国で、
    事務方の官僚として東奔西走することになったマキアヴェッリ。
    折衝に長け、観察眼も確かだった彼は、補佐官な役割ながらも
    あちこちに派遣されては任務をこなしていきます。

    そこから見えてくるのは、事務方として仕事に打ち込む男の姿。
    金でもなく名声でもなく、ただ仕事に情熱をもって臨むことができる、
    ある意味で男としては最良の環境だったといえましょう。
    その頃のフィレンツェが既に影響力をもたない小国になっていたとはいえ。

    そんな彼の人生も、四十三歳で一変。
    メディチ家がフィレンツェに戻るのをきっかけに、
    ひょんなことから公職追放の憂き目にあってしまいます。
    政治の場に身を置き、そこで活躍することに情熱を注いでいた男が、
    郊外の山荘にひきこもらざるをえない状況になってしまうのです。

    情報の飛び交う都市生活から、まったく隔絶された隠遁生活へ。
    苦悩を察してあまりあります。
    ただ、その苦悩とやりきれない熱い思いが、
    あの『君主論』『政略論』を書かせるに至ったのです。
    まったく、良きものを後世に残すことと、
    その人の人生そのものの幸せとは相容れないのか、
    つくづく考えこんでしまいます。

    本書のタイトルは「わが友マキアヴェッリ」となっていますが、
    塩野女史はことのほかマキアヴェッリに対しては思い入れがあるようで、
    思想全般にわたって影響を受けているとのことです。

    ところで、政治思想だけが知られているマキアヴェッリが、
    喜劇も書いていたとはついぞ知りませんでした。
    艶笑譚のたぐいなのですが、なかなか好評を博したそうで、
    現代でも上演されているとのこと。

    「マキャベリズム」。
    この言葉だけだと権謀術数だけにしか聞こえませんが、
    実像のマキアヴェッリは確かに血肉の通った、
    人間らしい、実に人間らしい人物でありました。
    本書はそんな彼を見事に活写しています。

    老子・荘子

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      老子・荘子 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス 中国の古典)
      老子・荘子 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス 中国の古典)
      野村 茂夫

      大学の先生に「良い本があれば紹介してくださいませ〜」と
      お願いしていて、教えてもらったのがこの本。

      全訳注でないのが少々不満ですが、
      頭からっぽにして相対するにはこの程度がいいのかもしれません。
      老子と荘子から抜粋して文章の訳と解説をつけています。

      そこで老子なのですが……ムズイ。
      曖昧模糊とした言葉の連なりで、なかなか理解しづらい部分があります。
      いわんとするところはぼんやりと分かるのですが、
      さて今の自分に必要なものかというと首をかしげてしまう始末。
      取るものがないのではなく、私の理解が足りないからでしょう。

      そんな中で「おっ」と思った言葉が次の一句。

      「信言は美ならず、美言は信ならず。
       善き者は弁ぜず、弁ずる者は善からず。
       知る者は博からず、博き者は知らず。
       聖人は積まず、既く以って人の為にし、己愈有す。
       既く以って人に与え、己愈多し。
       天の道は、利して害せず、聖人の道は為して争わず。」

      ちょいと長くなりましたが、真理は世の常識とは逆にあるということ。
      「知る者は博からず、博き者は知らず。」のくだりが
      ちょいとぐさりと来ましたね。まさにごもっとも。

      対して、荘子ですが、こちらは分かりやすい。
      何故分かりやすいかというと寓話が多いんですネ。
      なので文学的に楽しめるし、オハナシとしても理解しやすい。
      冒頭での鵬の飛翔シーンで「おおっ」とか思いました。
      荘子には色々と面白そうなネタが転がっていそうなので、
      こちらはどこからか全訳本を探して読む必要があります。

      というわけで入門な形になった本書。
      やはり全文を読まないと始まらないようです。
      さて、どこで探すかなー。

      東西不思議物語

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        東西不思議物語 (河出文庫 121A)
        澁澤 龍彦

        どっしりした料理を食べた後はデザートがほしくなるものです。

        というわけで澁澤龍彦先生に舞い戻ってきました。
        まあ、この人の本は、かのサド侯爵に関するものもあって、
        決して軽いものばかりではないんですけどね。念のため。

        さて、古今東西の「不思議な話」を集めた本書。
        読むとお話の材料になりそうなネタがあちこちてんこもりです。
        どちらかというと日本の話が多く見受けられましたが。

        個人的に面白いなあと思ったのが、ウツボ舟の話。
        海の向こうから舟にのってどんぶらこっこと何かが流れ着くというもの。
        日本は海に囲まれた国なので異界からの使者は舟でくるものなのでしょう。
        江戸時代の随筆に載せられたウツボ舟の話が紹介されていて、
        はたして乗っていた女性は何者だったかと考えてしまいます。
        ちなみにこの時のウツボ舟は結局また海へと帰したそうで。
        まあ触らぬ神にたたりなしといったところなのでしょうか。

        海の都の物語

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          海の都の物語―ヴェネツィア共和国の一千年〈上〉 (塩野七生ルネサンス著作集)
          海の都の物語―ヴェネツィア共和国の一千年〈上〉 (塩野七生ルネサンス著作集)
          塩野 七生

          海の都の物語―ヴェネツィア共和国の一千年〈下〉 (塩野七生ルネサンス著作集)
          海の都の物語―ヴェネツィア共和国の一千年〈下〉 (塩野七生ルネサンス著作集)
          塩野 七生

          ローマ帝国崩壊後からナポレオンによる占領まで、
          およそ一千年に渡って存続した、かのヴェネツィアの一大叙事詩。

          東地中海を舞台に交易を主として繁栄を極め、
          卓越した政治機構と政教分離によって自由を謳歌し、
          その一方でトルコやスペインといった強国の狭間で揺れ動き、
          波乱万丈な歴史の中でなお千年も持続できたのは驚嘆であります。

          中小の商人を保護する態度、時代の変化に応じて柔軟に変化させる姿勢、
          同じく小国といっていい日本には学ぶところ多々あるのでは
          ないでしょうか。

          個人的に面白いと思った箇所は、聖地巡礼旅行のくだりです。
          イスラム教徒のトルコと戦争やってる間であっても、
          同じイスラムのアラブとは商売のやりとりがあって、
          イェルサレムへの巡礼も変わりなく行われており、
          それがヴェネツィア人の手でパック旅行化されていたあたり、
          読んでいて思わずにやりです。

          とかく衝突しがちと思われるキリスト教圏とイスラム教圏でも、
          こういう形で接点があったのかと思うとなにやら感慨深いものが。

          あと、「むむむ」と感じてしまったのは、
          商品として奴隷がよく上げられていたこと。
          奴隷というとアメリカの歴史から黒人奴隷を連想しちゃいますが、
          どうも中世ではスラブ人が主要な仕入先だったみたいです。
          現代に生きるものとして奴隷制度は許せないものに違いないですが、
          歴史上の事実としてこうもつきつけられると、人類社会の歴史において
          奴隷というものの果たした役割に思いを馳せずにはいられません。
          現代ではかつての奴隷の役割は各種電化製品に代わられているのでしょう。
          また人身売買や奴隷同然の賃金状況で働かされている人々がいるのも現実。
          臭いものには蓋をしろ、てな観点で目をつむりがちですが、
          奴隷制度がもたらしたものについてはもっと勉強する必要がありそうです。

          コンスタンティノープルの陥落

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            コンスタンティノープルの陥落 (新潮文庫)
            コンスタンティノープルの陥落 (新潮文庫)
            塩野 七生

            ビザンティン帝国の首都、コンスタンティノープルが
            オスマントルコに陥落させられた時の経緯を、
            当事者が残した資料を元に丹念に再現してみせた本書。

            塩野七生女史の作品では割と初期に属していて、
            まだ小説と歴史の狭間を揺れ動いております。
            「ローマ人の物語」のように、ドキュメンタリー取材したかのような
            あの独特の文章にはまだ至っておりません。

            それでも描き出される情景は迫力満点で、
            実際に攻防に参加した人々の資料に目を通し、
            現在のイスタンブールへ足を運んで取材して、
            その上で空想を膨らませて描いた内容は読み応え十分。

            結局滅ぼされちゃうビザンティン側に何か共感してしまったのは、
            「滅びの美学」を求める日本人なのだなあと我ながら苦笑したのですが、
            塩野女史は攻め手であるオスマントルコもきちっと書いていて、
            そこが凡百の作家とは異なるところです。
            マホメッド二世の「あの街をください」と言うくだりなぞ、
            思わずえもしれぬ官能を感じてしまいました。凄いです。

            数百年も前の歴史ではありますが、
            これはまごうことなきキリスト世界とイスラム世界の衝突。
            現代に通じるなにがしかがあるのではないでしょうか。

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            ちなみにノックアウトされている小説はこれとは別。
            昨日に文庫四冊を一気に読み終えて続きにとりかかっています。
            基本的に「小説」はいくつも読んでいますが、
            レビューは書かないつもりでおります。
            (過去には数点書いちゃったけど)
            最終的には「面白いかどうか」の一言に帰結するものであり、
            「どう面白いのか」を分析するのは非常に大事ですが、
            ここでくどくどと並べ立てても仕方がないと思うところがあるからです。

            何を読んで研究しているのか知られると恥ずかしい、
            というのもあります、たはは(笑)
            まだまだ修行が足りませんね。根性太くなったら書くかも。

            塩野女史の本は小説ではなく、歴史として見ています。
            そのためにレビューを書く次第なのであります。

            イタリア遺聞

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              イタリア遺聞 (新潮文庫)
              イタリア遺聞 (新潮文庫)
              塩野 七生

              最近、塩野七生女史の本にどっぷり浸かっている毎日です。
              作家としてデビューしたのが私の生まれる前だと最近確認し、ビックリ。
              なるほど、「ローマ人の物語」は集大成であるわけです。

              本書『イタリア遺聞』はエッセイ集というか歴史の小ネタ集です。
              ヴェネツィアのゴンドラの色から始まり、ユダヤ人の「ゲットー」に
              関する話題を取り上げ、かつて活躍した出版業者の生涯に触れ……

              そこにあるのは、原資料から掬い上げたエピソードの数々。
              なるほど、この人の書く作品に何かしらの迫力があるとするなら、
              それは現地に赴き原資料を読み、実像に肉薄した上で書くゆえの
              凄みなのだなと実感します。

              こういうのに触れるにつけ、
              「現実」「史実」というものが持つ、圧倒的な存在感を思い知らされます。
              当たり前といえば当たり前なのですが。
              そこにあるというだけで、打ちのめされるような脅威的な何か。
              それはとても素晴らしく、とても美しく、とても残酷で、とても醜い。
              自分が書こうと考えているものが、どうにも卑小に思えます。
              とはいえ、そこですくんでいるだけでは前に進めないのですが。

              「君が読みたいと思うものを書くことから、まずは始まるんだよ」と
              かつて師匠に教わりました。足を踏み出さねば、ともかく歩けないのだな。

              さて、次は『海の都の物語』を読みたいところなのですが、
              Amazonでは新刊置いてないのですよね。書店取り寄せかなァ。

              チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷

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                チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷
                チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷
                塩野 七生

                ルネサンス期に流星のごとく現れて消えた英雄、
                チェーザレ・ボルジアの伝記であり歴史であり小説である本書。

                群雄割拠して小国乱立状態であった当時のイタリアにあって、
                王国建国を夢見て駆け抜け、そして散っていった若者の生涯を
                巧みにすくいあげています。

                法王の息子として生を受け、齢18で枢機卿となり、
                後に、ヴァレンティーノ公爵としてロマーニャ地方を次々と制し、
                その犀利な知性と政治手腕は彼のマキアヴェッリを驚嘆させ、
                時の天才レオナルド・ダ・ヴィンチとも手を組ませます。

                彼がその夢と野望を達成していれば、イタリア統一は
                近代以前に達成され、あるいはフランスと比肩する大国に
                のしあがっていたかもしれません。

                そのチェーザレですが、しかし、病が元で危地に陥り、
                危地から抜け出せないままに非業の最期を遂げます。

                運命であった、と片付ければ簡単ですが、
                私が思うにその失敗は彼の若さにあったのではないかと思います。
                チェーザレはイタリア語でカエサルの意味。

                そのユリウス・カエサルは、
                台頭するまでに四十まで待たねばなりませんでした。
                しかし、その歳月は無為の時間ではなく、豊富な人生経験を
                蓄える時間だったのではないでしょうか。

                チェーザレにはその時間がなかった。
                その若さゆえに野望に邁進できたのでしょうが、
                その若さゆえに破滅を回避できなかったように思えます。

                織田信長を引き合いに出せば、彼もまた夢半ばで倒れましたが、
                羽柴秀吉という後継者が育っていて、その跡を継ぎました。
                チェーザレには後継者を育てる時間がなかった。
                なればこそ、流星のごとく歴史に消えていったのでしょう。

                論語

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                  論語 (講談社学術文庫)
                  論語 (講談社学術文庫)
                  加地 伸行

                  いまさらながら『論語』です。
                  一週間前からちびちびと読んでいましたが、ようやく読了。
                  やっとこさレビューが書けます。ふいー。

                  なぜ『論語』なのか? ことの起こりは先日の母校訪問です。
                  お世話になっていた教授との話の中で私のメンヘル話題になり、
                  私が「人間へこんだって、そこから立ち直ればいいんですよ」と言うと、
                  教授は「それは老荘思想的な考えだね」とおっしゃられた次第。

                  そういや、大学時代に老子と真正面に向きあったことはなかったなと思い、
                  一念発起して読んでみることにしたのですが、大学時代に買った参考書を
                  いくつかひもとくと、どうやら老荘思想的な考えは昔からあったとはいえ、
                  きちんとした形として成立したのは孔子以降らしいと判明。
                  いわば孔子の胸を借りる形で老子は登場してきたのですね。

                  つまり老子をよりよく理解しようとしたら、まずは孔子を祖とする
                  儒教的な考えを踏まえておく必要があり、そこで『論語』というわけです。
                  まあ厳密にやるなら四書五経全部学ぶ必要がありますが、
                  さすがにそこまではやってられないのでとりあえず『論語』なのです。

                  というわけで『論語』なのですが、読んでみてまず思ったことが
                  「孔子の不遇っぷり」。とにかくもう仕官の口がありません。
                  魯の国に仕えた経験はありますが陪臣もいいところです。
                  あまりの不遇っぷりにろくでもないヤツが招聘してきたにも関わらず
                  それに応じようとする孔子を弟子が諌める場面もあったりします。

                  処世という面では、この孔子なる人物は下手っぴなのでしょう。
                  時は戦乱の春秋戦国時代。儒教は元々治世の思想といえるもので、
                  生き馬の目を抜くような時代では、なかなか通用しがたい部分があります。
                  ただ、そうやって不遇を味わいながらも、頑固一徹に自分の教えを通し、
                  またその教えが東北アジアの基本的な共通意識に沿っていたからこそ、
                  時を越えて伝わり、後に隆盛を極めたのでしょう。

                  ちなみに儒教が発展したのは漢が誕生した時に劉邦に仕えた
                  叔孫通なる人物の功績によるところが大きいです。
                  かの御仁は儒学者ではありますが、かなり処世には長けていて、
                  項羽と戦っていた時は乱世に強いならず者をあえて推挙し、
                  いざ漢帝国が成立して、ならず者揃いの功臣たちに頭を痛めていた
                  劉邦に「ここは儒教の出番です」と申し出て儀礼いっさいを
                  取り仕切らせて見事成功を治めたのが儒教隆盛の端緒となってます。

                  いささか話題がそれました。さて『論語』本編に話を戻すと、
                  またそこに感じられるのは、孔子の弟子に対する深い愛情です。
                  勇猛果敢な子路という人物を時にほめ時にいなし、
                  そこには長所短所をひっくるめて弟子を指導する教師としての
                  思いやりというものが感じられます。
                  また孔子最愛の弟子といわれる顔淵が亡くなった際の深い嘆きからも、
                  またその愛情がうかがえる次第です。

                  と、まあ、読んでいて、あらためて血の通った書物だと思いました。
                  寸言に心を打つ文章が随所にあり、まさしく正しく古典といえます。

                  そんな『論語』の中で、私が特に気に入った言葉が次の二つ。
                  どちらも有名な台詞ではありませんが、特にじいんときました。

                  「子曰く、約を以って之を失う者は、鮮なし。」

                  「子曰く、人の己を知らざるを患えず。其の不能を患えるのみ。」

                  どちらも孔子の言葉。

                  前者は「貧困であれば、それ以上失うものはない」という言葉。
                  ただし鮮なし(すくなし)とあるので皆無ではないのがミソ。
                  要は心根次第というわけですね。

                  後者は「他者が己の力量を知らないからといって不満を抱くな。
                  むしろ自分の力量不足に思いを致すべきだ」という言葉。
                  無闇にプライドの高い私には耳の痛い貴重なアドバイスです。

                  他にもたくさんの言葉がありましたが、なかなか全部は暗記できません。
                  ただ、何が書いてあったか薄ぼんやりと覚えておいて、
                  何かあったときにひもといて探してみるのが良い方法なのかな。

                  さて、『論語』を読み終えたところで、
                  いよいよ『老子』、および、そこから政治思想の流れを汲んでいるらしい
                  『韓非子』へと移りたいところではありますが、世の中には
                  老子の訳注本はごまんとあるわけでして、さてどれを読んでいいのやら。
                  目下、母校の教授にアドバイスをお願いしているところです。
                  適切な本が紹介されたら、またちびちびと読んでいこうと思います。

                  風の男 白洲次郎

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                    風の男 白洲次郎 (新潮文庫)
                    風の男 白洲次郎 (新潮文庫)
                    青柳 恵介

                    昨日のぼやきで「白洲次郎」の名前を出してしまったので、
                    ついでにブックレビューをしておこうと思います。
                    本来は書くはずがなかったのですが、せっかくなので。

                    昭和を駆け抜けた男、白洲次郎。
                    GHQをして「従順ならざる日本人」と言わしめた人物。
                    日本国憲法の誕生に居合わせた当事者。
                    カントリージェントルマン。

                    一言で表現するのは難しい。この本を読んでくださいとしか言えない。
                    それだけ複雑な来歴をもちながら本人は天衣無縫でしゃれた人物で
                    評伝を読んでいてすがすがしい気分にさせてくれる。

                    この人の驚くべきところは、その慧眼にある。
                    必ず日本は米国と戦争になる、そして必ず負ける、
                    負ければ真っ先に食料が不足する、そんな理屈で百姓を始めてしまう。
                    彼の予想通り、日本は太平洋戦争で全土が焦土と化した。
                    開戦の折には、当時の知識人の多くがなにやらすがすがしい思いで
                    その出来事を受け止めていたのとは大違いである。
                    見たくない現実を見るだけの見識と知性があったのだろう。

                    そんな彼の見識は、英国留学時に養われたものらしい。
                    やはり向こうの大学とこちらの大学は大いに違うものなのだ。
                    「カントリージェントルマン」という言葉からして異質なのだが、
                    その異質さ故に誰にもはばかることなく直言することができ、
                    与えられた地位に恋々とすることもなかったのだろう。

                    白洲次郎絡みなら、もう一冊、
                    『プリンシパルのない日本』という本がある。
                    これは生前の白洲次郎がいろんな雑誌に寄稿した文章をまとめたもので、
                    本の厚みこそ薄いものの、読むのに普段の三倍の労力を必要とした。
                    読みにくいのではない。言葉のひとつひとつが突き刺さり、
                    彼の生きた時代と今の日本がまるで変わってないことを痛感
                    させられるのだ。こちらに関してはレビューを書くことはないだろう。

                    サロメの乳母の話

                    0
                      サロメの乳母の話 (新潮文庫)
                      サロメの乳母の話 (新潮文庫)
                      塩野 七生

                      この本を買ったのは数年前で、読むのも四回目ぐらいになるんですが、
                      とりあえず読み返してまた面白かったのでブックレビュー。

                      歴史上の著名人
                      (といっても著者の専門上、古代かルネサンス期のヨーロッパ人になりますが)
                      の関係者から史実の裏側のエピソードを想像して語るという代物。

                      表題にもなっているサロメといえば、洗礼者ヨハネの首を所望した
                      とんでもない女てな評価がされてますが、ここで語られるサロメは
                      政治上難しい問題だったヨハネの扱いを見事な機転で解決してみせる
                      「おひいさま」の物語であります。

                      他にも面白かったのはカリグラ帝の馬、とか。
                      まあ楽しむには、各著名人がどんな人でどういう業績をあげたのか、
                      という基本知識がいりますが、それさえ押さえておけば実に豊かな
                      お話を楽しめる一冊であります。

                      塩野女史といえば『ローマ人の物語』を書き上げた方ですが、
                      今後どういった方面を切り開いていかれるかが楽しみであります。


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